2008年06月20日
『ばけもの模様』に新たな才能の萌芽を感じる
2006年/日本/93分/石井裕也
私にとって、新しい映画作家を自分の目で発見する喜びは、ことのほか大きいものです。
すでに起こってしまった奇跡を後追いで確認することも、確かに映画好きの楽しみの一つではあるし、実際、今現在私が偏愛している作家たちのほとんどは、そのようにしてしか発見出来なかったのですが、この目で同時代に生きる新たな才能を発見する瞬間というのは、それとはまた違った喜びがあるような気がします。私が今なお、映画学校や大学に通う若い人々の作品を観るようにしているのも、恐らくはそれがあるからだと言い切ってしまえるでしょう。
さて、少し前になりますが、池袋・シネマロサで「CO2 in Tokyo」という上映会に参加してきました。「CO2」は、関西発の若きシネアストたちの登竜門的プロジェクトとして、今では東京でも一部の映画好きに随分と認知されてきたようです。最近では『ジャーマン+雨』がここから出て劇場公開され、多くの注目を集めるに至りました。
私が今回の「CO2 in Tokyo」で観た作品はたった2本だけでしたが、この時に観た内の一本が、石井裕也監督の『グレートブリテン』という作品だったのです。このたった10分しかない、馬鹿馬鹿しさとふてぶてしさと、何より若さに溢れた作品を観て、石井裕也にかなり大きな期待を抱くようになりました。
そもそも、最初の作品『剥き出しにっぽん』が、大阪芸大の「第24回そつせい祭」でグランプリをとり、続いて「第29回ぴあフィルムフェスティバル」でもグランプリをとったということで、その名前には注目していたものの、それはあくまで実体を伴わない期待というものでした。それが『グレートブリテン』によって、ひとまず、実体を伴ったということです。
そして先日、長編4作目にあたる『ばけもの模様』を鑑賞。どうせ同時代の監督であれば、せめて第一作目から順に観たかったのですが、なかなか折り合いがつかず、このような形に。主演に大鳥れい、脇に桂都んぼ、潮見諭、稲川実代子らで固めた本作ですが、恐らくそれなりに有名だったであろう彼らに対する知識が皆無だった私にしてみれば無名の俳優に等しいわけで、その点ではいかなる期待も抱きはしませんでした。
この映画、ところどころで、ほとんど悪ノリともとれるほど羽目を外しているのですが、結構真面目な映画です。ほどほどにプロっぽい演技も観られ(当然といえば当然ですが)、結末も悪くない。実を言うと、鑑賞直後は、かなりヤバイ才能が出てきたと孤独に狂喜乱舞しつつ池袋をスキップしながら歩いたのですが、今は少し落ち着いていて、石井監督に対する評価は、たとえdvdででも全部観てからにしようと心に決めました。ただし、これは今でも言えることですが、こんな映画を20代前半で作ったということは、やはり驚くべきことだなぁ、と。
とりあえず、次回作以降の上映機会は逃せない監督です。
2008年06月20日 12:47 | 邦題:は行