2005年11月09日

ある日の会話〜『ロバと王女』を観て

ジャック・ドゥミ亡き2005年の今、ずっと観たかった『ロバと王女』をようやく観る事ができたよ。今回は、アニエス・ヴァルダやその息子のマチュー・ドゥミらによるデジタル修復されたニュープリント版の上映で、これはお世辞ではなく、本当に新作のような美しさだったな。

---もう35年も経つんだよな。主演は君が偏愛するドヌーヴだし、それだけで相当楽しめたんじゃないの? あ、今や映画監督や製作者として知られるジャック・ペランが相手役かぁ。もっとも、俺達にとっては“『ニューシネマ・パラダイス』の”と言ったほうがより身近に感じられるけど。その他ジャン・マレーにデルフィーヌ・セイリグ、キャストだけ見てもそれだけでファンタジックな感じがするね。

最初にこの映画を知ったのは学生時代だから、もう10年以上前だよ。当時は澁澤龍彦ばかり読んでたんだけど、中でも彼の唯一の映画エッセイ集『スクリーンの夢魔』を何度も読み返してね。澁澤もドヌーヴ好きで、彼女に関するエッセイが2つくらい収められていたんだ。で、この映画を知ったというわけ。当時はまだ相当偏った嗜好で、ヨーロッパ映画ばかり観ていたんだけど、どのヴィデオ屋を探しても『ロバと王女』なんて置いてないし、「ぴあ」のオフシアター欄なんかをまめにチェックしてたけど、ついに公開されることは無かった。もしかしたら、テレヴィではやってたのかも知れないけどね。今回のリバイバルを機に、恐らくdvd化されるだろうけど、とにかく後3回は観たいよ。

---ということは、かなり評価しているんだな。童話が原作みたいだけど、君はあまりそういうの好みじゃないと思ってたよ。ファンタジー嫌いって言ってなかったっけ? 最近も『ロード・オブ・ザ・リング』とか『ハリー・ポッター』とか、あんなの観るか! とか行ってたじゃん。

いや、まぁそれはそうなんだけどさ…ただ、頑なにファンタジーを軽蔑しているわけではないよ。実際、広義のファンタジーとして捉えられる映画はそれこそ無数にあるし、そもそも映画とは全部ファンタジー的側面があるんじゃないの? まぁそんなこと言い出すとまた別の議論になるからやめるけど、俺が嫌いなファンタジーは、悪い意味でハリウッド的というかスペクタクル的というか、まぁそういった類のものに限るとだけ言っておくよ。
『ロバと王女』はただ童話を忠実に映画化しただけじゃなく、そこに歌と踊りが加わったミュージカルファンタジーなんだけど、まぁその楽しさと言ったらないね。上映後、終始ニンマリしていた自分に気づいて回りを気にしたくらいだよ。映画を観てうっとりするなんて、このところ無かったからね。

---写真をみただけでもそのファンタジーぶりが伺えるけど、やっぱり衣装や小道具なんかは凝ってた?

もうひたすら現実離れしてたよ。そこが素晴らしいんだけどね。まぁシンデレラの世界観を思い出せばだいたい想像がつくとおもうけど、あっと驚くような映画特有の表現が出て来るんだよ。赤や青に染められた馬とか、きらきらした魔法のステッキだとか、喋るバラだとか、透明の壁だとかね。で、最後はヘリコプターだからね。

---ヘリコプター?(笑) それはなかなか出鱈目だね。

でしょ? 笑ってしまうけど、それは決して苦笑ではないよ。大らかな感動というかな。それを許せてしまうあたりが、ジャック・ドゥミをジャック・ドゥミ足らしめる偉大さなんだよ。

---なるほど。で、やっぱりドヌーヴは美しかったと…

美しいと同時に愛らしかった。澁澤も褒めてたと思うけど、彼女がケーキを作るシーンがあってね。そこは特撮で、ドヌーヴが2人の女性、すなわち、豪華な衣装を纏った王女とロバの皮を纏った下女を演じてるんだけど、その2人が歌いあいながら王子のためにケーキを作る。そのシーンがとにかくいいんだよね。ルグランの曲に乗って楽しさが満ち溢れてくる。空想の中で、ジャック・ペランとドヌーヴが仲睦まじげに草原を転げまわるシーン、どこで撮ったのかはわからないけど、久々にロケ地を訪れたくなるような場所に出会った感じがした。2人がパンかなんかをお互いに食べさせ会いながらじゃれるシーンなんかさ、あそこで幸せな気分になれない奴とは金輪際縁を切らせてもらいたいとさえ思うね。

---君が映画をみてそんなに幸せになるなんて、ちょっと不思議な感じがするなぁ。普段はそういうこと言わないしね。それだけの映画だったということだろうね。

いやもうね、理屈はいらないよ。とにかく観てニンマリして欲しい。それに尽きる!!

2005年11月09日 12:03 | 邦題:ら行
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Title: [Memo] ジャック・ドゥミ監督作『ロバと王女』とカラーの褪色について
Excerpt:  ル・シネマにてジャック・ドゥミ監督の『ロバと王女』を見る。ペローの童話「ロバの皮」を映画化したファンタスティックな作品で、ミシェル・ルグランの音楽が軽快で、心地いい。『ブラザーズ・グリム』に当てつけての公開じゃあるまいな。  カトリーヌ・ドヌーヴは映
From: The Mo[u]vieBuff Diaries
Date: 2005.11.09
Title: 『ロバと王女』レビュー/L'amor ,Je t'aime??♪
Excerpt: クリスマスも近づいたことだし、突拍子もないファンタジーもいいかなぁと、渋谷bunkamuraで公開中の『ロバと王女』を観にいった。 シャルル・ペロー原作のおとぎ話ということで、どうしても『ブラザーズ・グリム』を思い出してしまうわけだけれど、なんといっても本作...
From: 西欧かぶれのエンタメ日記
Date: 2005.12.18
Comments

>ヴィ殿

そうですね。あの唐突な悲劇、私の印象としては悲しいというよりもむしろ美しいなどと思ってしまったんですが、男としては不可解極まりないというか…
まぁそういう部分があるから、映画を観続けるのかもしれませんが。


Posted by: [M] : 2005年11月13日 21:23

>『幸福』、あれこそ“女の謎(!)”です。


Posted by: こヴィ : 2005年11月12日 01:42

>viさま

なるほど、確かにこんな映画を観ながら育った子供は幸福だなぁ……幸福ついでに、ヴァルダの『幸福』も是非。人生の暗い部分も教えてあげましょう。


Posted by: [M] : 2005年11月11日 14:33

私も日曜に観ましたー。自分の子には(いないけど)ディズニーなどではなく断固ドゥミを観せよう!!と決意しました(笑)。素晴らしすぎます、これぞおとぎ話。


Posted by: こヴィ : 2005年11月10日 15:00
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