2005年02月22日
『マシニスト』への高い期待は…
映画好きであれば、『レイジング・ブル』や『アンタッチャブル』におけるロバート・デニーロの変貌振りは未だ記憶に新しいと言えるでしょうが、役柄のために体重を増減させるという行為は、今となってはそれほど驚くに値しない現象なのかもしれません。もちろん、その行為自体の“異常さ”は年月と共に薄れることはないにしても、問題はその頻度にあるかと。ついでに言えば、増減させる数値自体もインフレ傾向にあるのでしょうか、『キャスト・アウェイ』のトム・ハンクスが25kg減量したかと思えば、今度は30kgですか…。もともと太ってはいなかったクリスチャン・ベールの不気味な“鶏がら”ぶりは、確かに『マシニスト』の宣伝効果に一役買っているようです。しかし、果たしてそれはこの映画にどれほど貢献しているのか?
『モンスター』におけるシャリーズ・セロンの醜悪な肉体(13kgの増量)の美点は、彼女の肉体(というより肉塊といったほうが相応しいのかもしれません)がいやおうなく物語を凌駕していくというパラドックスにこそ認められたと思うのですが、『マシニスト』におけるクリスチャン・ベールは、ほとんど人体にとって危険な領域ともいえそうな重量、すなわち30kgも体重を落としながらも、それは物語に多少貢献しているに過ぎず、肉体が圧倒的強度をもって物語事態を凌駕していくほどではありません。結果として、そのビジュアルは強烈でも、予告編以上のショックを受けることはありませんでした。そもそも監督であるブラッド・アンダーソンはその激痩せをCGとか着ぐるみで表現するつもりだったとか。つまり、“肉体”そのものに対する執着はそれほどでもなかったのだろうと思います。
実際、『マシニスト』は“不可解な謎”に重きを置かれた映画であり、後半に進んでいくにつれて、これまで幾度かにわたり描かれてきた“記憶とその不確かさがもたらす数々の疑念が生むサスペンス”という図式に、回収されていってしまうかのようです。
確かに、チラシや予告編を見た上で私の期待が“利己的に”高まっていき、それがある意味裏切られたという極私的な事実だけで、本作を駄作だと決め付けてしまうのもいささか躊躇われぬでもありません。そうなってくると、どうしてもメディアでの扱い方(つまり宣伝ということになるのでしょうが)に相も変らぬ違和感を感じざるを得ないのですが、このことは当ブログで数回言及していることなので、繰り返しません。
まぁ、個人的にはあまり乗れなかった『マシニスト』ではありますが、それでもあの青黒い色調で統一された画面や、匿名性に徹した都市を切り取るシネマスコープの構図や、ジェニファー・ジェイソン・リーの、母性を漂わせた娼婦ぶりは結構私好みで、これであの『セッション9』の時のような“釈然としない恐ろしさ”を感じさせてくれたなら、私の評価も変わってきたのでしょう。惜しかったです。
さて、激痩せ映画で始まった週末はさらなる激痩せ映画に連なることに。
『ソン・フレール〜兄との約束〜』ですが、本作については別の機会に譲るとします。
2005年02月22日 18:20 | 邦題:ま行
Excerpt: 「365日眠っていない男」「クリスチャン・ベイルの30キロ減量」という2つの異様さで注目を集め、その話題性でもう勝ってしまったような映画。 スペイン・アメリカ合作ということでしたが、想像していた以上にスペイン色の濃い映画でした。
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Date: 2005.02.22
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Date: 2005.05.11
>Puffさま
こんばんは。悪口だけを書き連ねるのもどうかと思ったのですが、それほど酷い出来ではなかったので、少しくらい触れておきたいと思ったのです、はい。
これは私見ですが、人間の肉体は時に、想像を超えた饒舌さを発揮するするものだと思うのです。意図せずともそれを証明してしまう作品もいれば、無残に空転してしまうものもあるわけで。
サスペンスとしてはもはや面白みにかけた『マシニスト』は、唯一、あの異常“肉体”にこそ語らせるべきではなかったかと思うのです。
しかし、次回作はまだ期待しますよ、私は。
>さち様
コメント&TBありがとうございます。
確かに、本作はアメナーバル的なホラーテイストが色濃いですよね。スペインという国で撮ると、アメリカ人の監督ですら、知らず知らずにあのようなテイストになってしまうのでしょうか。
雰囲気は決して悪くなかったと思います。
『10億分の1の男』は見逃したので、是非DVDで確認したいと思います!
>Billyさま
こんばんは。そうですか、リサーチ試写にいかれたとは。まぁ忌憚ない意見を集めるのが目的だったのでしょうから、酷評もまた良かったのではないでしょうか。実際にこうやって公開されているわけですし。
私は個人的に、こういったスリラーに食傷気味な部分があるので評価も辛くなりましたが、本作は、悪い意味でキャラが立ちすぎてしまったということなのかもしれませんね。こういう映画は、今後、もっと難しくなってくると思います。
Posted by: [M] : 2005年02月22日 23:57
ぼくの思っていた事を代弁してくれたようなレビューでした。確かに、ビジュアル的に印象の強い、映画の「顔」みたいになってるものが実際は映画の本筋とは関係ないところにあるという不自然さがあったから物語やどんでん返し的展開に違和感と気に喰わない気分を覚えたのかもしれません。
ぼくは、まったくノレませんでした。リサーチ試写に当選してまだタイトルが決まってない段階で観たのですが、アンケートで酷評してしまったのは、少々悪かった気もしますが・・・。
Posted by: Billy : 2005年02月22日 22:49
TBありがとうございました。
脚本よりもなによりも雰囲気を楽しむ映画かなと思っています。
[M] さんのおっしゃるとおり、痩せちゃったことも眠れなかったことも、
この映画の重要なファクターではないですものね。
Posted by: さち : 2005年02月22日 21:10
こんばんはー
「マニシスト」レヴュー書いて頂けたのですね!!
なるほど、、[M]さんの言わんとするところが分かりました。
肉体の過激な変化も物語を引き立てるには至らなかったと、、
確かに、「セッション9」は恐ろしい映画でした。ガタガタ
ホラー系の映画は特に怖さは感じない私ですが
「セッション9」のような映画にこそ恐怖を感じますです。
(=巷では怖く無いという評判も多かったですが・・・)
んんー、ブラッド・アンダーソン監督、次回作はどうなるか、、ですね。
Posted by: Puff : 2005年02月22日 20:57