2006年06月14日

“エログロ映画”の饗宴〜「笑うポルノ ヌケるコメディ」より4本

開館時より充実したプログラムを組みながら、渋谷でも独自の位置を獲得しつつある名画座・シネマヴェーラ渋谷ですが、先日終了した「笑うポルノ ヌケるコメディ」という特集上映にどうしても観たかった作品が2本含まれていたので、階下のユーロ・スペースには移転後も何度となく通っていたものの未だ足を踏み入れたことのなかったこの劇場に、初めて行ってきました。

この特集上映のサブタイトルは“日活ロマンポルノvs東映ピンキーバイオレンス 「笑い」の頂上決戦 and More!”というもので、2本立てのプログラムも東映と日活それぞれの作品の対決という形で組んでいるため、いやでも東映と日活のカラーの差異が際立ってしまうのですが、そのおかげで、私の好みがどちらに近いかということを確認できたので、その意味でなかなか有意義な試みだったと思います。

そもそも私が観たかった2作品は、共に、東映が岡田茂の号令でエログロ路線に走り出した70年台の作品なので、それに付随するかたちで観ることになった日活作品の印象がどうしても弱いのは、それら日活作品の出来とはあまり関係のないことなのかもしれません。破天荒という言葉が似合う東映エログロ路線こそ私が観たかったものなので、どちらかと言えば、シニックな笑いや繊細な演出という言葉が思い浮かぶ日活ロマンポルノも嫌いではなかったものの、やはり前者の、まさに映画という形式を逆手に取ったかのようなはめのはずし方とか開き直ったような態度に惹かれてしまいます。
やっぱり映画にはセックス(エロ)とバイオレンス(グロ)が必要だと未だに信じている部分もある私としては、何も普段からそんな映画ばかり観ているわけではないにせよ、かように制作側の強い意志と圧倒的菜娯楽性の両方を実感出来る作品であるなら喜んで観に駆けつけたいと思うし、小奇麗にまとまったセックス描写や残酷さが剥ぎ取られた審美的なバイオレンスシーンも時にはいいけれども、観ているこちら側も、どうしてこんな作品を作ろうとしたのかが皆目検討もつかないという意味で反動的にエロやグロに徹した作品(ウォーホル=ポール・モリセイの諸作品など。観てはいませんが、ジェス・フランコの作品もそんな部類に入るような…)の貴重さをより好むでしょう。

今回の特集上映では、そんな東映の“エロ”と“グロ”の代表作をそれぞれ観る事ができたので、個人的には大満足だったと言えます。

エロ将軍と二十一人の愛妾まずは『エロ将軍と二十一人の愛妾』ですが、この人を食ったタイトルのセンスには素直に脱帽するほかありません。本作は確かにポルノ映画なのだからセックスシーンも多いわけですが決してそれだけではなく、例えば“女ねずみ小僧”を演じる池玲子の傘を用いた美しい立ち回りだとか、それぞれ毛沢山・陳万紅というほとんど度を越して安直な名を持つ中国人を演じた由利徹と岡八郎のギャグ、ほとんど物語に貢献しないと言う意味で贅沢な無駄としか言いようのない大泉滉の独特な存在感など観るべき細部がこれでもかと盛り込まれています。そして、恐らく映画史上ほとんど類を見ないような(これに拮抗し得るのは、最近観た『ドッグデイズ』の乱交シーンかもしれません)、全裸姿の大奥と死刑囚とのセックスバトルロワイヤルシーンに至ってはその迫力、夢幻性、荒唐無稽さのどれをとっても壮大と言うほかなく、反権力的な結末も含め、鈴木即文の力技はまったく見事でした。何作か観た『トラック野郎』シリーズも悪くありませんが、本作には得体の知れないパワーが溢れていたような気がします。文句なしの傑作!

SHOGUN'S SADISM次に『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』ですが、何度か当ブログでも言及してきたように、本作はその存在自体が幻のような作品で、一応海外ではdvd化されているものの、そのタイトルが「SHOGUN'S SADISM」という実も蓋もないほどのやりすぎ感を醸しだしているので、未見の方もこの内容は推して知るべしという感じがしないでもありません。何しろあの伝説的なヤラセ映画『スナッフ』に乗じた作品なのですから。
本作は強引に2つのパートに分けられていて、タイトルに副った内容はどう見ても前半部分だけのように見受けられましたが、まぁこの際そういう真面目な意見は自粛するとしましょう。ここに収められている数々の拷問シーン、そのバリエーションもさることながら、その描写や音も非常に頑張っています。見所はやはり内村レナに施される牛裂きの刑ということになるでしょうが、このシーンは残酷であるだけでなく、意外にもよく出来たモンタージュなのです。両手足に紐でつながれた牛が興奮して四方に走り出す瞬間と、苦悶の表情を浮かべる内村レナ、そしてそれを不快に盛り上げようとする音響、これらが短い時間で渾然一体となって観るものを不意打ちする瞬間には心から感動した次第。
川谷拓三が殺されるためだけにある後半部分は、“牛裂きの刑”ではなく“鋸引きの刑”がクライマックスなので、どうしても取って付けた感は否めませんが、この“鋸引きの刑”を執行するのが役人ではなく、たまたまその前を通りかかった狂人だというアイデアが何とも陰惨で素晴らしく、結局この映画にはほんの1ミクロンも“救い”が存在しないという潔さ。
ちなみに監督の牧口雄二は、翌年に同じスタッフで『女獄門帖 引き裂かれた尼僧』という全く同じように狂気に満ちた問題作を撮ったそうで、こちらも死ぬまでには観てみたいと密かに思っています。

このような素晴らしい企画を実現させたシネマヴェーラ渋谷は、今、東京で最も貴重な劇場の一つだと確信しました。ユーロ・スペースとシネマヴェーラ渋谷のハシゴだけでも、かなり充実した映画体験が約束されるでしょう。

2006年06月14日 18:16 | 映画雑記
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Comments


へぇ×?(沢山)!!ドラマですね。
でも確かに、エロって言葉が
今の我々にキャチーなところとかが、かなり凄いのかも。

・・・機会があったら観てみたいです^^


Posted by: keiko : 2006年06月20日 13:04

>keikoさま

私も「エロ将軍〜」のほうですかね。
この時代の東映が凄いのは、ひとえに、岡田茂という大物の舵取りによるものでしょう。京都と東京で撮影所所長を努めた彼の先見の明とでもいいましょうか。テレビの普及は当時の映画界にとってかなりの痛手でしたが、テレビでは流せないようなこれらエログロ映画を量産することで、他社と差別化しようとした結果、それが大衆に支持されたということでしょう。
「エロ将軍〜」のネーミングも岡田氏によるものです。“エロ”という言葉を時代劇の頭に付け加えるそのセンスが凄いっす。

>youraさま

もったいないお言葉、ありがとうごさいます。
youraさんの好みとは大分離れている作品も多いかと思いますが、その辺の“振幅の大きさ”を常に心がけております。右も左も崇高も下品もエロもグロも、等しく映画のもつ重要な要素ですからね。
またお気軽にコメントください。


Posted by: [M] : 2006年06月19日 11:57

いやはや。 

すごい人生を選択していますね、[M]sama!
眩暈がするほどの数ですね。
これだけの映画を観て、これだけの原稿を認める
そのエネルギーと才能、感動的ですね。

いやはや。


Posted by: youra : 2006年06月18日 02:55

うーん!難しい質問ですね!!・・・って
真面目に考えてる自分がマヌケですが、

僅差でエロ将軍ですね 笑!
あんまりツライのは・・・という理由で。

因みに、この時代の東映は、何故”すごい”のでしょうか??


Posted by: keiko : 2006年06月16日 22:32

>shimaさま

ありがとうございます。大泉滉はいいですよ、ホント。超現実的!

>keikoさま

どちらがお好みですか?
一応成人映画なので、民放では無理でしょうね…そっち方面のCSであれば、あるいは……
この時代の東映は、本当に凄いですね。


Posted by: [M] : 2006年06月16日 17:59

コンニチハー。この画像だけで強烈ですねー!!

こういうの凄く観てみたいんです!笑
テレビか何かで深夜放送してくれたら
いいのに・・・・


Posted by: keiko : 2006年06月16日 14:50

「ほとんど物語に貢献しないと言う意味で贅沢な無駄としか言いようのない大泉滉の独特な存在感など」
観たくなる気を激しくそそられる一文だわ!


Posted by: shima : 2006年06月15日 20:59

>監督

そうそう、井戸に身投げをするシーン、あそこも良かったですね。たしか唯一の暗いシーンだったような。
鈴木監督、今度金沢でも特集が組まれるようです。


Posted by: [M] : 2006年06月15日 09:50

パンダがステキでしたね(笑)
井戸のシーンの鮮やかなカット割もハッとさせられました。
>エロ将軍


Posted by: イカ監督 : 2006年06月14日 20:51
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