March 08, 2005

映画短評<2005.1〜2>

パッチギ
堂々たるエンターテインメントである。喧嘩シーンは流石といったところ。『ボーン・スプレマシー』より数倍は良かった。俳優陣も総じてよく頑張っていた。高岡蒼佑は『コンクリート』に出演したことを本気で後悔しているのではないか。これほどまでに演出の差が出るとは……。沢尻エリカはいい。振り返った時の表情がたまらなく良かった。小出恵介には勝村政信的な位置に収まって欲しいと思う。出色は真木よう子だったが、彼女を絶賛すべき言葉が未だ見つからない。彼女だけをもう一度観たいとすら思う。
まだ小学生だった時に『晴れ、ときどき殺人』のちょっとした濡れ場に昂奮し、擦り切れるほど繰り返しヴィデオを観た事を思い出し、ちょっとノスタルジックになった。

きみに読む物語
不覚にもラストのジーナ・ローランズに涙しそうになったが、何とか堪える。個人的に、あの手のファタール的(二人の男性を天秤にかける)女性像に弱いのだが、本作の美点は、やはりジーナ・ローランズとジェームズ・ガーナーに拠るだろう。
スタッフロール後のケミストリーには閉口したが、誰一人劇場から出ようとしなかったのは、まだ涙が溢れていたからだろうか?

ボーン・スプレマシー
アクション映画にもかかわらず、あのカット割りはいかがなものか?(アクションはことごとく死んでいたと思う) アクションシーン以外は決して悪くなかったが、ポール・グリーングラスがベルリンで金熊賞を獲っていたと知ったのは上映後だったので、判断は『ブラディ・サンデー』を観てからにしたい。但し、このシリーズにおいてはダグ・リーマンのほうが上だと言いたい欲望にかられる。

Ray
本作で最も印象に残ったのは、母親役のシャロン・ウォレンだったという事実を重く受け止めたい。一度しか観ていないからか、ジェイミー・フォックスの演技に関して、どうしても“ものまね的”インパクトが勝ってしまい冷静に判断できなかったので、そこは反省したい。レイ・チャールズの人生を俯瞰出来たことは収穫だったと思う。

DV(ドメスティック・バイオレンス)
遠藤憲一は本気だ。本気の男を見るのは楽しい。いい意味で余裕を感じさせないところが素晴らしく可笑しい。対する小沢和義はどうか。終始眉間に深い皺を刻む表情には演技者としての余裕が感じられるが、だからつまらないというわけではなく、ラストの台詞はやはり本作の最良の瞬間だったように思う。
しかしながら、この先中原俊の映画を見続けるかどうかは甚だ疑問。

レイクサイド マーダーケース
ミステリーをミステリーとは別の(もはや既存のジャンルには収まりがたい)次元にまで“強引に”昇華させた怪作。薬師丸ひろ子の演技は素晴らしい。サスペンスは湖畔において生み出されるが、ラストにおける森の描写の異様なテンションはどうにも言葉にしがたい。それは、冷静沈着だった柄本明が遂に怒鳴りだす場面の、ほとんど何を言っているのかわからないくらいの昂奮ぶりと重なる。がゆえに感動的である。

clean
マギー・チャンの多様で不確かなイメージが、ふとした瞬間に閃光を放つ。そこには、匂い発つような女性像ではなく、個としての生の瞬間が刻み込まれている。アサイヤスとのコラボレーションには、いやおうなく“現実”が刻まれてしまうということだろうか。脇役ながら、ニック・ノルティの異様な存在感には息を飲んだ。

五線譜のラブレター
ミュージカルを観て感動する自分に改めて気づかせてくれたことが、最大の収穫。アシュレイ・ジャッドの老衰ぶりを表す特殊メイクは悪くなかった。

恋に落ちる確率
明らかに的を外している邦題はさておき、“ドグマ”との近親性が随所に見受けられたカメラワークと文法には新人監督としての野心が如実に表れている。将来を期待したい監督である。購入したパンフレットを同行した女性に預けたまま返してもらっていないので作品評を書けなかったが、dvdが発売されたら見直して検証・考察してみたいと思う。ともあれ、期待以上の作品に出会った喜びはことのほか大きかった。

揮発性の女
熊切作品には『アンテナ』でやや失望しかけたが、やはりほのかな期待を込めてしまう。本作が『空の穴』の逆ヴァージョンだと言いたくなるのも、決して根拠が無いわけではない。石井苗子のエロティシズムは好みである。本作に漂う、情けなさとちぐはぐさには好感が持てた。やはり次回作も観てしまうのだろう。


March 8, 2005 12:00 PM | 作品(短)評
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Comments

>こヴィさま

どうもです。
この短評が役立つとすれば、それは私と貴兄は嗜好が似ているからでは? 一つの基準として、私自身が「!」と思うような作品は、独立したレビューを書くと思いますので、ここに挙げられているものは、“これは厳しい”〜“実に悪くない”といった感じの目安で捉えていただければと。
それにしても、青山真治氏はどうしてああも不遇なのでしょうね。現在の興行形態が問題なのでしょうか。ともあれ、『レイクサイド・マーダーケース』は是非ともご覧になっていただきたい作品ですので、機械があれば是非。


Posted by: [M] : March 31, 2005 11:06 PM

この短評役に立ちますねー(笑)。
最近全然劇場いけてないんで。
ニックもまだ『ミルドレッド』どまりで…。ジーナに会いたい。
青山新作があんなにも短期間で終わるとは(そして以降どこにもかからないとは!)、不覚でした。


Posted by: こヴィ : March 31, 2005 11:50 AM

この短評役に立ちますねー(笑)。
最近全然劇場いけてないんで。
ニックもまだ『ミルドレッド』どまりで…。ジーナに会いたい。
青山新作があんなにも短期間で終わるとは(そして以降どこにもかからないとは!)、不覚でした。


Posted by: こヴィ : March 31, 2005 11:50 AM

>Billy殿

実は、と言いますか、まぁぼちぼち観ております。
『恋に落ちる確率』は必見ですよ。上の文章では触れませんでしたが、衣装が非常に好みでした。良く言われているような意味とは別な意味で“お洒落な”映画でした。

外国映画賞と言えば、受賞した『海を飛ぶ夢』は観た友人によれば傑作らしいです。期待してます。


Posted by: [M] : March 9, 2005 10:10 AM

おお!
実は相当数ご覧になってるのですね!

『Ray』の、シャロン・ウォーレンの存在感には同感です。彼女が映画を支える大きな柱の一つとなっている事は否定しようがありません。ジェイミーは上手かったけど、ウォーレンの演技には心を打たれました。

『恋に落ちる確率』はぼくも観たかっただけに参考になります。やっぱり斬新でなかなかな映画だったのですね。邦題とチラシに書かれた内容がちょっと合っていなかったのに憤慨を覚えつつも、期待していた作品なのでありました。この映画アカデミー賞外国語映画賞の出品作品なんですよね。ノミネートはされていませんが。


Posted by: Billy : March 8, 2005 10:37 PM
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