2006年04月16日
『エミリー・ローズ』はそれほど悪くない
原題:THE EXORCISM OF EMILY ROSE
上映時間:120分
監督:スコット・デリクソン
もともとホラー畑の監督だったスコット・デリクソンは、『ランド・オブ・プレンティ』の原案にクレジットされていました。あの映画の原案が、ではどのようなものだったのかは知る由もありませんが、ただアメリカ製のB級ホラーを量産する監督ではなかったということでしょうか。もちろん、ジェニファー・カーペンター演じるエミリー・ローズが目にする数々の幻覚に、やや安直とも言えそうなホラーテイストが現れてはいましたが、そういったシーンは本編の中ではむしろ脇に追いやられ、本作ではあくまで、実話に基づいた裁判の過程が中心になっているのです。むしろいっその事、その手のCGを一切使っていなかったとしたら、私はもう少し本作を評価していただろうと思います。ジェニファー・カーペンターの演出が見事だっただけに。
もともとジュリアード繋がりだったローラ・リニーとジェニファー・カーペンター、彼女たちのキャラクターは非常に対照的ながら、共になかなかのものでした。すでにベテランの域に達しているローラ・リニーのすばらしさは『ミスティック・リバー』で証明されていましたが、ジェニファー・カーペンターという名前すら聞いたことがなかった私としては、彼女の健闘を称えないわけにはいきません。とりわけ、一緒に寝ていたボーイフレンドが夜中に目覚めたとき、ベッドの傍らでほとんどありえない姿勢で硬直していた場面、あのシーンには背筋がヒヤッとする思いでした。
ともすればジェニファー・カーペンターのインパクトばかりが記憶に残ってしまいそうな本作ですが、前編を覆う、不吉な寒々しさが強調された画面設計もまた忘れがたく、それはイーストウッド組であるトム・スターンの的確さだったのではないか、と。私は鑑賞後にその事実を知ったのですが、なるほど、トム・スターンはこういう映画も撮れるのかと感心しました。
本作は裁判劇と言えるのでしょうが、クライマックス近くでローラ・リニーが陪審員に向かって熱く語りかける演出がもっとも印象的でした。不可知論者で常に冷静な彼女が、公判を繰り返すうちに変化していく様が丁寧に撮られていましたが、彼女の日常を幾度か見せていたことが重要だったのでしょう。その手の丁寧さは、おそらく今のアメリカ製ホラーには求められていないと思うのですが、つまり言いたいのは、スコット・デリクソン監督が持つのはホラー的な資質だけではなく、繊細なドラマを構築する資質でもあったのだということなのです。
ラストはいかにもアメリカ的な速度で物語が締めくくられた感があるにはありましたが、全体としてはそれほど悪くはありませんでした。
2006年04月16日 17:19 | 邦題:あ行