2008年06月06日

『ブレス』におけるキム・ギドクの怪しさ

BREATH/2007年/韓国/84分/キム・ギドク

キム・ギドク第14作目の本作を観て驚いたのは、少し前に観た万田邦敏監督の傑作『接吻』とあまりに似た映画だったからです。共にオリジナルな物語であるにもかかわらず、これほどまでにシンクロしてしまうことがあるのだろうか、と。
もちろん、この2作品それぞれの主題は異なっている、ということを了解した上でもなお、やはり、その恐るべきシンクロニシティに驚嘆するほかありません。

ただし、そのことでキム・ギドクの独自性が損なわれたとは思いません。
本作で彼が描いたこと、例えば、殺風景な面会室を色鮮やかな四季で彩り、あろうことか、感動的なミュージカルの舞台にしてしまったこと。あるいは、反復させることによって行為そのものの意味を宙吊りにしてしまうような演出。そして、キム・ギドク自らが監視役を演じ、それによって、作品をより重層化させていること。これらの場面を観るにつけ、やはりキム・ギドクだなと思わせもするのです。

本作では、ラブシーンも印象的でした。『ブレス』が本当に極限の愛を描いた映画なのかどうかは今もってわかりませんが、異常な状況下で交わされる接吻やセックスが、妙に動物的で生々しく、何より残酷だったのです。彼らの行為を完全に掌握しているのは、監督としての、あるいは監視役の俳優としてのキム・ギドクです。そして彼は、ここでも観客に冷たい何かを突きつけたまま、たった84分で映画を終わらせてしまうのですから、相変わらずやっかいな監督であるということだけは間違いないと言えるでしょう。今回のキム・ギドクは、いつにも増して怪しすぎる…

『接吻』と比べてしまうことは、やはり無意味なのかもしれません。

2008年06月06日 19:34 | 邦題:は行
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