2005年11月28日

『アコード・ファイナル』⇒『モンドヴィーノ』な週末

filmex.jpg『バッシング』が最優秀作品賞に選ばれて閉幕した「第6回東京フィルメックス」ですが、どうやら私が観ていないウィルソン・イップの『SPL』やソン・イルゴンの『マジシャンズ』あたりの出来栄えの素晴らしさを聞いたり読んだりしていた身としては、かなり意外な結果だったと言わねばなりませんが、未だ正式公開の目処が立っていない『バッシング』のような孤立した映画や、まだ若い中国の新人監督に審査員特別賞を与えたことなどから察せられるのは、この映画祭が担おうとしている役割というか意義、すなわち、適度に“国際的”で“政治的”で、ところどころ“空疎”な、どこかのイベント映画祭のようにはなるまいという主催者側の強い意志のようなものであり、未だ多くの人々にとって知られざる映画や、諸処の事情により公開が危ぶまれているような映画の背中を、有形無形で後押ししようという熱意のようなものです。
私はたった2本しか観ていませんが、それでも魅力的な作品のセレクト、適切な規模、スムースな会場運営など、いずれも一観客として特に不満など感じずに映画作品を観られたという事実が、そのまま幸福かつ刺激的な体験として記憶されうるということに心から感謝したいと思います。先ごろ憤懣やるかたない思いを残したまま閉幕した某映画祭とは違い、来年こそはより多くの映画を観ようと決意させるに充分な映画祭でした。

というわけで、26日はフィルメックス作品中の目玉だと個人的には思っていた『アコード・ファイナル』へ。席について上映を待っていると、目の前に朋友・こヴィ氏の姿が。やや後方には山田宏一氏の姿も見受けられ、この貴重な機会を逃さないことの重要性を確認しました。

本作のクレジットは、「I・R・ベイ」とあり、これはイグナツィ・ローゼンクランツと言う人物の変名であるらしいのですが、ではダグラス・サーク、というよりもデトレフ・ジールクはいかにしてかかわりを持ったのかと言えば、どうやら監修者として本作に関わったらしいので、厳密に言えば、監督はデトレフ・ジールクではないようです。
亡命者としてのデトレフ・ジールクが監修した割りに、本作はまるでアメリカ映画のように楽天的側面を持っていて、随所に見られるいかにも心躍るギャグの数々には驚くばかりでしたが、まるで『スクール・オブ・ロック』を観終えた時のような爽快感と感動が、今から70年近く前のスイス映画に存在していたという事実。ラストでは思わず涙しそうになりましたが、そこにある“豊かさ”はアメリカにおけるスクリューボール・コメディと同質のものだったようにも思われ、あらためてこの作品で出会えたことに感動した次第です。
上映後、こヴィ氏共々、「いやぁ良かったねぇ〜」などと言い合ったのですが、いつになく幸福な映画体験だったと思います。

さて、日付が変わって昨日はアミューズCQNにて『モンドヴィーノ』を鑑賞。予想通り、半分程の入りでした。上映前に、売店でワインを飲んでいる人が多く、その光景は『サイドウェイ』を観たときに通ずるものがありました。ついついつられて赤ワインなど購入してしまった結果、映画の途中でうとうとしてしまい、若干の後悔も。
本作は、私のようなワイン好きで無くても楽しめるような構成にはなっていると思いますが、上映時間がいささか長いと思われたのが残念なところ。ただし、地味(テロワール)かグローバリゼーションかという二項対立より、日々のワインを楽しむために役立ちそうないくつかの知識が身についたという点からは評価できる作品ではあります。
ところどころ挿入される音楽の音量が若干大きかったように感じたのは私だけでしょうか。それらが意図されたことだったかどうか、私にはわかりかねましたが。いわゆるドキュメンタリー的なカメラの動きを越え、ほとんどやりすぎな感もあるズームの使用は逆に新鮮でもありましたが、まぁ映画を観たというよりは、興味深い教養番組を観た後の感覚に近かったような気も。だけれども、上映後にはやっぱりワインを飲みたくなり、まんまと飲んでしまったくらいですから、それなりに楽しみつつしっかりと影響を受けてしまったという事実を鑑みれば、これは紛れも無い一本の映画だったと。
個人的には、南仏のラングドックで“詩のようなワイン”を作る男、エメ・ギベール氏のゴダール的とも言える断言「ワインは死んだ」という言葉にグっときました。彼の発言は、いずれもこちらを率直に肯かせるものばかりで、人生の重みがそのまま発言の重みとなった数々の断言が印象的でした。
年末、いくつか予定されている忘年会では、一回くらいラングドックのワインを飲みたいと思っています。

2005年11月28日 12:34 | 映画雑記
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Title: モンドヴィーノ
Excerpt: ワイン、大好き!! 昔は断然“赤”!しかもフルボディのタンニンたっぷり♪ 色も深みもある濃〜いのが大好きでよく飲んでたなぁ。 今は年齢と共に好みも変わり、同じ赤でもライトボディ。 でもどうせ飲むなら、断然“白”! しかも軽くて飲みクチのいい、フルーティ...
From: 映画とはずがたり
Date: 2005.12.30
Comments

>秋日和様

こんにちは。コメントありがとうございます。
確かに朝日ホールは見づらいですね。今回は短かったですが、長い映画の場合、例えば『スピオーネ』のように、よほど面白くないと耐えられない気がします。
『アコード・ファイナル』は、プログラムにある上映時間よりも数分短くなったバージョンとのことでしたが、個人的にあの短さがたまりませんでした。

>こヴィ様

国債映画祭というのはどこかで聞いたことのある言い回しだったので、ニヤリとしましたが、間違えでしたか…(笑
そうだ、貴兄と語り合う前に、何本かロメールを観ておかねばなりませんでしたね。では、貴兄も是非『サイドウェイ』を…


Posted by: [M] : 2005年11月29日 09:37

訂正(恥)>国債→国際


Posted by: こヴィ : 2005年11月28日 15:03

>秋日和さんにまったく同感です(はじめまして)。各国のシネマテークやフイルムセンターとの連係が年々深まっているようで嬉しかぎりですね。オープニングセレモニーでも、中川信夫は来年の2つの国債映画祭(ヴェネチアだったか?とあと一つ)でレトロスペクティブが決定したと報告がありました。

>[M]さん
『モンドヴィーノ』やはり行ったのですね。しかし『サイドウェイ』早く見なきゃ…。そして『秋の恋』見てください(しつこい・笑)。私もやっと昨日『世界』観ましたー。また語りましょう!


Posted by: こヴィ : 2005年11月28日 15:01

『アコード・ファイナル』、見づらい朝日ホールの上にビデオ上映という悪条件を吹き飛ばすくらいの傑作でした。


Posted by: 秋日和 : 2005年11月28日 13:12
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