2008年03月10日

広川太一郎さん、ありがとう

私にとってあなたは、クリント・イーストウッドやルパン三世の吹き替えで伝説となった山田康雄さん、そして幼少時代の私が、本人の声よりも本人らしいと信じて疑わなかったジャッキー・チェンの吹き替えである石丸博也さんとともに、決して忘れられない名優です。

何よりもテレヴィで放映される香港映画が楽しみで仕方がなかった私があなたを知ったのは、ゴールデン洋画劇場で放映された『キャノンボール』だったような気がします。今でこそ、この映画をまた別の視点で観ることが出来るのですが、当時はただ、ジャッキー・チェンが出ているということだけで夢中になれた。バート・レイノルズも、サミー・ディヴィスJr.も、ディーン・マーティンでさえ、まるで眼中にはなかった私ですが、しかし、ジャッキーと同じチームでコンビを組んでいたマイケル・ホイだけには、妙な親近感を覚えた記憶があります。そこに漂う、飄々として無責任でコミカルな声に、恐らくは魅了されたのでしょう。

いや、あるいはジャッキー・チェンの『ドラゴンロード』だったかもしれません。劇中のワンシーンに過ぎない(といってもかなりの力の入れようではありましたが)羽蹴の実況を、あなたの吹き替えが、一つの“作品”のレヴェルにまで高めていました。目の前で繰り広げられる羽蹴を実況していながらも、それをあえて別の次元から批評しているかのような、“構造的吹き替え”とでも言うべきユニークさ。

その後程なくして、やはりゴールデン洋画劇場で『Mr.Boo!』の何作目だったかを見て(『新Mr.Boo!鉄板焼』だったかもしれません)、その独特な言い回しとダジャレに心底参り、多大なる影響を受けましたが、今にして思えば、その魅力は先述したような、構造的批評性(「〜なんてね」などというノリ突っ込みは、自己批評的でもあったようにも思えます)にあったのではないか、などと思うのです。作品を内側から破壊するような、しかしそれが作品自体を更なる“面白さ”へと昇華させるような吹き替えを、私は他に知りません。まぁ最近は吹き替え作品自体を観なくなってしまったのですが…。

今だから言えることですが、私はあなたの吹き替え作品をヴィデオにとって、何度も何度もあの言い回しを真似したものです。映画を観て、その形態を心底コピーしたいと思わせたのは、後にも先にも、ジャッキー・チェンとあなたの吹き替えだけです。

最近、オヤジギャグが多い、などと言われるような年齢になってしまった私ですが、今後そのような指摘を受けたとしても、俺のルーツには広川太一郎がいるのだ!と、あくまで心の中で、誇りを持って叫び続けるとします。

小学生だった私を映画につなぎとめてくれた一人の名優として、最後にお礼を言わせてください。
本当にありがとうございました。

2008年03月10日 12:20 | 映画雑記
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Comments

>匿名様

“オレら世代”ということは、私と同じくらいの方でしょうか? お名前がなかったのですが、もしかしたらお知り合いの方でしょうか?

ともあれ、『キャノンボール』は子供の頃に観るべき映画だったような気がしています。夢が詰まった映画とは言いえて妙ですね。アメリカ映画のさまざまな要素(香港映画のエッセンスまでも)を1本の映画に詰め込んでいました。

広川節は、今後も世代を超えて支持されていくことでしょう。そう願ってやみません。


Posted by: [M] : 2008年03月14日 11:28

やっぱ、オレら世代は何はさておき、
『キャノンボール』なんだよな。
今考えても、あんなに夢の詰まった映画は、
そうは無いと思うよ。


今日、DVDで、プロジェクトBB観た。
山田康夫さんの時もそうだったけど、
もう「あの偉大なる吹き替え」を聞けないと思うと、
こみあげてくるものがありすぎる。

ユーモアと愉快、そして夢をありがとう。
心より、ご冥福をお祈りします。


Posted by: : 2008年03月14日 03:28

>新ベイスターズマスクさん

広川さんの、あの言葉遊びや独創性は、日芸時代の落語研究会にルーツがあるようですね。

驚いたのは、彼の訃報を受けて、Youtubeやニコニコ動画等の動画投稿サイトで、いっせいに追悼の動画がアップロードされたことです。以前はそれほどの数が上がっていなかったのですが…。

あれだけ多くの作品の吹き替えをしてきた人ですから、やはり多くの人に愛されていたということでしょうね。


Posted by: [M] : 2008年03月10日 17:15

喋り手として、その独創性、歯切れのいいリズミカルな音。  もっともっと聞いていたかったです。
年をとらない声って改めてすごいです。

いつ聞いても、『あたらしい』広川節は、永遠の憧れです。

心よりご冥福をお祈りいたします。


Posted by: 新ベイスターズマスク : 2008年03月10日 16:39
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