2005年08月03日

「74年の世代」との感動的な出会い

『運命じゃない人』の中で、30歳過ぎたら劇的な出会いなどない、みたいな台詞がありました。これは異性との出会いについて語られた台詞ですが、同じことが同性についても言えるのではないでしょうか。事実私に関して言えば、普段付き合いのある友人は、ほとんど高校時代の同窓生数人に限られてしまっているし、例えば誰かと新たに知り合う機会があったとしても、10数年来の気心しれた連中と同じような関係性を築くことは困難を極めると言わざるを得ません。

普段は一人で居ることが圧倒的に多いのだし、硬直した人間関係にとりわけ不平を感じることも無く日々暮らしてきた私ですが、しかし、サイトを開設したことによって、ある2人の重要な同士というか強敵(ここではあえて「とも」と読みます)に出会ってしまいました。2人とはmixiを始めてすぐに意気投合しました。もちろん、その媒介となったのは映画にほかなりませんが、驚いたことに彼等とは年齢が同じだったという事実もまた、我々を結びつけた大きな要因だったのではないかと思うのです。

その内の1人である通称・イカ監督氏とは、つい1ヶ月程前に顔をあわせました。いや、私が一方的に見た、といった方が正確でしょう。よって一言も言葉を交わすことが出来ず、それについては大いに後悔しましたが、彼とは次回の東京上映の際にでも再会し、是非話をしてみたいと思っています。
さて、ではもう一方であるこヴィ氏ですが、実は昨日会うことが出来たのです。何故急にこのような展開になったのかについては、つい先日書いた記事のコメント欄を見ていただければと思いますが、まぁそんなこんなで連絡を取り合い、渋谷で飲むことになったのです。

指定された南口にあるとあるカフェで彼を待つ間、そういえばこんな風に会ったことも無い同性を待つなどという経験はこれまでなかったなぁなどと考えてしまい、いったいどのように接したら良いものかと若干の不安が無かったわけでもなく、しょうがないので「ユリイカ」の最新号を読みながら早々にビールを流し込んでいました。
がしかし、こヴィ氏がその場に現れ握手を交わした瞬間、それまでの思考の全ては溶解し、誤解を恐れずに言えば、彼との間に同時代的な感性の完全一致を感じ取ってしまったわけで、以降、我々の尽きぬ映画への思いに始まり、知らず知らずの内に、愛やら人生やらの話まで極めて自然にシフトしていき、その内目の前にいる男性が何だか旧知の友人のようにも思えてきた次第。無論、あの限られた3時間強という時間の中で彼を理解しつくせたわけではないし、それは彼とて同じだとも思うのですが、かように錯覚できるということ自体を私は“奇跡”と呼びたいし、その奇跡は、まさに映画という得体の知れぬ存在が呼び込んだに違いなく、同時代的にほとんど同じような映画体験をし、恐らく同じ劇場で時間を共有したことも一度や二度ではないだろう彼との関係性は、まさにその3時間強で決定付けられたような気がします。まぁとどのつまり、非常に幸福な体験だったということです。

ワインのデキャンタを3本空けていい気分になった我々2人は、関西在住のためその場に居合わすことのなかったイカ監督を加えた「1974トリオ」なるものを結成。今後我々がどのような付き合いになるのかは、別れ際に再度交わした固い握手が何より雄弁に物語っていたと思います。

嘗て蓮實重彦氏が唱えた「73年の世代」という言説を始めて目にしたとき、その言説の荒唐無稽ともいえる強引さに舌を巻きながらも半分は引き気味だった私が、今、「74年の世代」という幻想といえば幻想を半ば信じてしまっているのですから、我ながら出鱈目だなぁと思いますが、ある時ある場所で、自分と似た、というよりも、異常なまでのシンクロ率を示すような人間はやはり存在するのだと、ここでは強引に結論しておきます。

2005年08月03日 18:28 | 悲喜劇的日常
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Comments

>[R]さま

たびたびありがとうございます。

実際のところ、誰がどのような映画を好きになろうと良いのだと思います。私も紆余曲折あって今のような傾向に至っておりますが、それが“正しい”などとは間違っても思えません。
ただ、いずれ[R]さんも“歴史”を意識する時が来るのではないかとは思います。その時、これまで意識的にも無意識的にも避けてきた作品群を発見できるのではないでしょうか。

とにかく最終的には、どんな映画でも観ないよりはまし、ということですかね。

それと、私に関してですが。身につけるものは赤くても、顔は赤くならない性質です。多分、同じ劇場に居合わせれば見つけるのは簡単だと思いますよ。ウォーリーほど目立ってはいませんが。


Posted by: [M] : 2005年08月10日 12:29

>[M]さま

告白すると実は、「cinemabourg」以外の映画レビューサイトって、とくに見たりしていないんですよ僕…鑑賞傾向がここまで似ていると事足りてしまうんですよね。本当に重宝しております! あとはアテネとかユーロなどの映画館サイトをいくつかチェックして、雑誌は主にぴあとプレミアを立ち読みします。最近はネットサーフィンもあまりしないですねぇ。

僕が記憶している限りで、[M]さんと同じ会場にいたか、もしくはニアミスしていると思われるのが、『世界映画の今を問う!』のイベントに始まり、『ユスターシュ特集」『フリック』『サマリア』『溶岩の家』『肌の隙間』…そして先日の『世界』ってところですね。実はいつも探してみてはいるんですけどね…赤い服に赤い靴でしたか!(そして赤ワインと赤い顔?)気づきませんでした。これからは頭に叩き込んでおきます。なんだか「ウォーリーを探せ!」見たいな感じになってきましたが、発見した際は、ぜひとも武装解除のほうをよろしくお願いします。

そうなんです! お察しの通り僕は「アメリカ映画」を喰わず嫌いしております。こう見えても高校生の頃は「ハリウッド映画」漬けだったんですけれどね…。ヨーロッパ諸国の映画を見て眠くなっていたその頃の僕は健全だったなぁと思います。今では「ハリウッド映画」は年に数本しか観ないですねぇ。決してアンチではないんですよ! だから[M]さんの幅広い映画セレクトとそのレビューがとても役に立つのです。貧乏学生なので、ピンポイントで傑作に出会えるのです!
といいつつ、『ミリオンダラー・ベイビー』を見逃してる僕は何者!?って感じですが…。

「アメリカ」という記号から、稚拙な僕がイメージする作品タイプは、アクション大作(SF含む)ものとドラマものと古典(西部劇含む)ものとインディペンデントものなんですが…SFと西部劇が苦手な僕は自然とインディペンデント映画に流れてしまうんですよね。
ハワード・ホークスもジョン・フォードもサム・ペキンパーも『スターウォーズ』も『ゴッドファーザー』も未見て信じられますか? では何を観ているのかというと…ジャームッシュでありギャロでありコリン&クラークでありガス・ヴァン・サントであり、ケヴィン・スミスでありリンクレイターでありポールでありウェスでありソロンズあたりなんですね。遡ればリンチがいてタランティーノがいて、出発は(ドイツ人だけど)ヴェンダースだったりするんですね。
僕が映画で観ている「アメリカ」って所詮この程度で、おそらくこの選択原理は、世代的なというよりは個人的な生理なのかも知れません。言語も風景も、アメリカに比べてヨーロッパの方が受け入れやすかったりします。でもやっぱり「茶化されたアメリカ」と「その傾向の映画」は相変わらず好きなんですよね。
そこにある種の「正義」を感じてしまうんです!

すみません、くどくどと書き連ね過ぎました。要は、みなさんに「必見アメリカ映画」をお教えしていただきたかったのです。よろしくどうぞ。


Posted by: [R] : 2005年08月10日 00:51

>[R]さま

はじめまして。コメントありがとうございます。また、サイトにリンクも張っていただきまして、恐縮です。

もはや男の友情を実感する年齢でも無いかと思われた矢先、世の中はまだまだ不思議なことに満ちています。
それにしても81年生まれとは! 羨望の若さです。私などその時何を考えていたのやら……その時よりは2mmくらいは成長していると信じたいです。

[R]さんの場合、まだまだ退行できる時間は多く残されていると思います。その気になれば、我々よりも多くの映画を観ることが出来るのではないでしょうか。ジャ・ジャンクーを発見する目をお持ちであれば、尚のこと。
お好きな監督とお見受けする限り、アメリカ映画の監督が見当たりませんが、ということは、まだ多くの発見が残されているのかもしれません。

現在、私と観ている映画がかぶっているようですね。渋谷で観られることが多いのでしょうか。渋谷の劇場で、赤いシャツと赤い靴を同時に身に着けている30前後の男がいたら、それは十中八九私です。良ければ話しかけてください。その時ばかりは、武装解除したいと思います。ただし、もし人違いだった場合は笑って誤魔化してください。


Posted by: [M] : 2005年08月09日 08:52

あまりに素敵な「1974」世代的な[M]さんの文章と、皆さんのコール&レスポンスだったので、部外者ながらコメントがしたくなってしまいました。
はじめまして、[M]さんとの映画館での遭遇率が高いと誰からともなく噂されている[R]です。
なんか男の友情っていいですね。しかもそれが30代で「映画」を通して始まるというのはなおさらに! そして確かに「友」は「強敵」であるべきですね。
僕は「1981(ジョン・レノンとジャン・ユスターシュが銃弾に倒れた年)」世代なので、皆さんよりだいぶ年下ですが…確かに「映画」的な熱狂と絶望のようなものはありませんでしたね。
唯一、ジャ・ジャンクーの発見は、同時代的でリアルタイムな出来事として興奮しました。
でもやはり、70年代生まれの方たちが持つ、クラシックへの理解と新しさへのスタンスには、いつも感心し、また嫉妬もしてしまいます。こと「映画」となるとその根は深いですね。
「1974トリオ」に参加できないことを残念に思いますが、陰ながら「その陰の1974プロジェクト(?)」を見守っております。雑用係が必要であれば、いつでもご用命ください。

蛇足ですが…僕の【監督BEST10】は、レオス・カラックス、フィリップ・ガレル、ジャン・ユスターシュ、ジャ・ジャンクー、アンドレイ・タルコフスキー、アレクサンドル・ソクーロフ、ロベール・ブレッソン、ペドロ・コスタ、アルノー・デプレシャン、成瀬巳喜男です。
この10人の映像は墓場まで持って行きたいです。こんな奴ですが、よろしくどうぞ。


Posted by: [R] : 2005年08月09日 05:13

>監督&こヴィさま

コメントありがとうございます。
サイトを始めて1年強。お二人との出会いと今回のトリオ結成が、サイト開設以来の一つの達成になるような気がしています。実際にはあっという間でしたが、サイトを運営してきた意義もあったなと感慨もひとしおでございます。

お二人が言う、あくまで“体験”としての熱狂や絶望なしに、我々はこれほど映画に心酔していなかったでしょう。先日こヴィさんとも話しましたが、我々の世代は古くも新しくも無い、いや、古さも新しさもあるという意味で、得している部分も多いですよね。現在のように、ソフト化やDB化の恩恵を受けながらも、その急速な流れに身をまかすというより、時に反動的に退行していくことで何かを掴んできた、そんな世代ではないでしょうか。

我々3人が最初に会す場所は、やはり劇場が相応しいと思います。来るべきその日に向け、一足お先にイメトレを開始しております。


Posted by: [M] : 2005年08月04日 11:50

いやー、昨夜は濃かったですね。明らかにうちらのテーブルだけ異様なオーラがでてたと思います(笑)が、なんか店員さんがすごく嬉しそーだったですね。

>「本当に映画に熱狂した事があるのだろうか?」
少なくとも劇場に数多く足を運ばないと、いくらソフトで何千本見ていても得られないエクスタシー、と絶望があると思います。「ミニシアター」恩恵(被爆)はまさにそうですね。

「団塊ジュニア」は国内だけですが、「1974」世代は、世界に羽ばたきます!


Posted by: こヴィ : 2005年08月04日 03:19

『74世代』参加します!!

この年はけっこう重要かもしれませんよ!

僕が年下と話てて思うのは、
彼らは「教養として」映画に接する前に本当に映画に熱狂した事があるのだろうか?という疑問です。
僕の年の人間はやはりスピルバーグに熱狂した小中時代、スピルバーグを否定する事で新しい何かを模索した青年期、そして今またスピルバーグに何か大きなものを感じている30才、って感じかな(笑)
あとミニシアターブームの煽りをモロに受けた世代でもありますね。ジャームッシュの存在はデカかったな。

東京に行った際は是非飲みましょう!!!


Posted by: イカ監督 : 2005年08月04日 00:17
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