2005年12月05日

『七人のマッハ!!!!!!!』の馬鹿馬鹿しさは華麗さとして記憶される

七人のマッハ!!!!!!!『マッハ!!!!!!!!』一本を観ただけでタイ映画の魅力に取りつかれた、などと言うつもりはありませんし、いくら物語ではなく、そのアクションにのみ存在意義を託しているからといっても、脚本の稚拙さは一本の映画としての評価を、貶めるとまでは言わないにせよ、プラスの方向への導くことはほとんどなかったので、このほど新作として封切られた『七人のマッハ!!!!!!!』の、冒頭の20分程を観た私としては一先ず苦笑するほかなく、例えば最初に銃撃戦が展開されるまでの視線の交差や、敵の一人が銃を抜くやいなや、警察側の2人が敵よりもすばやく銃を抜き、それぞれが二丁拳銃でまわりにいた数人を一瞬のうちに撃ち殺すあたりの描写は、最近見た『TAKESHIS'』における同じシーンと比べて全く悪くないのですが、にもかかわらず、とにかく安易なスローモーションが頻発されるし、どちらかと言うと素手の死闘が繰り広げられることを期待していたのに、そんな期待をあからさまに踏みにじるがごとくに至極簡単に、呆気なく銃で殺しまくるので、「ああ、この程度の映画か、でもあの『マッハ!!!!!!!!』のようにせめて“痛みを感じさせる”アクションだけでも見せてくれないだろうか」と半ば諦め気味に画面を見続けるしかありませんでした。

だけれども同時に、脚本の出鱈目さだとかスローモーションの多用などのマイナス要素をはるかに凌駕してしまう奇跡がしばしば起こってしまうのもまた映画なのだ、ということを半ば信じている身として、その一点にのみ賭けてみようという気がしていたのもまた事実で、実はこの『七人のマッハ!!!!!!!』という映画の度を越した荒唐無稽には、結果的に“二度”裏切られることになるのです。そう、本作の後半の展開は、例えれば、ゴダールの『映画史』でも引用される80年代真の傑作とも言うべき女子プロ映画『カリフォルニア・ドールス』ラストの、ほとんど華麗さにまで昇華した馬鹿馬鹿しさを思い出させてくれる程に感動的だったのです。こんな奇跡を目の当たりに出来ることなどそれほど多くなく、だから、私は『七人のマッハ!!!!!!!』を全面的に支持したいと思います。誰が何と言おうが、この映画は馬鹿であると同時に人を真に感動させる映画なのです。

ここで一つ一つの馬鹿馬鹿しさを数えたててもキリがありませんし、それは是非観ることで体験していただきたいので詳述は避けますが、それでも一つだけ挙げるとすれば、とにかく本作のアクションはほとんど全てが“無駄”な要素から成立していて、アクションのためのアクションとでも言うべき非=効率性が溢れんばかりなのですが、その“無駄”に対し、文字通り命を張っているということ、一体そんなことをして誰かが報われるのかわからないようなその運動には、有無を言わせない感動が横溢しています。7人の主要人物(といっても実際には、ダン・チューボンを除けば、ただの見世物的な人物だともいえるのでしょうが)はそれぞれ現実にアスリートでもありますが、彼らは物語に貢献しているというより、ただ純粋にアクションにのみ貢献していて、その職業意識が素晴らしいのです。それを荒唐無稽だと言うなら全くその通りなのですが、その過剰な荒唐無稽さがあってこそ、本作は突然変異的な感動を生み出すのです。

本作の美点はまだあります。それは、作品内で仮借なき暴力が随所で炸裂しているという点です。中盤から全く別の映画に変貌するという、あの人を食ったような、それ自体が暴力的な展開と言うほかない転調自体もさることながら、極悪非道なテロリストによる一つ一つの殺戮シーンも相当残酷で、銃で撃つにも無抵抗の人間に対し何発も撃ち込むわ、子供ですら思い切り放り投げ叩きつけるわで、まともな人間がみれば怒りが込み上げてくるような非情さを画面に刻み付けているのですが、そんな非=人道的な暴力の存在ゆえに、7人のアスリート達や意気消沈していた村人が立ち上がるきっかけになる、あのタイ国歌の大合唱場面が、馬鹿馬鹿しさを超えた、身震いするような感動を齎すのです。まさに『カリフォルニア・ドールズ』における、アメリカ的な連帯の表出ような大合唱を再現しているかのようです。

その後に展開される逆転劇は、観るものにとって爽快と言う他ありません。
もうその時になれば、馬鹿馬鹿しさにではなく、そのアクションの一つに一つに笑い、驚き、感動している自分に気づくでしょう。そしてラスト近く、テロリスト一の武闘派みたいな男とダン・チューボンの死闘はまさに“痛み”がダイレクトに伝わるかのような完成度で観るものを圧倒せずにはおきません。その先にあるには、絵に書いたような大団円だと誰もが予想するでしょう。そして、その予想と寸分違わぬラストシーンが展開される時の満腹感。10人にも満たない観客たちの中で、私は感動に打ち震えていました。やられた、もう何も言うことはないとさえ思いながら。

ここまで長く書き綴るつもりではありませんでしたが、大した内容もないこんな文章を一気に書き上げてしまいました。たまにはこんな興奮状態も悪くはありません。この文章を読んで、一人でも多くの友人・知人が『七人のマッハ!!!!!!!』を観てくれるといいのですが、まぁそれはこの際どちらでもいいような、そんな気もします。

2005年12月05日 23:18 | 邦題:さ行
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