2005年07月28日

『受取人不明』、その美しさは恐ろしくもある

原題:ADDRESS UNKNOWN
上映時間:119分
監督:キム・ギドク

前期キム・ギドク作品の、というより、私の中では今のところ一番評価しているかもしれない怪作。日本未公開の本作は、「韓流シネマフェスティヴァル」という、時流に乗っただけの軽い催しに組み込まれながらも、そんな軽さを強く拒絶するような狂暴な光を放っていました。

黒人との混血青年と受取人不明の手紙を出し続ける母、兄の玩具銃により片目を失った少女と彼女を救うどころかさらなる責め苦を与える薬中の米兵、混血青年をこき使う狂暴な犬の屠殺人、そして、少女に思いを寄せる内向的な少年……これらの人物は、言ってみれば韓国という国の底辺に蠢く獣です。彼らの、誠実で真摯な想いすら、不条理な不幸が容赦なくかき消していくでしょう。彼らがたとえ死から免れたところで、一体何が変わるのか。

『受取人不明』には、キム・ギドクの“怒り”が随所で炸裂しているかのようです。しかしだからといって、その“怒り”にはまるで温度を感じません。全てがただの出来事として、淡々と描かれていきます。そう、この“引いた目線”こそが最も恐ろしいのだということが、彼の作品から受ける印象です。そしてその事実が、これまで同様、絵画的なショットを生み出す理由でもあると思います。

この救いの無い残酷な映画においても、キム・ギドクの作品はやはり美しいのです。

2005年07月28日 12:59 | 邦題:あ行
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