2005年10月13日

『ランド・オブ・ザ・デッド』、これはこれでいいのだと思わせる映画

アメリカ映画のある部分の神話を築き上げながら、そのジャンルの新作を監督するのに20年もの時間を要さねばならなかったジョージ・A・ロメロは不幸だとも言えます。そんな不幸を背負いつつも尚、ハリウッドシステムに上手く折り合いをつけようとはしなかったロメロが、今回ユニヴァーサルの制作で監督し、さらにこのようにいかにも簡潔で贅沢なアメリカ映画をふと差し出すのであれば、特にゾンビ映画のファンではない私でも、やはり喜ぶべき事態として劇場に足を運ばねばならないと思いました。

空間は平面に限定され、人間もゾンビも、等しく“敵”となりえるような絶望的な状況と、それを高みから見下ろすデニス・ホッパーという図式が、現在のアメリカに等しいのかどうかはこの際問わずにおきます。いくらゾンビが知識を身につけはじめようとも、侵略意識が芽生えようとも、彼等が人間を喰らう仕草と描写を、私は観たいのであり、実際、ロメロは見せてくれました。それは間違いなく一つの価値として、私に届きました。

全体としてやや食い足りない感もあったにせよ、アメリカ映画のしかるべき描写をそのまま反復しようとするロメロのいい意味での図々しさ(ロバート・ジョイのあの仕草!)、イタリア映画史における過剰な存在であるダリオ・アルジェントとの、もはや過去となったパートナーシップが、アーシア・アルジェントの起用という形で変奏されていること、あるいは、“あの『イージー・ライダー』の”という冠を年月と共に消滅させているかのように、あらゆる映画に出鱈目なほど出演している感じがしないでもないデニス・ホッパーが、自らの牙城をゾンビ達の侵略されることによってどんどんうろたえていきながらも、部下を平然と撃ち殺す瞬間だけは誰よりも冷酷な表情をしたこと等々、感動的なシーンも決して少なくはないのです。

ラストを鑑みると、きっとまた続編も作られるのでしょう。
恐らく私は、他の監督の手による続編は観ないと思います。いつかロメロが監督するときには必ず駆けつけると思いますが、それまでにまた長い沈黙が訪れなければいいと思っています。

2005年10月13日 12:40 | 邦題:ら行
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Title: ランド・オブ・ザ・デッド
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