2006年04月26日

『カフカの「城」』

カフカの「城」原題:Das Schloss
上映時間:123分
監督:ミヒャエル・ハネケ

フランツ・カフカ著作の映画化というと、『審判』(オーソン・ウェルズ)、『アメリカ』(ストローブ=ユイレ)、そして『変身』(ワレーリイ・フォーキン)などがすぐさま思い浮かびます。全て観ているわけではないのですが、少なくともそれを映画化する際には極めて独創的な資質が求められる、そんな気がしています。あるいはカフカの独創性が、映画作家にそれを要請するのか。いずれにせよ、カフカ著作の映画化は容易ではないだろう、とは思います。

さて、『カフカの「城」』は、もともとテレビ用に撮られた作品でしたが、映画奨励金を得て劇場公開されたようです。ハネケは本作を、“あくまでテレビ用に構想したものだ”と位置づけていますが、もとより“私の映画はテレビでは機能しない”と断言しているハネケの中で、では、映画とテレビの決定的な差異はどこにあるのでしょうか。その答えが、実は今でもわからないのです。

先に『セブンス コンチネント』の文章中でも触れましたが、『カフカの「城」』においてもハネケ独特の“間=黒画面”は健在でした。FIXに拘っていたようには思えず、カメラは比較的動いていたように思えますが、やはり各ショットは比較的長く、スタイルの上で特にテレビを意識していたようにも思えませんでした。ただし、私が観てきたハネケ作品に共通する、人間の奥底に潜む闇を観てしまった時のようなショックは、“とりあえず”無かったのではないか、と。“とりあえず”としたのは、どうも私が本作をとり逃している(あるいは、取り違えている)ような気がしないでもないからです。その手のショックの不在が、テレビ的だったのかどうか。やはり私にはわかりかねます。

ところで鑑賞後[R]氏とも話したことですが、ハネケはこのカフカの原作が心底好きなんじゃないか、と。徹底的に原作通りだったみたいですし。私は(多分)、学生時代に原作を読んでいたはずですが、もう随分前のことで思い出せません。ああ、こういう話だったっけなぁ……と思うことすら出来なかったので、あの唐突過ぎるラストシーンにはほとんど空いた口が塞がりませんでした。しかし、あれはあれで誠実なやり方だったとは思います。

今読んでいる諸々の本を全て読み終えたら、改めて原作を読み直したほうが良さそうだな、と思います。しかしあんな作品をテレビで放送するとは……日本とはまるで異なるヨーロッパ文化に驚くばかりです。

2006年04月26日 19:30 | 邦題:か行
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Comments

>ヴィ殿

観てるでしょうね。トリアーとハネケに関しては、鶏が先か卵が先かという感じでしょう。私としてはどちらでもいいのですが、今支持したいのはハネケのほうですね。『マンダレイ』も決して悪くは無かったのですが、こうも立て続けにハネケを観てしまうと…


Posted by: [M] : 2006年05月03日 23:06

ハネケ自身、これを見て少しでも原作に興味を持って読んでくれる人がいたら嬉しい、みたいなことを言ってるので、ある意味で彼なりの厳格さで原作に“奉仕した”と言えるかもしれませんね。
トリアーは絶対これ観てますよね?!


Posted by: こヴィ : 2006年04月28日 16:14
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