2005年10月13日

『不安』、非=ネオレアリズモな怪作

すでに50年以上前に撮られた本作ではありますが、今尚人間の情動が生々しく目の前に迫ってくるようです。浮気を隠そうとする妻(イングリッド・バーグマン)が次第に追い詰められヒステリックになる様の、すぐそばにいるかのように具体的なイメージ。

パリで公開された当時、場末の小劇場でしか公開されなかったと、どこかでゴダールが書いていましたが、本作はロッセリーニのフィルモグラフィの中で、どうやら失敗作扱いされているようなのです。イングリッド・バーグマンとの訣別と結びつければ、本作に漂うノワール調の雰囲気(印象的な影の効果)にも容易に納得してしまいそうになるのですが、その辺りの事情についてはこの際無視したいと思います。

浮気をネタに強請りをはたらく情夫の元恋人とイングリッド・バーグマンが、夜のキャバレーで落ち合う場面。このとき、二人は共にカメラを正面から見据え、互いの主張をし合う。この切り返しは、私が知っているネオレアリズモのイメージからは程遠く、ほとんど不気味とも言える程強烈な印象を齎します。その後にある重大な秘密が暴露されることになりますが、その前兆に相応しい、途轍もない緊張感を生みだすことに成功していると思いました。人物を真正面から撮ること。そのことの不自然さが、ここでは重要なのです。

物語の終焉がいささか予定調和的だな、と思って調べてみると、どうやら現在発売されているヴァージョンは、「Non credo piu' all'amore (La paura)」というタイトルで77年に公開されたもので、配給業者によってバーグマンの説明的なオフの声が追加され、自殺未遂のシークェンスを削除してハッピー・エンドに変えられた短縮・修正版らしいのです。だとすれば、オリジナルのヴァージョンは、もしかするとより陰鬱とした終焉だったのかもしれません。その真相を知るには、今のところ、オリジナル版が公開されるのを待つしかないようです。ただし、本作はこのままでも一見の価値があるという事実に変わりはありません。

2005年10月13日 12:57 | 邦題:は行
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