2006年07月21日

「ドイツ映画祭2006」で得たもの

今年初参加となった「ドイツ映画祭」ですが、その中で私が鑑賞したのは3本のみ。本当はもう2本ほど観たかったのですが、日程的にPFFとかぶっていたりして厳しく、何とか3本を厳選した次第。

今回最も期待を寄せていたのは、この映画祭に来た誰もがそうであったように、エルンスト・ルビッチの作品群に他なりません。しかし、上映は伴奏つきのみという点に最初は引っかかっていました。
今だからこそ、あれはまったくの思い込みだったと断言出来るのですが、私はサイレント映画につく伴奏の価値がわかりませんでした。音のないサイレント映画は、音のない状態で観るべきだという故のない偏見があったので、例えば同じく朝日ホールで開催された「ドイツ時代のラングとムルナウ」においても、迷わず伴奏なしを選んだのです。その時観た『ハラキリ』も『スピオーネ』も大変面白かったので、その偏見はますます強固な確信へと変わっていったのでした。しかも、伴奏つきは料金が高い。そのことも、伴奏つき上映を嫌う理由でした。まぁそれは単に私がケチなだけなのかもしれませんが。

今回、ルビッチの特集が組まれると聞いて、すぐにチケットを取ろうとしたのですが、どうやら伴奏つき上映しかないということがわかり、いくらルビッチといえど、参ったな…と。でもまぁルビッチだし、それが理由で観ないというのもあまり賢い選択とは思えず、結局は半信半疑で上映に臨みました。

伴奏を担当したのは「ドイツ時代のラングとムルナウ」の時と同じくアリョーシャ・ツィンマーマン氏。何でもルビッチは彼が最も得意とするレパートリーであるらしいのです。
まずは日本初公開の『陽気な監獄』(1917年/48分)。上映開始の少し前辺りから、彼はおもむろにピアノを弾き始めました。その弾むようでいて繊細な演奏に、私は思いがけず見とれてしまいしばらくスクリーンの存在を忘れてしまうほど。あわててスクリーンに目を向けると、そこはまさにギャグのためのギャグとでも言うべき笑いのカオス。そうかと思えば舞踏会シーンの素晴らしい画面設計に心を奪われ、本当にあっという間に時間が過ぎていったわけですが、その間、シークエンスごとにどんどん切り替わっていくツィンマーマン氏の演奏があまりに心地良く、かつ笑いに満ちたものだったということはしっかりと記憶されているのですから不思議です。これが映画伴奏というものなのか…と目から鱗が音を立てて落ちていくのを感じました。ブラボー。

続いて以前より観たかった『牡蠣の王女』(1919年/58分)。本作ほど幸福な映画を、人はどれだけ列挙できるだろうか、などと上映中に考えてしまいました。『陽気な監獄』を凌駕するコメディシーンの洪水を目にすれば、それがサイレント映画だと言うことなど快く忘れ、まるでそこに“音”があるかのような体験をすることになるでしょう。もちろん、それを時に控えめに、時に大胆に支えていたのが他でもない、ツィンマーマン氏の演奏だったのです。
大富豪である「牡蠣の王」と周りにいる側近達の身振り、没落貴族ヌキに成りすました召使が、王女オッシーを大広間で待つ間の、規則的でも変則的でもあるアクション、効果的なアイリスイン、鍵穴を使った典型的なギャグ、『陽気な監獄』にも見られたダンスシーンの見事さ、そして絵にかいたような大団円。これら一切がたった58分の間に詰め込まれ、一切の無駄を排して的確に編集されている本作には、ありとあらゆる賞賛の言葉を送っても足りないでしょう。それほどまでに、本作は素晴らしい。

このルビッチの2本は、いかなるコメディも笑えなければ意味がないという私の持論を改めて思い起こさせました。私も劇場で思わず声を出して笑ってしまうことがあるのですが、ここまであからさまなギャグを目にすることは近年ほとんどありません。たまにB級アメリカ映画で、そのいかにもバカ丸出しな感じがたまらなくおかしかったりすることがある程度で、こういうギャグはやっぱりアメリカだろうとすら思っていた矢先に観たこの圧倒的なギャグ、ギャグ、ギャグ。これがドイツ時代に撮られたという事実には驚きを禁じえません。
喜劇を撮れる監督は偉大だという、ごく当たり前の結論に達しました。ルビッチを発見しただけでなく、伴奏つきのサイレントがこれほどまでに素晴らしいものだったということも発見出来たのですから、今回の「ドイツ映画祭2006」は、いかにヘルツォークの新作が退屈極まりなかったとしても、私にとっては大きな収穫だったと言えるでしょう。

ちなみにそのヘルツォークの『ワイルド・ブルー・ヨンダー』(2005年/81分)、ここでは詳述しませんが、久々に劇場を途中で退席しようかと思いました。映画というより、映像を見せられている感覚が何とも不快で、観たことを心から後悔。BBCが絡んでいるのも、ああ、なるほどと納得しました。

とにかくルビッチは凄い、ツィンマーマン氏も凄い。そんな映画祭でした。

2006年07月21日 17:39 | 映画雑記
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Title: ドイツ映画祭2006 ルビッチを愉しむ
Excerpt: 本来は映画祭などの感想はサイトの方にアップするんですけど、最近はGoLive立ち上げるのもおっくうになっちゃってほんとに困ったもんです。 7月16日...
From: chat gourmand
Date: 2006.07.21
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