2006年11月17日

第7回 東京フィルメックス オープニングに参加

第7回 東京フィルメックス オープニングいつもながら、あまり大っぴらに言いたくはありませんが、ここぞと言う日はやはり、というわけで、今日はつつましく会社を休んで「第7回 東京フィルメックス」のオープニング作品を観てきました。もちろん、そうするにはそうするだけの価値のある作品でなければならないわけですが、ヴェネツィアを制したジャ・ジャンクーがオープニングであればその価値は充分あるというもの。不慣れな東京国際フォーラムでの上映でしたが、そんなことは大した問題ではない、とばかりに喜び勇んで参加してきました。

世間的に言うなら“花金”(←あまりに古い言い回しですが)に当たる今日が終日フリーなのですから、夕方の上映を前に、何か一本くらいは別の作品を観るべきだという魂の声にしたがって、まずはシネスイッチ銀座にて『百年恋歌』を。金曜日がレディースデーだったからか、平日の昼間にもかかわらず、40人ほどの観客がいました。そしてこの『百年恋歌』、第一部の“恋の夢”からして、あまりに泣かせる演出なので、これはまずいぞと思わせるのですが、その次がサイレント形式という、これまたトリッキー(?)な構成なので一端落ち着き、その後の“青春の夢”がこれまた混沌の極みというべきか、何とかある地点に束ねようと思っていた思考が、また振り出しに戻って混乱するという事態に陥り、ああ、ホウ・シャオシエンにしてやられたけれど、二輪車の疾走というのは観ていて興奮するし、だったらもうそれでいいかなとも思われ、あまりにスー・チー的でないあのメイクも、映画的なものとして極自然に受け入れられてしまうという始末。とどのつまり、『百年恋歌』は素晴らしい映画だったということになります。

さてさて、「FILMEX」の話でした。
事前に待ちあわあせていた[R]君と早めに会場に到着し、まず席を確認してみると、2階の最前列というベストな座席で一安心。その後、ジャ・ジャンクーの映画を観る前には、“絶対に”煙草を吸っておかねばならないだろうという私の思惑に禁煙中の[R]君をつき合わせ、一つしかない喫煙所で煙草をふかしつつ、「そういえば、蓮實さんの新しいインタビュー読んだ? マイケル・マンとガス・ヴァン・サントの二者択一ってさ…」などと話していると、噂をすれば影、目の前に蓮實氏がやってきて、我々の隣で煙草をふかし始め、その2分間、我々は何故か無言になってしまいました。まぁジャ・ジャンクーですし、蓮實さんには是非インタビューして欲しいね、くらいのことは言い合えたのですが。

そのジャ・ジャンクーの『三挟好人(Still Life)』、この107分の作品は、『世界』の次の作品という位置づけを律儀に守った作品のような気がしているのですが、面白かったことに違いはなく、いったいジャ・ジャンクーは何処へ向かおうとしているのだろう、という疑問は禁じえなかったものの、我々観客を煙に巻くような本作について、あれやこれやと思考を巡らしてみるのはすこぶる楽しく、かつ有意義で、その後予定があったためQ&Aには参加出来ませんでしたが、その詳細については、その場に同席していた朋友・こヴィ氏に大いに語っていただくとして(是非お願いします)、今となっては予想の範囲を出ませんが、あのCGの使い方の意味(あるいは是非?)について限られた人々と語り合いたい気分です。
それにしても、どうみても素人だと確信しうる人物が、何故あれほど画面を輝かせるのか、というか、まさに今生きつつある人間という表情を画面に定着させ得るのか、という謎を提示してくれたジャ・ジャンクーは、中国という国家を超えて、世界的に重要な作家に違いないということは確認できました。

残る4作品も、非常に楽しみです。
その可能性は非常に低いとは思いますが、会場で私を見かけた方、是非一声かけてください。私は25日、26日に朝日ホールに出没予定です。

2006年11月17日 23:51 | 映画雑記
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Comments

>こヴィ殿

中国が続きますね。ジャ・ジャンクー以降、続々と新しい世代の作家が出てきている感じがします。もう名前に関係なく、手当たり次第に観て行くしかなさそうです。
イン・リャンという名前は覚えておきますね。

>yasushiさん

そうですね。正式公開が決まってよかったです。
私が目にしたブログでは結構好評でしたが、厳しい意見も多かったですか。まぁこればかりは是非観て判断していただきたいです。
今回もDVでしたが、そろそろフィルムで撮った作品を観たいなと個人的には思っています。


Posted by: [M] : 2006年11月24日 09:56

まだ観てないので何も言えませんが、来年春に公開されるんですね。これはなんとも喜ばしきことです。私も間に合うといいのですが。

CGの話を聞いて、『世界』でのアニメーションを思い出し、只只にやりとさせられるばかりなのです。いろいろなサイトを見ていると厳しい評価も聞こえますが、単純にジャ・ジャンクーに現代映画の明暗を観ている私としては本当に楽しみでしかたありません。

本当にビターズ・エンド万歳ですね。良い映画を配給してくれます。


Posted by: yasushi : 2006年11月23日 09:30

今日は同じく中国の『アザー・ハーフ』(イン・リャン監督)観ました。これもかなり良かったっす。去年の見逃したの後悔しました。しかも彼若いんですよねー。


Posted by: こヴィ : 2006年11月23日 00:54

>ヴィ殿

『水没の前に』も同じ三峡ダムだったんですね。
本作の中にはかなり“ドキュメンタリーになってしまっている”箇所がありました。もちろん、あからさまにフィクショナルなCGもあるのですが、その境界はあまり重要ではないような気もしました。
会話にほとんど切り返しが使われておらず、その意味で直前に観た『百年恋歌』に似たカメラワークだったとも思いましたね。
是非近くゆっくり語りましょう。パンフも買いましたので。


Posted by: [M] : 2006年11月21日 14:06

私は先月に『水没の前に』(三峡ダムで水没地区の移住ドキュメンタリー。地区は別区)を観てるので、どうしてもそれと比べてしまい、ちょっと純粋評価ができかねました。出来事や剥き出しの人間関係などの衝撃度としてはドキュメンタリーの方が上なので。でも『三峡好人』はカメラが素晴らしかったですねー。来年再見します!
『百年恋歌』については次回語り合いましょー。


Posted by: こヴィ : 2006年11月21日 02:43

>ヴィ殿

詳細なリポート、ありがとうございます!


『世界』の時にもアニメーションの使用に関する質問が出ていましたが、やはりCGについての質問が出ましたか。なるほど、そういうことだったんですね。ビルが崩壊するCGもありましたが、あの辺りになると、遠くに見えるビルに絶対何かあると感じるようになってました。
[R]君とも、あれは最初ドキュメンタリーとして始まったんじゃないかと話していたのですが、やはりそうだったんですね。

>ドキュメンタリーでは、彼らもプレイベートなど撮られた>くない(知られたくない)こともあるだろうから

とありますが、だとしたら、『鉄西区』はやっぱり凄いということになりますね。

あの少年の独唱は素晴らしかったです。そんな経緯で出演が決まったとは…。

ともあれ正式公開が決まって何よりです。
[R]君は間違いなくもう一回行くでしょう(笑)
私も、ラスト近くで仕事仲間と三度乾杯しあうシーンをもう一度観たいです。あんなシーンが撮れるってやっぱり凄い。とりわけ、最後にかわされる無言の乾杯は、たまたま直後に観た『少女ムシェット』における同様のシーンと重なりあって驚き、改めて感動した次第です。


Posted by: [M] : 2006年11月20日 16:58

(こっそり、「三峡」ですよー!)
お互いベストな席でしたね。質疑応答では、やはり例のCGの件が出まして、まずあのロケット発射(!)についてですが、あれはあの県がダムプロジェクト(だったか移住事業)を記念して建てたモニュメントらしいのですが、お金がないだかで未完成のまま放置されてて、「こんなものどこかへ飛んでってしまえばいいのに!」と監督が思ったから映画で飛ばしたとのことでした(笑)。それとその前のUFO飛行(!)は、この国家的大事業は、着工直後は世界的にも注目を浴びて、日々国内外のメディアで取り上げられたのに、だんだん目新しくもなくなって世間から忘れさられ(=あたかもなかったかのようになり)、でも街は壊され人もいなくなってすごい淋しい風景だった(=これはあの女性の心理とリンクしてるとヴィ感じた。綱渡りの比喩も同)ので、「UFOでも降りてきたらまた注目されるんじゃないかな!」(=宇宙人でもいいから誰かと心を通じ合わせたい!、と私は読んだ。)とのことです(W)。

あと、もともと撮影のきっかけは、友人の画家がこの地域の人々を絵に描こうとしたのに同行してドキュメンタリーを撮るためだったそうです。それが、それらの人々がモデルとして終えた後、また日々の生活(仕事)に戻っていく姿を見ながら、彼らの暮しを撮りたい(!)と、ドキュメンタリー撮影9日目で猛烈に思い立ち、じゃあ撮ればいいんんじゃないか?、でもドキュメンタリーでは、彼らもプレイベートなど撮られたくない(知られたくない)こともあるだろうから、逆に劇映画にしたら家の中まで見せてくれるのではないかと思って、この映画をつくりだしたとのこと。ちなみにそのドキュメントの方もちゃんと完成しているそうです。

それからあの大人のように立派にパイプ煙草を吹かし、切ないラブソングを歌う少年については、監督が現地に着いて最初船から降り立った直後に「ホテルあるよ、荷物持つよ!」と言い寄って来た客引きだそうで、撮影はじめたら「僕も使ってくれ」と言いに来て、「何ができる?」「歌が歌える。でもどう演技すれば?」「君の愛する人へ歌を歌ってくれ」と頼んだそうです。そうしたら少年の彼女はちょっと離れたとこに(対岸?)居てなかなか会えないという状況だったそうで、あんな“気持の入った”マジな唄になったそうな(w)。あのシーンは良かったですよねー。

そして公開は来年に決定(時期は未定)していて、配給ビターズ・エンドです。ガレルといい、ジャンクーといい、ビターズエンドは偉いですね!


Posted by: こヴィ : 2006年11月20日 14:51

>Chocolateさん

はい、行ってきました。
初めて行きましたが、絶好の位置で鑑賞出来たので満足です。

『百年恋歌』は良かったです。
特にスー・チーは『クローサー』も悪くなかったのですが、本作でさらに一皮向けたんじゃないかと思いました。


Posted by: [M] : 2006年11月20日 13:57

オープニング行ったんですね〜
国際フォーラム、あんなに広いところでやったとは知りませんでした。(笑)
映画も中々だったご様子で。

「百年恋歌」良かったですよねー。
結構「退屈」と酷評してる人が私の周りには数人いますけど、
私もとても素敵だなーって思いました。


Posted by: Chocolate : 2006年11月19日 07:55
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