2005年07月19日

『ジェリー』を爆音で観るという体験は感動的である

原題:GERRY
上映時間:103分
監督:ガス・ヴァン・サント

まず「爆音」について。
「爆音」とは、爆発する大音量であるが、音と言えど、「爆音」は“耳で聞く”というレベルをはるかに超えています。認識を超え、感覚的に“体験する”ものなのです。文字通り、全身で感じるという体験、それが「爆音」です。

このような実も蓋もないことは書きたくないのですが、今回はあえて断言したいと思います。
『ジェリー』を「爆音」で、しかもフィルムで観られるという体験がどれ程貴重かは、観た者でないと絶対に分からないでしょう。よってここでは「爆音」体験自体に対する言及はせず、映画作品としての『ジェリー』にのみ、先に書いたレビューの追記という形で触れたいと思います。

『ジェリー』は、その表現の純粋形態に秘められた途方も無い可能性を感じさせます。いや、“表現”は極限までそぎ落とされ、“表面”しかないのですが、だからこそ“見えてしまう”ことがあるのだと思いました。
重力、速度、風、音、無気力、そして絶望……それら見えるはずの無いものたちが、一斉に表面に立ち上がってくる。つまり、見える。それは例えば、タル・ベーラの『ヴェルクマイスター・ハーモニー』やモンテ・ヘルマンの『断絶』とどこかで通じ合っている気がしないでもない感覚です。

今画面上にある以外のことについて、観客は一切を知らされません。目にしている事物に纏わりつく“理由”や“経緯”なども、我々にはわからないのです。そしてそれは多分、そのような奥行き(外部)など予め無いのだ、と宣言する『ジェリー』においては、極当たり前の感想だと思います。それを退屈だと感じ、つまらないと断じる自由もあるでしょう。そして、この超禁欲的な作品において私が最も反応したのは、他ならぬ二人の俳優の、カメラの、自然の、“自由な動きと音”だということも書いておきたいと思います。

今はその体験を、一先ず“感動”という言葉に置き換えることで、何とかこの思いが伝わればと思います。

2005年07月19日 12:59 | 邦題:さ行
TrackBack URL for this entry:
http://www.cinemabourg.com/mt/mt-tb.cgi/619
Trackback
Comments
Post a comment









Remember personal info?