2007年03月09日

ドキっとする体験

映画館に通い始めてかれこれ20数年経ちますが、私自身、これまで何度もそうしたかったのに一度も出来なかったことを、初めて“受動的に”体験しましたので、ちょっと書いておきます。

2日前の夜、ユーロスペースにて『リアル・フィクション』を鑑賞した時のことです。
90分前にチケットをとっても40番台という、通常のレイトショーでは考えられない程客が入っていまして、結局は満席だったと思います。私は普段、最後列の通路側を陣取るのが常ですが、流石に40番台では気に入りの席を確保できず、仕方なく、最後列の1列前の席に落ち着き、コートを脱いでいると、ちょうど私が座りたかった席に、ある女性が座っていました。もちろん、それ自体は何ら珍しいことではなく、キム・ギドクのレイトショーに女性が1人で来てもいっこうにかまわないのですが、一瞬その女性と目が合ったような気がして、私はまったく見ず知らずの女性だったにもかかわらず、何故かその女性がふと笑みを漏らしたような錯覚に陥ったのです。そういうことはあまりないのですが、それも私の勘違いなのかもしれず、特に気に留めることもないまま映画は始まりました。

『リアル・フィクション』はなかなか面白い映画で、ラストがあのカルト映画の怪作とも言うべきアレハンドロ・ホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』とほとんど同じだったことに驚きを隠せず、劇場を出た後もいささか興奮状態のまま帰途についたのです。

さて、ドキっとしたのはこの後です。
数分歩いて、自宅近くの交差点に差し掛かった時、いきなりある女性に呼び止められました。というより、彼女はこちらの顔をまじまじと見つめ、「あぁ!」などと若干驚いた様子ですらあり、その女性にまったく見覚えのない私は、いくら最近「脳トレ」で若返りだした脳にも、大きな疑問符が5つ程浮かんでは消えていたと思います。

私の脳内⇒“…逆ナンか!? こんなところで!? うーむ……?????”(0.5秒)

すると彼女は、このように話を切り出してきたのです。

「さっきユーロで前の席にいましたよね? いや、同じ劇場に居た人と帰り道も一緒だったんでちょっと気になって思わず声を掛けてしまいました…」

瞬間、先ほどの微かな微笑み(のようなもの)が思い出され、こちらも思わず「」あーーーー!」と叫んでしまいました。深夜11時をまわった人気のない舗道で、これはいかにも珍妙な光景ではないでしょうか。
私は、ただ劇場で前に座っていただけの見ず知らずの男に路上で話しかけてくるという行為が俄かには信じられず、「あの…でも初めて会いますよね?」とまるで念を押すように尋ねてしまったのですが、後から考えれば、それはいかにも野暮な質問だったなと思います。その質問は、あまりにロマンを欠いている、そう思うのです。

彼女が足早に去っていった後、私はあらためて彼女の勇気を賞賛したい気持ちでいっぱいでした。これまで私も、何度と無く、劇場にいる見ず知らずの女性に声を掛けたらどうなるだろう、などという妄想を抱いては、どうせ不気味がられるだけだろうという結論に至り、決して実行せずにきたのです。友人に同意を求めると、やはり彼も、「それはかなりドキドキするけど、やっぱり出来ないよなぁ…」と漏らすばかりで、やはり彼にとっても、それは妄想の域を出なかったのでしょう。
それを彼女は、どれほどの勢いに任せたのかは分りませんが、やってのけてしまった。私にとって、この行為はいくら賞賛しても足りないくらい、勇気ある行為だったと今は思います。そしてそこには、ある種のロマンが漂っていたのだ、と。

恐らく彼女は、来週の『ワイルド・アニマル』にも来るでしょう。
劇場でもし見かけたら、今度は私のほうから話しかけるぞと心に決めています。
しかし、私は本当に彼女の顔を覚えているのでしょうか……。

2007年03月09日 13:02 | 悲喜劇的日常
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Comments

>かおるさん

やはり初期の作品だからか、今ほど洗練されていないように感じましたが、ギドク的な想像力は随所で炸裂していたように思いますし、あの人を食ったようなラストも、タイトルが“現実であるところの虚構”であることを考えると、一本とられたな、という感じでした。まぁ私の場合は、上にも書きましたが、『ホーリーマウンテン』という映画を思い出してしまって、それで思わず笑ってしまったくらいなんですけどね。
やっぱり惜しいことしたのかな…?(笑)

>ヴィ殿

こヴィさんならやりかねないなぁ(笑)
怖がられるような風貌だとは思いませんが、映画が映画ですしね。そっとしておいてほしい映画だったかもしれませんね。そういう時は私もありますから。
来週はこちらから先手を打ちますよ。いなかったらただのピエロですが。

>Chocolateさん

こういう場合はやはり女性からのほうがいい反応が期待できそうな気がしますけどね。しかし誰でもいいわけじゃあないんでしょうから、その辺は難しいところだと思います。
ぶっちゃけ、次回シカトされたらかなりへこみそうですが、とりあえずさも前から知っている感じで話しかけてみたいですね。


Posted by: [M] : 2007年03月11日 12:52

ははは、そーんなことがあったんだぁ。(笑)

私もKさんとミニシアター系の劇場で逆ナンしようぜぃ!
とか言って盛り上がってたことあったけど、
でもね、中々「声をかけてもいいなー」って思える人がいないのが現状でした。
あんまりオタっぽい人も怖いし・・・(汗)

次は是非声を掛けてみて下さい。


Posted by: Chocolate : 2007年03月10日 10:55

ロマンス!! 10年くらい前私も似たようなことがあり(「デカローグ10話」観賞後)、声かけたのは私ですけど、とっても恐がられました!(爆)。次に[M]さんがその女性に会って声かける様をこっそり見たいです(笑)。 結局ギドクは一本も行けてませぬ(去年のハネケは頑張ったのに…)。


Posted by: こヴィ : 2007年03月09日 18:47

「リアルフィクション」、私はダメだったんですけどねー。そっか、Mさんはラストがよかったのか。私はむしろラストが納得できなくって。映画ってこれだからおもしろい!でもほぼ満席でしたね。しかも男性率が高かった。私は1時間前の到着で50番台後半だったかな。

それにしてもステキな出会いです。これがシネコンとか大作系映画だったらナンパなんでしょうけど、ユーロでしょ!ミニシアター系とかだったら、純粋に「出会い」ってことで彼女は何かを感じたんだと思います。惜しいことしましたねーー!


Posted by: かおる : 2007年03月09日 16:28
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