2007年02月15日

『ディパーテッド』に対するいくつかの覚書

ディパーテッドディパーテッド/THE DEPARTED/2006年/アメリカ/152分/マーティン・スコセッシ

本作はリメイクである、という前提が厳然としてあるのですが、リメイクとはどういうものか、リメイクにはどのように接するべきか、鑑賞後にそんなことを考えてしまいました。ネタ元と比した上で作品としてどちらの出来が良かったか、などという安易な比較論で済ませてはならないのではないか、という気がしたからです。そういった比較は、確かに人を饒舌にさせるかもしれず、また一つのエンターテインメントとして楽しめもするのでしょうが、やはりあまり生産的だとは思えなくなってきました。事実、私自身、リメイク作品をその手の比較論的な扱いで安易に語ってきたこともあるのですが、撮られた年代や国籍、俳優、そして何より監督が異なることが多いリメイク作品というやつは、やはり、それを一つの独立した作品として見なければならないのだろう、そんな風に思ったわけです。まぁ当たり前と言えば当たり前かもしれないことに、改めて気がついた、と。

実のところ、このリメイク映画に関して、すでに不毛な比較論めいたものを書き上げてしまってからこんなことを書いている次第なので、今、あらためて『ディパーテッド』について書くべきことなど残されていないに等しいのですが、今はとりあえず、2006年のアメリカ映画である『ディパーテッド』で印象的だったシーンを列挙しておくことで、この映画に対する私の態度を表明しておくに留めます。
なお、下記の文章に、特に結論めいたものはありません。

■冒頭、ジャック・ニコルソンの“顔”と“声”に頼った一連のシークエンスは、いかにもベテラン演技派俳優としての“顔”がやっと画面に登場した瞬間、ある種の安堵を覚えさせると同時に、いささか気恥ずかしくもなった。すでにあるイメージの反復、それを刺激(もしくは驚き)へと変貌させるのは難しい。

■とりわけ、マッド・デイモンの演出に対する既視感。しかし彼はだんだん、天才的な男というイメージからかけ離れて行くので、むしろ後半の彼のほうが好みである(ラスト近くで、もう1人存在したスパイ仲間を殺す瞬間は悪くない)。

■久々に観たアイリスインとアイリスアウトに反応。

■編集のめまぐるしさ。それは、本作が現代のアメリカ映画だということを宣言しているかのよう。

■白い粉が、まるで射精のシンボルであるかのように宙に舞うシーンには閉口するほかはない。それがこちらの勝手な解釈であろうとも、あのようなシーンは肯定出来ない。

■レオナルド・ディカプリオとヴェラ・ファーミガが結ばれるシーンの描き方は、様々な意味で、それがアメリカ映画であることを意識させたが、スコセッシにとってはあまり重要なシーンではなかったのかもしれない。

■ジャック・ニコルソンは今回、いかにも狂ったマフィアのボスという役を演じていたが、非常に表層的に見えてならなかった。彼がどの程度スコセッシの演出に口を出したのかはわからないが…。しかしながら、潜入捜査官であるレオナルド・ディカプリオと、ほとんど“顔だけで”腹のさぐりあいをするシーンは素晴らしい。このバラツキは戦略なのか、否か。

■随分と設定を変えている、ということはつまり、スコセッシの描きたかった方へと作品を引き寄せている割に、やはり『インファナル・アフェア』を強く意識せざるを得なかったのだな、と思われるシーンがあって、そのシーンはとりわけ印象に残っているが、前後の説明的なショットの分、重要なシーンにもかかわらずそこだけは弱いと思わざるを得なかった。

■レオナルド・ディカプリオとマット・デイモンが相対して銃を構え合うというシーンをあえて避け、“(ある)死者”という原題に即しているともとれるようなラストシーンを選んだことに対しては、素直に賞賛したい。マーク・ウォールバーグの演出は見事だったと思う。

ざっとこんなところです。
面白かったかと問われれば、恐らく面白かったと答えるでしょう。
『インファナル・アフェア』を未見のまま本作に臨んだ方の率直な感想を聞いてみたいとも思いますが、答えは何となく予想出来るので、まぁそういう野暮な質問はしないことにしましょう。

2007年02月15日 19:06 | 邦題:た行
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Comments

>mouさん

『沈黙』、そうなんですよね、以前mouさんの日記でそれを知ってちょっと驚きました。
『ノー・ディレクション・ホーム』、必ず観ておきます。


Posted by: [M] : 2007年02月23日 10:32

次もリメイクといえばリメイクなんだけど、遠藤周作の『沈黙』です。その前にストーンズの「ビッガー・バン・ツアー」のロッキュメンタリーが出ると思います。

ディランのはおもしろいよ!


Posted by: mou : 2007年02月22日 12:42

>雄さん

そうですね、今のハリウッドはどこを観てもコミック原作やリメイクものが転がっている気がします。
私の中のここ数年のスコセッシは、“どこかが違う”という気がしつつ“全くダメだ”という風にも思えないという微妙な位置にいました。(ちなみに『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』は未見です)

『ディパーテッド』も全面的に肯定は出来ませんが、いい感じの雰囲気が漂っていたとは思います。しかし何故あれほどディカプリオに拘るのでしょうね。


Posted by: [M] : 2007年02月19日 10:20

私はスコセッシは初期の作品以外、特にこの10年くらいの作品はいいと思ったことがありません。でも『ディパーテッド』は、面白かったころのスコセッシのリズムを少しだけ思い出させてくれました。ただ、スコセッシがリメイク作品をつくるということ自体がちょっと悲しい気がします。


Posted by: : 2007年02月17日 23:48
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