2006年04月12日

『アメリカ、家族のいる風景』を観て

アメリカ、家族のいる風景原題:Don't Come Knocking
上映時間:124分
監督:ヴィム・ヴェンダース

ヴェンダースにとってのアメリカは、ある種のユートピアであり、あるいは残酷な現実でもあったのでしょう。そしてこの作品を最後に、一貫して拘り続けたアメリカから彼はドイツへと帰っていきました。最後はやはりサム・シェパードと組むしかない、そして、『ハメット』の時も『パリ、テキサス』の時も叶わなかったが、今度ばかりは絶対に主演してもらわねばならない……ヴェンダースのそんな思いが、全編を通して緩やかに画面に現われてくるようでした。

『アメリカ、家族のいる風景』は西部劇で始まり西部劇で終ります。いずれも劇中劇としてではありますが、ヴェンダースのアメリカとは、西部劇(さらに言えばジョン・フォード)抜きではやはり成立しなかったのではないかとすら思いました。アメリカとの別れに西部劇を持ってくるヴェンダースの姿勢には、本作の出来栄えとは別に、やはり感動的です。

私はこれまで、ヴェンダース作品を心から安心して観たことなどなかったように思えます。いやむしろ、その不安定感を好んでいたのかもしれませんが。ところどころ難解な部分もあるけれど、最終的には好意的に観てしまっている。彼が意図するところと観客の反応には常にズレがあるのではないか、しかし、しかるべきショットを観れば、もうそんなことはどうでも良くなってしまう…映画ってそういうものなのかもしれないな、などと妙に楽天的になってしまったりもするくらいで。

ところで主人公の娘を演じたサラ・ポーリー、私は彼女を初めて観たのですが、なかなか素晴らしかったですね。とりわけ、澄んだ目でふと微笑む表情はほとんど神々しく、いい意味で非現実的な美しさだったと。加えて思い出されるのは、長らくはなればなれだった息子が父親に再会した後、ヤケになって自宅の家具を片っ端から窓の外へ投げ出すのですが、その様子を見ていた父親が道路に投げ出されたソファーに力なく座り込んでしまう場面です。このシーンに、ヴェンダースは間違いなく強い思い入れをしていたはずです。だんだんと日が暮れて行き(ここでは所謂“アメリカの夜”が出てきたと思います)、最後にはそのソファーで寝入ってしまうのですが、このやるせないシーンに見てとれる脱力感(疲労感)、それこそ私がヴェンダースに求めていたものだったのかもしれません。

私は今、『Wim Wenders und seine Filme』(ラインホルト・ラオ著,瀬川裕司,新野守広訳)という書籍を読んでいます(こヴィさんに感謝!)。全て読み終えたら、私のヴェンダース観は変わるでしょうか。いや、多分変わらないでしょう。

2006年04月12日 17:30 | 邦題:あ行
TrackBack URL for this entry:
http://www.cinemabourg.com/mt/mt-tb.cgi/567
Trackback
Title: 『アメリカ、家族のいる風景』の動と静
Excerpt: 『アメリカ、家族のいる風景』では、動きのあるショットと絵画的なショットが、それぞ
From: Days of Books, Films
Date: 2006.04.23
Title: 『アメリカ,家族のいる風景』
Excerpt: 丸ごと大好きなヴェンダース映画。 乾いた荒野のむこうにしっとり温かな絆があった。 ヴィム・ヴェンダース監督の愛したアメリカ。 かつて西部劇のスタ...
From: かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY
Date: 2006.04.27
Title: ラビリンス@アメリカ、家族のいる風景
Excerpt: サム・シェパードが何かを追う。 ティム・ロスがサム・シェパードを追う。
From: 憔悴報告
Date: 2006.05.23
Title: NO.164「アメリカ、家族のいる風景」(ドイツ・アメリカ/ヴィム・ヴェンダース監督)
Excerpt: 「パリ・テキサス」から20年。 孤独な男たちは、喪った時間を、取り戻せるのか? もう、不朽の名作と評してもいいのかもしれない。「パリ・テキサス」。カンヌ...
From: サーカスな日々
Date: 2006.08.13
Comments

>ヴィ殿

エゴヤンと言えば、『エキゾチカ』にも出てたんですねぇ。全然覚えていませんでした…
リンク先を読みましたが、いろいろな逸話を持つ女優みたいですね。面白い。長編デビュー作も観なければ。日本でも公開するでしょうか。。。


Posted by: [M] : 2006年04月17日 10:01

サラ・ポーリー良かったでしょー! エゴヤンの『スウィート・ヒア・アフター』のあの子ですよー。さらにギリアムの『バロン』に出てた。→ http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=62884
今度は監督もやるんですよー。


Posted by: こヴィ : 2006年04月17日 01:10
Post a comment









Remember personal info?