2007年05月02日

やはりダグラス・サークはいい〜『悲しみは空の彼方に』『わが望みのすべて』を観て

若干時間が経ってしまいましたが、去る4月22日(日)、「オトコとオンナの映画秘湯」さんによる恒例の「ダグラス・サーク上映会」参加してきました。今回が3回目となるサーク上映会、どうやらこれで終了してしまうらしいです。私は全てに参加してきましたが、字幕なしとは言え、なかなかスクリーンで観られない作品ばかりを上映していただき、主催者の方々には感謝の言葉もありません。簡単な感想をお礼に代えさせていただきます。

悲しみは空の彼方にまずは1本目の『悲しみは空の彼方に』ですが、彼がハリウッド時代に撮った最後の作品であり、私が最も観たかった作品の一つでもあります。
原題は「Imitation of Life」で、この原題の邦訳により近い邦題を持つ『模倣の人生』という映画(1934年/ジョン・M・スタール監督)のリメイクですが、『悲しみは空の彼方に』というやや詩的な邦題も味わい深いなと思われます。

白人女優で未亡人のローラ・メレディス(ラナ・ターナー)とやはり夫に先立たれた黒人のアニー・ジョンソン(ジュアニタ・ムーア)。2人にはそれぞれ娘がいて、この2つの家族の共同生活に焦点を当てることで、サークはそれぞれが孕み持つ“偽の人生”を浮き彫りにしながら、友情や愛や別れを的確に、そして感動的に描いています。

サーク作品において鏡や窓が重要な役割を果たすのはすでに周知の通りでしょう。人物そのものをカメラに収めるだけではなく、鏡や窓(あるいは、ショーウインドウなど)に反射した人物を撮ることで、彼ら彼女らが置かれた複雑な状況や繊細な心情を切り取っているのです。
本作において印象的なのは、自らを黒人と認めず、白人になりきろうともがいたアニーの娘・サラ=ジェーンが恋人に捨てられるシーンです。肌の色に囚われて本当の人生を見つめようとしないサラ=ジェーンの哀れな姿がショーウインドウに映りこむのは、そこに映っているのがまさに“偽の人生”であることを象徴しているかのようでした(そのショーウインドウに浮かぶ「FOR RENT」という文字もまた象徴的)。
あるいは、ついに家を出て、何とか黒人であるという出自を隠蔽しつつ働いていたナイトクラブの楽屋にアニーが訪ねてくるシーンを思い出してもいいでしょう。ここでもカメラは、化粧台の鏡に映るサラ=ジェーンを映し出し、その状態で彼女に「I am white! white! white!」などと叫ばせるのです。

しかし物語の最後、母親の死をきっかけに、本当の人生に目覚める。母を乗せた霊柩車に走り寄っていく彼女の姿は感動的ですが、やはり母親が戻ってくるわけではないという残酷な事実も改めて突きつけられるでしょう。そして彼らを乗せた霊柩車が、映画の終わりに相応しく去っていく。これ以上のラストシーンはない、というくらい完璧なラストシーンだと思いました。映画は終わる、しかしその後、観る者には様々な感情が渦巻くのです。私はそれが“豊かさ”なのだと思います。

わが望みのすべてさて、もう1本の『わが望みのすべて』も蓋を開けてみると『悲しみは空の彼方に』と似た題材であることがわかりました。ここで描かれるのもやはり、“偽の人生が真の人生へと変貌していく過程”であり、ラストはハッピーエンドです。主人公である三流女優、ナオミ・マードック(バーバラ・スタンウィック)が嘗て捨て去った田舎町に帰ってきて、10年ぶりに我が家を訪れた時、彼女はやはりドアのガラス越しに失った家族を見ることしか出来なかったのであり、ここにもサーク作品におけるガラス窓の効果が見て取れます。
『悲しみは空の彼方に』に比べると、やや小品という感じでしたが、いずれにせよ、私が観てきたユニヴァーサル時代のサークはメロドラマもコメディもまったくはずさないので、別の機会にでも残りの作品を観ていければと思います。
ちなみにバーバラ・スタンウィックは『四十挺の拳銃』以来でした。

【ダグラス・サーク上映会 関連記事】
ダグラス・サークは偉大だ〜『愛するときと死するとき』と『誰かあの娘に会ったかい?』を観て
まだまだダグラス・サークを観たい〜『僕と祭で会わないかい?』『翼に賭ける命』を観て

2007年05月02日 18:39 | 映画雑記
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Comments

>yasushiさま

ご返事遅れましてすみません。
そうなんです、今回で終了のようで。仰るとおり、プリントがなかなか残っていないのかもしれませんね。
『悲しみは空の彼方に』は本当に素晴らしい映画でした。
是非CSあたりでやって欲しいですね。


Posted by: [M] : 2007年05月07日 11:12

サーク、羨ましいです!

今回で終了なんですね。一度も参加できなかったことは非常に残念です。なかなか観れる機会もないですしね。

特に『悲しみは空の彼方に』はサーク作品の中でも耳にすることが多いので、僕も凄く観てみたかったですが。

いつかいろいろ詳しく聞かせて下さいね!


Posted by: yasushi : 2007年05月03日 11:01
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