2005年10月11日

ヴェンダース!ヴェンダース!ヴェンダース!

ww_1008.jpg8日(土)は、boid主催「ヴェンダース・ナイト 〜もうひとつのアメリカ〜」を観に池袋シネマ・ロサへ。あまりの混雑ぶりに若干のパニック状態になり、23:00の開始予定が大幅に遅れました。私は予約していたから良かったものの、キャンセル待ちにあれほどの列が出来るオールナイト上映というものを初めて体験し、しばし呆然。ひとえに黒沢清氏のトークと、その日のみ限定配布される冊子目当てということでしょう。全体的に客層は若く、最終的には補助席が出る程超満員でした。ng氏と一番後ろを陣取っていると、開始直前くらいにこヴィ氏の姿も。ちょうど私の隣が一席空いたままで、結局、31歳の男3人が仲良く並んでヴェンダース体験という、まぁこれも人生初体験でした。

上映された作品は『ミリオンダラー・ホテル』『アメリカの友人』『都会のアリス』の3作品。実はその日中に借りてきたdvd4本を観てしまわねばならず、その所為で昼寝も出来なかったので、オールナイト最後の作品である『都会のアリス』を観る頃には、ちょうど車中の緩やかな振動が眠気を誘うように、あの緩慢で心地よい移動に次ぐ移動が確実に私を睡眠へと誘うだろうと半ば覚悟を決めていました。

初見だったのは黒沢清氏と同じように、『ミリオンダラー・ホテル』のみでした。
彼がそうだったように、私もこの作品は“気が付いたら終っていた”のであり、ヴィデオが発売された後も、個人的に好みではないミラ・ジョヴォビッチが写ったパッケージ写真を見ると、手にとるのを躊躇ってしまっていたのです。ng氏は観ていることすら忘れていたし、こヴィ氏は封切りで観て以来どうしても許せない作品だったと言うので、期待と不安がちょうど半々の状態で臨みました。

黒沢清氏が指摘していたように、本作はヴェンダースらしからぬカメラの動きが散見され、冒頭のスローモーションに始まり、(boid主宰・樋口氏によれば)“ゴダール的”スローモーション、半ばコメディ的な早回し、そしてラスト近くの360度ターンなどなど、なるほど、これは確かにヴェンダースにおいて何かが吹っ切れたような感じがしないでもなく、それが嬉々としてかやけっぱちにかどうかは知りませんが、様々なチャレンジをしているような気がしました。
私は恥ずかしながら、『夢の果てまでも』や『リスボン物語』、そして『エンド・オブ・バイオレンス』など、90年代以降のヴェンダースをほとんど観ておらず、よって、本作に込められた“意図”を未だ吟味しえずにいるのですが、そもそもシネマスコープが好きなこともあり、本作は思った以上に楽しめました。これは90年代以降の諸作品を観た上で再度検討してみたいとも思うのですが、とりわけ、空撮と縦移動(パンアップ・パンダウン等)にヴェンダースの新しい視点(それがよく言われているような「ヴェンダースのアメリカ」に繋がるかどうかも含め)を発見できるのではないか、などという考えが浮かびました。

『アメリカの友人』は言うまでもなく傑作、すでに5回は観ていましたが、劇場では初めてでした。これほど俳優としての映画監督が出演している映画もまたなかろうと思うのですが、その人選がまた途方も無いといえば途方も無く、ヴェンダースにとっては師と言ってもいいだろうニコラス・レイを始め、やはり呪われた映画作家であるサミュエル・フラー、「73年の世代」における同士ダニエル・シュミット、こちらもポスト・ヌーヴェルヴァーグの同士とあえて位置付けたい欲望に駆られるジャン・ユスターシュなど、いずれも所謂“正統な”映画史に亀裂を入れるような映画作家ばかりが召喚され、彼らがまさに彼らとしての異様な存在感を画面に定着させている様がただそれだけで観るものを撃つこの作品は、やはり映画作家“でも”あるデニス・ホッパーのウエスタンハットや、ジュークボックスに見られる「アメリカ」の存在と相まって、まさにヴェンダースにしか撮れない特異なアメリカ映画として生れ落ちたのだと思います。

『都会のアリス』に関しては、途中、予想通り睡魔に襲われ意識を完全に失ってしまったものの、やはり劇場では初体験であり、2回ほど観てはいましたが、リサ・クロイツァーが『アメリカの友人』のブルーノ・ガンツの妻だったことをあらためて発見したり、ラストの空撮は『ミリオンダラー・ホテル』へとリンクしているんじゃないかなどと妄想してみたり、フォードへの言及(モーテルのテレヴィと新聞記事)の直接性がヌーヴェル・ヴァーグのそれだと一人浮かれてみたりして、半分くらいは寝てしまったかもしれない本作ではありますが、それも含め、充実した映画体験でした。

11月にアテネフランセで開催される「ドイツ映画史縦断1919-1980」でデビュー作『都市の夏』が公開されるようですが、平日なので行けそうにありません。ひとまず今週から来週にかけ、ヴィデオで観られるヴェンダース作品を全て網羅したいなと思っております。

ng氏、こヴィ氏、お疲れ様でした。

2005年10月11日 12:00 | 映画雑記
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Comments

>yasushi様

どうもご無沙汰しております。
ヴェンダースをこよなく愛するyasushiさんも、やはり行かれましたか。しかも、仰ることはまったくその通りで、恐らく、私の二つ隣に座られていたのでしょう。でも、一番後ろというだけで、よくわかりましたね。ちょっと驚きました。

やはり映画好きが狭い、ということなのでしょうね。
このサイトを見てくれている方の中にも、まだまだいたのではないかと思います。あそこにいた人々には、確実にある共通項が存在しています。それがわかるあのようなオールナイトは、やはり面白いですよね。

今度は私もサイトのほうにコメントさせていただきます。
ではでは。


Posted by: [M] : 2005年10月18日 09:49

お久しぶりです、と言っても2度目の書き込みですが。
私もヴェンダースナイトに行きました。
やっぱり最高でした。

[M]さんにお会いしたことも無いので、なんの根拠もないのですが[M]さんかなと思っていた人が(ヴェンダースナイト行くようなことを書かれていた気がしたので)、[M]さんだったようです。私も一番後ろの席に陣取っておりました。恐らく[M]さんのご友人の左側に座っていた坊やが私です。
偶然というのもあるもので、東京が狭いのか、映画好きが狭いのか、面白いものですね。

では、また、覗きにきます。


Posted by: yasushi : 2005年10月18日 02:46

>こヴィさま

どうもお疲れさまでした。
実は、ng氏も早生まれなので、まだ30歳です。。。(笑)
つまり、私だけが31歳だったわけで。嘘ばっかりでした。

まぁそれはともかく、あのようにまとめて観られると、いろいろな考えが浮かんで面白いです。ng氏もあれを受けて、『さすらい』『ベルリン天使の詩』をレンタルしたらしいですし。

私は今週あたり何とか観直せればと思います。
また近くお会いしましょう。あ、またシネマ・ロサに行かなきゃならないんでした…


Posted by: [M] : 2005年10月13日 21:17

お疲れさまでしたー。 まず訂正させていただくと、あと5週間ほどはまだ30歳です!(笑) しかしホントなかば強制的に見せられる3本立て(もちろん自主的に行ったのですが)、ご指摘のようにこのような体験でしか発見できないことがいろいろあったように思いますね。『都会のアリス』のフイルムの劣化ぶりも逆に嬉しかったり。とにかく素晴らしい一夜でした。あの6:30の朝の雨、はたぶん一生忘れないでしょう。


Posted by: こヴィ : 2005年10月13日 18:55
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