2006年05月22日
生まれて初めての“まともな”ベッドが、私の生活を変えつつある…
一人暮らしを始めて早や9年。
私は自宅にいるのがほとんど趣味みたいなものですから、インテリアにもそれなりの拘りがあるのですが、にもかかわらず、これまでベッドというものを購入したことがありませんでした。
その最大の理由は、ズバリ、場所を取るからなのですが、では、9年間いったいどんな物体に寝ていたのか。いくらなんでも床に直で寝ると言う選択肢はなかったので、何らかの寝具を使っていたわけですが。
所謂ベッド以外の寝具で、私が自宅に置いてもいいと思うためには、それが“片付けられる”ものでなければなりませんでした。その一点にのみ拘った挙げ句、最初の2年間はエアベッドなる代物を購入したのです。これはその名の通り、空気で出来たベッド(のようなもの)で、その構造上、非常に脆い。そして、人が来た時に片付けることが出来たのが唯一の存在意義だったこのエアベッドの寝心地は、当たり前ですが決して良いとは言えず、それが手動であろうと電動であろうと、膨らませる際の心的・物理的ストレスは予想以上で、とても都市生活者とは言えない奇妙に原始的な生活を強いられてきたのでほとほと嫌になり、結局はその部屋までも引き払うことにしたのです。別に部屋自体はいたって普通だったのですが、まぁあくまで全体感として嫌になったということで。
次に引っ越した部屋の最大の利点は、予め部屋の壁にベッドが内蔵されていたことです。
ガチャーン!…ガッチャーン…!!と仰々しい音を立てながら壁から姿を表すその内蔵ベッドには、もちろんマットレスと呼べる代物は装着されておらず、申し訳程度の万年煎餅極薄シートみたいなものがペタっとくっ付いているのみ。ほとんど鉄の骨組みの上に一枚の木を置いたような、そんな“ベッドらしからぬ”ベッドだったのです。まぁしかし、やはり普段は仕舞っておくことが出来るし、ベッドを仕舞ってしまえば、もうテレビとテーブルくらいしかないガランとした部屋だったので、しょっちゅう友人を呼ぶことが出来たのは幸いでした。そんな生活が4年ばかり続き、さてそろそろ引っ越すかなと、今住んでいるマンションを探し当てるのですが……
今の部屋はこれまでに比べいくぶんか広いので、そろそろちゃんとしたベッドでも買うか…と多少は考えましたが、やはり“慣れていない”のでしょう、またぞろ性懲りもなくエアベッドを購入、その終焉に際して、このような出来事があったのを既に読んだかたもいらっしゃるかと思います。
というわけで、多少はまともな睡眠を得るため次に購入したのは、3つに分離可能なマットレスでした。普通のマットレスと違って、これまた“片付けることが出来る”という点に拘った結果です。どうやら私は、それほどまでに部屋に家具を置くのが嫌だったということでしょうか。ともかくそのマットレスは、その通気性ゼロの構造的欠陥だけに眼をつぶれば、まぁまぁ快適な睡眠を提供してくれました。ある時は座布団のように、ある時はソファのように変幻自在なファブリックとして、それは活躍してくれもしました。しかし、例えばたまにホテルの大きなベッドに寝たりだとか、映画で男女がベッドに横たわっている絵を幾度となく見たりだとかするうち、今はどこの家にも当たり前のように存在するベッドというものに対する羨望が9年以上かけて徐々に高まっていたのでしょう。つい先日、とうとうベッドを購入する決意をしたのです。
先週の金曜日に届いたそのベッドのために、半日かけて部屋の模様替えをし、ベッドカバーやらベッドシーツやら、私にとってはほとんどありえなかった、クッションなども購入してしまう始末、“まともな”ベッドの導入がこれほど私の生活に変化を与えるとは思ってもみませんでした。その快適さは、これまでの私の睡眠を全否定しかねないほど。その代わり、ベッドに寝転がって観るエリック・ロメールはなんて素晴らしいんだ、ベッドに寄りかかって観るアニエス・ジャウィはまったく悪くない、などとほとんどこじつけとしか思えない喜びを齎してくれました。誰がどう観ても『夏物語』は素晴らしいし、誰がどう観ても『みんな誰かの愛しい人』は悪くないというのに……。
そんなこんなで先週末は、若干映画館からは遠ざかっていました。とにかく家に、いや、“ベッドのある”家にいたかったので。というわけで劇場で観たのは『ナイロビの蜂』1本のみです。最後にとってつけた感じがしないでもありませんが、この映画、なかなかの力作だったことを付け加えておきます。レイチェル・ワイズ好きであれば迷わず劇場へ、程よく省略された“ベッドシーン”だけでも必見でしょう。
2006年05月22日 18:00 | 悲喜劇的日常
Excerpt: 「ナイロビの蜂」予想以上に素晴らしい出来に感激です。 原題は「The Constant Gardener」"誠実な庭師"とかそんな意味。 ...
From: Chocolate Blog
Date: 2006.05.22
>ヴィ殿
『ラルジャン』は私も行きたいです。この特集のために、いったいどのくらい仕事を放棄すれば良いのか、考えると憂鬱になります。
>かえるさん
この情報は、mixiで知り合った映画ライター・Mouさんのブログで発見しました。下記になります。
http://blog.mousato.com/?eid=277623
ロメール、確かに渋ツタにも少ないですね。私は下のコメントにあるように、朋友・こヴィさんにより、何本か観られる予定です。BOWシリーズ、かえるさんともどこかですれ違うことでしょう。
『ナイロビの蜂』は予想以上でした。あれは普段映画を観ない人にも薦められますね。
Posted by: [M] : 2006年05月26日 12:56
こんにちは。
おっ、「BOW30映画祭」のラインナップは出ていたんですね。
どこらへんでしょう?それともネットではなくちらしでしょか?
ロメール作品はつたやんにあんまりないんですよね。
「木と市長と文化会館」はユーロスペ−スだったかの特集上映で観ましたが、えらく気に入りました。
会話な映画大好きですー。
BOW、楽しみです♪
『ナイロビの蜂』もすばらしかったです。
Posted by: かえる : 2006年05月26日 11:58
>BOW
「ラルジャン」も一回だけやりますよね(平日朝)。
エリセもスクリーンで観たい!! あー、今から興奮。。
Posted by: こヴィ : 2006年05月26日 04:12
>ヴィ殿
いつもありがとうございます。
『ナイロビ〜』のレイチェル・ワイズはかなりいいですよ。ちなみに彼女、ウォン・カーウァイの新作に出るらしいです。楽しみですね。
そうそう、シャンテの7/15から開催される「BOW30映画祭」のラインナップ、見ました? 7/19はロメール「四季の物語」が全て上映されます。朝から晩まで4本立て。これは会社を休んでしまうかも…
Posted by: [M] : 2006年05月25日 14:35
>ロメール じゃ、VHSばかりだけど今度もってきますね。
「ナイロビ」は評判いいですね。どうしようかな〜。
レイチェル・ワイズにも久しぶりに逢いたいし…。
Posted by: こヴィ : 2006年05月25日 13:02
>ヴィ殿
学生時代に『獅子座』『クレールの膝』あたりを観た記憶があるのですが…とにかく出来るだけ観たいので、次回お持ちいただければ嬉しいです。貴兄にとっては本当に今更だと思いますが、今この時を逃すとまただらだらと先延ばしされそうなので、一気に観ておきたいと思うのです。
最近特に思うのですが、やっぱり同じ監督の作品は体系的に観ていかないと駄目だな、と。私の場合極端なので…
是非お願いします!
Posted by: [M] : 2006年05月24日 10:20
「ポーリーヌ」昔CSで録ったのならありますよ(あまり画質良くない&CM入)。それで良ければ。大好きな「緑の光線」はセルビデオ持ってます。「木と市長と文化会館」もオススメ。「モード家」は傑作です(これは見てます?)。というか語りだしたら全部好きなので……(笑)。
Posted by: こヴィ : 2006年05月24日 02:39
>ヴィ殿
やっと観ました(『秋物語』はこれから)! 素晴らしいですね、あの優柔不断ぶり!96年の作品なのに、やっぱりヌーヴェルヴァーグ(青春そのものというか)なんですよね。冒頭、台詞なしのシークエンスも見事。
あの歌、ロメールが作ったんですか!? 久々にギターを手にしました。私のはエレキなので雰囲気は出ませんが。
プポーですが、私の最初は『キッドナッパー』でした。むしろそのファッションに惹かれたのが最初でしたね。
『海辺のポーリーヌ』って渋ツタに無いっすよね? 持ってます?(と、軽くおねだり)
次回までにロメールをなるべく観ておくので、次の語りテーマはロメールで!
>Chocolateさん
どうもです。そうです、家は私にとってめちゃめちゃ大事です。本当はお酒も家で飲むのが一番好きなくらい。まぁ映画は映画館が一番ですけど。
夏にもう一回マイナーチェンジするかもです(笑)
>エノキさん
いや、実はそれほど素敵なものでは……近く家飲みしましょう。その時にどんなベッドか発覚するでしょう。
ベッド到着以降、毎日快眠です。 普段無駄な買い物ばかりするワタクシですが、今回は無駄じゃなかった!
Posted by: [M] : 2006年05月23日 16:53
いいなー新しいベッド♪
[M]さんのことだから素敵なベッド買ったんでしょうね☆
9年の道のりも無駄ではなかったはず!
それでは快適な睡眠を〜。
Posted by: エノキ : 2006年05月23日 11:32
こんばんわっ。
ベッドの話、笑いながら読ませて頂きましたー。(笑)
でもわかりますよ、コレ。
私も今のところに住み始めてから模様替えをしたりとかして
部屋の居心地が良くなると何処かへ出かけたりしても
帰巣本能全開で早く家に帰ることが多くなったりして。
寝に帰るだけの家でもやっぱり住み心地とかって大事なんですねー。
「ナイロビの蜂」良かったですよねー。
一応TBさせて頂きまーす。^_^
Posted by: Chocolate : 2006年05月22日 21:40
>『夏物語』 やっと見てくれたかー! そーだよ、すごいだろー(って俺が撮ったわけじゃないけど・笑)。バカンスもの、偶然身を任せの(優柔不断とも)最高峰。最初10分ぐらい科白なしだし。そしてあれがプポーのイメージ(だったのでオゾン作にびっくり)。そしてあの歌はロメール作曲なんですよ(!)。アマンダ・ラングレに惚れたら『海辺のポーリーヌ』も見ましょう。つづいて大人の映画にして豊饒なる傑作『秋物語』も見ましょう。
Posted by: こヴィ : 2006年05月22日 20:16