2007年01月26日

まだまだダグラス・サークを観たい〜『僕と祭で会わないかい?』『翼に賭ける命』を観て

記事を書くのが随分遅れてしまいましたが、去る21日の日曜日は、すでに一部の映画好きにはおなじみの恒例行事、「オトコとオンナの映画秘湯」さん主催の上映会に参加。前回(ダグラス・サークは偉大だ〜『愛するときと死するとき』と『誰かあの娘に会ったかい?』を観てからおよそ7ヶ月ぶりのダグラス・サーク上映会でしたが、今回は昨年よりも多くの人に主催者の思いが届いたのか、立ち見が出る大入りぶりでした。いやぁ、すばらしいですね。立ち見の方は結構つらかったでしょうが、こういう機会でもなければまず観られない作品ですから、やはり主催のeigahitokwさんらスタッフの方々に感謝すべきでしょう。そんな簡単に言ってくれるなよ、と思われるかもしれませんが、次回も楽しみにしてます。
さて、前回に続いて今回も雑感をば。

1本目は1953年に撮られた『僕と祭で会わないかい?』。前回観た『誰かあの娘に会ったかい?』に続くコメディです。
オープニングのタイトルバックなど数カットにおいてパーフォレーションが崩れていたらしく、何カットか流れてしまっていたようですが、そんなことはまるで問題にならない、何とも愉快な映画でした。ダン・デイリーとスキャットマン・クローザーズが歌いながら馬車に乗っているというファーストシーンを観てしまうと、もうそれだけで気分が高揚します。歌うといえば、中盤で2人にかくまわれていた少年・タッドが川に落ち、助け出された後おもむろに歌いだす場面がありました。スキャットマン・クローザーズはまたしてものってきたのか、途中でギターを手にして少年とはもり、その様子を呆気にとられて見つめるダン・デイリーのバストショットが2回か3回ほど挟み込まれる。今、このように、映画的には何の変哲もないけれど、しかしあまりにも不自然な唐突さも否めず、だけれどもやはり感動的というほかない場面をスクリーンで観ることは難しいのです。ダグラス・サークは偉大だという認識がすでに私にはあるからでしょうか。もちろん、それも否定は出来ませんが、やはりそれは、その場面が素晴らしい=サークが素晴らしいからだという風に納得するしかありません。少し前に観た『怪盗ルパン』だって、とくにトリッキーな演出をしているわけではなく、ごく堅実な演出とギャグをしっかりと画面に納めているという印象でしたが、しかし途轍もなく面白い。それと同じような感覚でした。このようなコメディを2本観てしまうと、ダグラス・サークと“メロドラマ”という言葉をひとまず結びつけて安住することなど到底出来ず、もう一本あるアメリカ時代のコメディをどうしても観なければという気になってきます。

続いて観た『翼に賭ける命』、これはまた随分趣の違う映画です。本来であればシネマスコープで撮られた本作、今回はトリミング版だったのですが、やはりシネマスコープならではのカメラワーク(パンを上手く使った演出など)がいくつか観られ、空中レースシーンなどは、シネマスコープで観たらまた随分違った印象だったろうなとも思われました。まぁそれは贅沢というものでしょう。
ロック・ハドソンとドロシー・マローンが眠れぬまま語り合うシーン。二人の空間的位置関係も見事で、そこでもやはり、シネスコだったらと思わずにはいられませんでしたが、遂に二人が接吻するシーンの演出はまったく見事だし、ドロシー・マローンの夫であるロバート・スタックが死ぬ間際、妻に向けて告白し熱く接吻するシーンの悲しくも官能的なショットもまた素晴らしかった。風になびくドロシー・マローンのブロンドヘアがあったからだ、ということはあの風こそが素晴らしかったんだと、今この文章を書きながら思い至った次第です。
ラスト近く、ロバート・スタックが上司に向かって一世一代の演説をぶつのですが、その内容が理解出来なかったのが残念でなりません。あそこはかなり重要な部分だったはずですから。まぁそれも贅沢過ぎるぞと言われれば、あっさりと納得するほかありません。とにかく良い映画でした。

そして、ここではその題名を出すことは出来ないもう一本の特別上映作品。これが予想をはるかに上回る傑作で、上映後、まったく言葉を失いました。
ジョン・キャラダインの好演もさることながら、やはりラストの凄惨極まりない殺戮場面の強烈なインパクト。これが本当にアメリカ映画だろうかという驚きを隠せません。恐らくもう二度と観る事が出来ない映画でしょう。この上映会に来て良かったと心から思わせる映画でした。

2007年01月26日 20:10 | 映画雑記
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Comments

>yasushiさん

たびたびどうもです。
大寺さんの上映会は、いつもチェックはしているものの、場所的な問題で一度も行けていません。これでは駄目ですね。

吉田喜重の作品は結構dvd化されていますから、是非。私も全て観ているわけではないのですが、とりあえず人に薦めるときは『秋津温泉』か『嵐を呼ぶ十八人』にしています。ご参考まで。

あ、「シネマ2」も買わないと…。


Posted by: [M] : 2007年01月29日 11:23

お忙しいところコメント返信ありがとうございます。真逆に僕が暇すぎまして・・・。

『パリのスキャンダル』は日仏横浜での大寺さんの上映会でした(厳密には上映当日は時間に間に合わず、お手伝いさせていただいているときにDVDで鑑賞したにすぎないのですが)。現在はドワイヨン特集をしているみたいです。

「吉田喜重 変貌の倫理」「表象の奈落」間違いなく買いですか。
暇すぎるわりに本が溜りすぎて、まだドゥルーズの「シネマ2」も読んでないんですが、、、いつかは読みますし早速買ってしまいましょう。これを機会に吉田喜重さんの作品も観直そうと思います。あまり見てませんし。

映画や本書をつまみに、いいですね、最高の肴ですね。


Posted by: yasushi : 2007年01月28日 11:19

>yasushiさん

コメントありがとうございます。

今年のサークは、大盛況でした。いや、本当にありがたいです。私は『パリのスキャンダル』を未見ですが(確か大寺さんの上映会でしたっけ)、今後もこうして少しずつでもサークのフィルモグラフィを埋めていければと思います。39本全て観るには、恐らく私の一生を費やさねばならないでしょうが。

吉田×蓮實のトークですが、仰るとおり「吉田喜重 変貌の倫理」と「表象の奈落」の発売記念という冠でした。無責任にも断言しますが、この本は間違いなく“買い”です。すでに読んでいる文章が含まれていようとも、やはり買わねばならないでしょう。我々の来るべき出会いには、本書を酒のつまみに語りあいたいですね。


Posted by: [M] : 2007年01月28日 07:31

昨年に引き続きのダグラス・サーク上映会でしたか。羨ましい限りでございます、と共にこの手の作品に積極的に参加する友人があまりいないので、Mさんからいろいろ聞けるのはありがたい限りです。

サークにしてもベッケルにしても、その時代からしたら遅れた評価というか発見にはなっていますが、それでも今観れるんですからありがたいことと思いたいですね。

私は今回の3作品はもちろん観れていません。サークの作品は『パリのスキャンダル』しか観ていないながらも圧倒的な面白さがあったので他作も楽しみにはしていたわけですが・・・。
公の場で上映されるのは本当に僅かな機会だけに、ありがたい企画ですね。やっているほうからしたらMさんの仰る通り、そんな簡単に言ってくれるなよ、って感じかもしれませんが、何度もやっていただきたいですね。


吉田喜重さんと蓮實重彦さんのトークショーのほうも楽しませていただきました。これは昨年発売された本「吉田喜重 変貌の倫理」のほうとも関連していたのでしょうね。
実は買おうか迷ってまして・・・もし読んでいたら、感想は大変だと思うので、買いかどうかだけでも教えていただけれると嬉しいです。


Posted by: yasushi : 2007年01月27日 08:32
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