2005年08月01日

事件だ!!!

土曜日、何気なく入ったユーロスペースで私は、“事件”に遭遇しました。普段は最低でも上映開始の40分前には劇場入りするのですが、その日は時間を間違えてしまい、結果的に15分前の到着に。思えば、会場であるユーロスペース1の座席がほとんど埋め尽くされているのを目の辺りにしたときにその予兆を感じ取るべきだったのかもしれません。しかし、ほんのささやかな“期待”に促されて来ただけの私のような鈍感な人間には、そんな予兆を察知するだけの繊細さなどありはしなかったのです。

後ろの方にポカンと空いている座席を見つけすぐさま滑り込むと、程なく上映が開始されたのですが、以降の98分間、私はスクリーンから片時も目を放す事ができず、しかし上映中、2つ隣の席で手を叩きながら大声で爆笑していた男性が、その恋人と思しき女性に何度と無く小声で囁きかけている声が音響とは関係なく耳に入ってくるのに腹を立て、さらにそんなバカのために一瞬でも気をそらしてしまった自分の集中力の無さにも腹を立て、もうまったく驚きやら歓喜やら怒りやらがない交ぜになったような気持ちのまま上映が終了してしまい、その言いようの無い感動的なパッションを何とか言葉にしようと、同行した相手に対し「これは事件だ!」とか言いながら興奮気味に劇場を後にしたのでした。

先日、当サイトにおいてちょっと引き合いに出してしまったこの映画、その時私は、まさかこれほどまでの映画とは思っていませんでした。確かにジャ・ジャンクーの『世界』とは全く異なるベクトルを指す映画です。しかし今、この映画を観ないという選択ほど愚かなこともないと断言できます。三池崇史氏も控えめながら絶賛していましたが、本当に小さな映画なのです。しかも、事件らしい事件は何も起こらない。にもかかわらず、これだけの映画にしてしまった内田けんじという監督、ほとんどマジシャンだと言えるでしょう。

今、当サイトを見ていただいている皆様、一刻も早くこの『運命じゃない人』という映画を観てください。嘗て私は『犬猫』を大絶賛しましたが、本作はそれにも劣らぬ映画だと思います。

2005年08月01日 12:07 | 映画雑記
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Date: 2005.08.15
Comments

>雄さま

コメント&TBありがとうございました。

この記事はいささか扇動的過ぎたような気もして、書き改めようかとも考えたんですが、観に行かれたのですね。レビューを読ませていただき、ホッと旨を撫で下ろししました。

おっしゃるとおり、このような脚本(というより本作の場合はむしろ構成)命のような作品を作る新人が出てきたことを嬉しく思います。ともすれば鼻につく“インディーズ嗜好”(やたらに“感性”を試そうとする映像や雰囲気を偏重するような嗜好)の対極に位置する作品でしょう。内田監督はどうやらその辺に意識的なようで、何とも逞しい限りです。

レビュー書きましたら、TBさせていただきます。


Posted by: [M] : 2005年08月10日 17:55

この記事を拝見して『運命じゃない人』見てきました。他人に、この映画面白いよ、と勧めたくなる作品ですね。感想をアップしましたのでご笑覧を。


Posted by: : 2005年08月10日 12:56

>hebakudanさま

その闘病日記は「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」というものでしょうか? 非情に興味を惹かれますね。見つけたら購入します。

ああ、フランソワ・オゾンを忘れていました。私は『焼け石に水』以来、リュディヴィーヌ・サニエにやられっぱなしです。新作はどうやらあまり評判がよろしくなさそうですが……


>湾岸殿

いえいえ、こちらこそ。
鑑賞後、一応コミュニティを検索してみたら湾岸君の名前があって驚きました。しかも、観る前に立ち上げたんですね。今後、もっと増えると思いますよ。

私は素直にこの映画が好きです。こういう映画を無意識的に欲する時期があるんだと思います。そこにいいタイミングで現われた、そんな感じですね。


Posted by: [M] : 2005年08月05日 12:01

ご挨拶遅れた・・・かと思うのですが、コミュニティ参加ありがとうございます。

事件的傑作でしたよね。
ガッツリやられる前、鑑賞前に自分はコミュニティを作ったので、不安もあったんですけど。いやはや。
自分が鑑賞したのは7月20日、平日だったのですが、にも拘らずユーロスペースがほぼ満員で。そのことにさえ驚いたのに、この映画が放った力にはもう・・・。内田監督、大作は撮って欲しくないので、小津監督のような方になるのでは、と踏んでおります。小津監督の映画、1本も観てないんですけれど・・・(←最悪)。

『運命じゃない人』の賞賛記事が書かれているのを読むと、いつもコミュを作って良かったと思うのですが、こと今回に限っては、実際お会いしたことのある方に自分の作ったコミュニティを、知り合いだからという理由でなく参加してくださったことには・・・もはや感激です。
お身体、また怪我のないようお気を付けて、お仕事に、更新に、頑張ってくださいね。
そして、改めて、ありがとうございました。


Posted by: 湾岸 : 2005年08月04日 23:08

おお、失礼しました。エイズで亡くなったのは原作者のエルヴェ・ギベールのほうですね。勘違いの記述をしてごめんなさい。この作者の3年間の闘病生活を記録した本を読んだことがあります。関係のあったミシェル・フーコー(構造主義の思想家)と友人だった女優イザベルアジャーニなどが仮名で登場してくる内容で興味深い本でした。
そうそう、『太陽と月に背いて』は私も見ました。これはとてもよかったよね。ディカプリオはなかなかたいした俳優だと思います。他に[M]さんと同じものを見ているのは
フェリーニくらいかな。エドワード・モリナロの『MrレディMrマダム』、ジェームズ・アイボリーの『モーリス』、フランソワ・オゾンの『焼け石に水』などもありますが、
同性愛ものはフランスものがいいような気がしますね。
基本的に私も異性間恋愛のものは見ないですが、たまに恋愛映画を見てイイ作品に当たるとそれだけ強く記憶に残りますね。


Posted by: hebakudan : 2005年08月04日 22:43

>hebakudanさま

『傷ついた男』は未見でした。ちなみに、エイズで亡くなったのは原作を書いたエルヴェ・ギベールのほうではないでしょうか…

それはさておき、私は所謂“恋愛映画”を好んで観ることはあまりないのですが、確かにウォン・カーウァイの場合、すでに一つのスタイルを確立しているように思えます。
この手の映画は、私の場合、評価が両極端になってしまいがちです。どちらかと言えば、“成就しない愛”に惹かれる性向があると思います。

さて同性愛映画ですが、そのものズバリ男同士の恋愛、という映画はあまり観ていないかもしれません。例えば同じパトリス・シェローの最新作『ソン・フレール 兄との約束』の場合は、同性愛者の弟と兄の愛を描いてはいますが、それはあくまで兄弟愛であって、弟の恋愛に焦点を当てたものではありません。ただし、これはこれで結構好きな映画でもありますので、よろしければレビューを読んでみてください。

そんな感じですので、今思い出せる限りで同性愛が部分的にでも描かれたドラマ(恋愛とは限りません)を挙げれば、アニエスカ・ホランド『太陽と月に背いて』、ゲンズブール『ジュテーム・モア・ノン・プリュ』、デレク・ジャーマン『セバスチャン』、そしてこれは微妙なところですが、フェリーニ『サテリコン』、パゾリーニ『テオレマ』あたりになりましょうか。
以上はどれもまだ若かりし時に観たもので、当時私に与えたインパクトは大きかったように思います。

長くなりましたが、ざっとこんなところです。


Posted by: [M] : 2005年08月04日 11:25

こんにちは。私が観たのはエイズで亡くなったパトリス・シェロー監督の『傷ついた男』(仏1983)です。
六本木で上映されていたのは90年代後半だったように記憶しています。18歳の青年が街の公衆トイレで見かけた中年の男に突然理由もなく惹かれる。そのとき二人の間には別にどんな出来事も起らないのに、ただひたすら青年は男に惹かれて尾行してしまう。その「惹かれる」という目に見えない感情の強さ、その圧倒感にはものすごいものがある。非常に打ちのめされる映画でした。主演の青年はジャン・ユーグ・アングランドなんですが彼がまた大変すばらしい。で、前の座席の二人が同性愛者だとわかったのは
片方の男性がこの映画を見て泣き始め、もう片方の男性が泣いた男性の肩を抱きすくめたんですね。そのとき小さな声で二人が話していたようすから、「やはりどうもそれらしい感じ」を受けたわけですが、基本的に同性愛に偏見はないので、同じ恋愛ものを観るなら異性間恋愛の映画より、むしろこのような映画のほうを積極的に観るほうです。これまでに観た中のマイベストは『ヴェノスアイレス』(香港1997)です(主演はトニー・レオンとレスリー・チャン)。恋愛映画って単純なようでも本当は最も難しいジャンルだと思うんです。小説も実は恋愛ストーリーで読ませるのが一番難しいんじゃないかと私は思っているんですが、監督のウォン・カーウェイはこういう映画を作るのが実にうまい人だと感じます。[M]さんは同性愛映画では何がお好きでしょうか。



Posted by: hebakudan : 2005年08月04日 09:33

>hebakudanさま

こんにちは。
そうなんです。“物質的な衝撃”とは上手いことおっしゃられます。

しかし、その同性愛者カップルは、つまり何か行為に及んでいたということでしょうか? いや、流石にそれはないですかね。

私はたまに男2人で同士映画を観るのですが、第三者的な観点に立てば、我々もそのように思われているかもしれません。

ちなみに、その映画はどこで観たなんという映画なのか、差し支えなければ教えていただければ幸いです。もしかしたら、私も観ている可能性もあるかな、と。


Posted by: [M] : 2005年08月03日 18:37

あまり期待せずにみた映画が思いがけなくいい映画
だったりすると何か大きな石でもガツンとぶつかった
ような、本当に物質的な衝撃を感じるものですよね。
事件と言えば、かなり以前、六本木の映画館でとある
マイナーな映画を見ていたとき、実はそれって男性の
同性愛ストーリーだったんですが(私にはしかしその
映画はとても好きな作品)、私の目の前の座席に
座っていた男性の二人組みがまさにそのカップル
だったようで、しみじみ驚きました。
同性愛者の二人をあんなにまじかで見たのは
はじめてで、私にとっては小事件でした(笑)。


Posted by: hebakudan : 2005年08月03日 16:36
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