2009年04月09日

2009年3月の映画雑感

3月の映画雑感です。
3月はほとんどの休祝日が仕事だったので、またしても数本しか観ていません。


悲夢 [キム・ギドク]
キム・ギドクの映画にしては、主人公が饒舌すぎるというのが率直な感想。さすがに『ブレス』と同様なアプローチは…と思ったかどうかはわからないが、それにしてもオダギリ・ジョーはよくしゃべる。この違和感は、異国語同士の会話への違和感ではない。
しかしながら、やはりキム・ギドクの映画だ、としか言えない映画になっているのは間違いない。
前作同様、パク・チアはなかなか強烈な印象。

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 [デヴィッド・フィンチャー]
wikipediaにおける、
「70年代にスティーブン・スピルバーグの監督デビュー作として企画されていたが、当時の特殊効果では不可能とされ断念。90年代にも同監督とトム・クルーズで再度、企画されていたが」
という記述を見て驚いた。
フィンチャーは私にとって良くも悪くも“映像派”だが、それだけではない。
ジャレッド・ハリスの好演が光っていたと思う。

彼女の名はサビーヌ [サンドリーヌ・ボネール]
本作は、サビーヌの存在(表情、声、感情の発露)が全てである。
彼女が、まだ若々しく、元気だったころの自分をテレヴィ画面を通じて観た時の姿は、到底忘れられそうに無いほど美しく、感動的だった。
確たる目的(公的機関に自閉症患者の実態を訴えること)を持って撮られた映画ではあるが、その強い思いが、時に映画を輝かせることもあるのだろう。

長江にいきる 秉愛の物語 [フォン・イェン]
理不尽な政策に翻弄される中国国民の中から、優れた映画作家が誕生してきているという事実がある。今、少なくとも2人の映画作家を思い浮かべているのだが、そこにもう一人加わることになりそうだ。彼らは何故か、映画を利用して自らの主張を強く訴えかけたりはせず、あくまで被写体とともにそこに居て、ただ彼らを見守っているように見える。だからなのか、彼らはジャーナリストが決して立ち会うことの出来ないであろう現場を目撃できるのかもしれない。その瞬間、映画は途轍もない魅力を獲得するだろう。
秉愛の過酷極まりない人生は、そのまま闘争の人生である。彼女の手に刻まれた無数の細かい皺のクローズアップが、そのことを悲痛に物語っていたように思う。

チェンジリング [クリント・イーストウッド]
今年のベスト10に間違いなく入るであろう作品。私個人の中では、『ミスティック・リバー』以来の大傑作だと思う。
ジェフリー・ドノヴァンを心から憎たらしくなったが、このような経験はここ数年間なかった。彼が『スリーパーズ』に出演していたことなどまるで覚えていなかったが、この憎たらしさは尋常ではない。ほとんど完璧な演出だとさえ思った。もちろん、ジョン・マルコビッチは言うまでもなく素晴らしい。
アンジェリーナ・ジョリーの自宅にて、ジェフ・ピアソンが弁護を引き受ける瞬間は思わず泣いてしまったが、それでも本作は闇に彩られていると言って差し支えないだろう。文字通り、トム・スターンの撮る画面は深い黒が際立っているのだ。
78歳でこんな映画を撮るとは、真に驚くべき映画作家である。もはや彼を史上最大の映画作家と呼ぶことに、何のためらいもなくなってしまった。

プラスティックシティ [ユー・リクウァイ]
ユー・リクウァイの監督作品を観るのは2本目である。『夜迷宮』は中篇でしかも台詞が無く、かなり抽象的な作品だったが、本作は長編ドラマだ。
ラスト近くの決闘シーンで、彼の持ち味が発揮されていたように思うが、それがシークエンスとしてよかったか悪かったかと聞かれると言葉に詰まる。ヴェネチアでの評価など半分は当てにならないが、今ひとつ喰い足りない映画ではあった。脚本の問題だろうか…。

今、僕は [竹馬靖具]
15人程の観客を前に、監督はおもむろにスクリーンの前に現れ、「上映前ですが、もし何か質問があれば…」というようなことを言った。確かに上映前にティーチインというのもアレだなぁと思っていると、次から次に質問が挙がった。本作が、引きこもりをテーマにしているからだろうか。映画の中身(ショットや脚本など)に関する質問が出来ないから、むしろ観客は自由に質問出来たのかもしれない。
それぞれの質問についてはあまり覚えていないが、とにかくその場に居たほとんど全員から様々な質問が挙がっていた。私は基本的に、このような場で質問をしたことがないのだが、ある質問の答えの中で監督が言ったある言葉を受け、なんとなく質問する気になった。どうやら監督は、かなり映画が好きで、映画から様々な衝撃を受けてきた結果、もし何かを表現する機会があるならそれは映画だと思っていたらしい。
予告編を観たとき、明らかにダルデンヌ兄弟のスタイルだと直感した。その段階で評価は両極端だろうと確信したのだが、とりあえず上映前に質問できる機会などそうあるわけでもないので、単刀直入に聞いてみた。あえてダルデンヌ兄弟という名前を出さず、ではもっとも衝撃を受けた作品は何か、と。映画好きであれば、この手の質問は非常に困ると経験から知っている。知っていてあえてぶつけてみたのだ。
監督からはやや意外な作品名が出てきた。しかし、最初こそ意外だったが、よくよく考えてみると合点がいった。その後、タルコフスキーやダルデンヌ兄弟の名前も挙がりはしたが、最初に挙げられた作品のことだけが今も脳裏に残っている。
そのスペイン映画は、いい意味でバランスの取れた作品だ。なるほど、結構クールな視線の持ち主だなと思う。いきなり海外に作品を出品する辺りのしたたかさも含め、今後も注目していきたい。
なお、次回作は東京を舞台にした男と女の映画らしい。

2009年04月09日 18:33 | 映画雑記
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