2005年01月04日

『スーパーサイズ・ミー』、自己犠牲とテレヴィ的わかりやすさ

スーパーサイズ・ミーあまり大っぴらに言いたくないのですが、実は私、食生活がか・な・り乱れております。それというのも、私が食に対する興味をほとんど持っていないからです。不味くなければいい、食に対する私の興味などそんなところなのです。

実際、私は約1年間にわたって一週間に5日、マクドナルドで朝食をとっていました。通勤時の乗換えで利用していた御茶ノ水のマクドナルドで週末をのぞく毎朝です。加えて、私は一日のうち一番多く食べるのが朝食なので、その“モーニング・マクドナルド生活”においても、平均して2セットずつ食べていたのです。今にして思えば、相当恐ろしいことをやっていたな、と。
あの頃は気づきませんでしたが、当時の私は紛れも無い“マクドナルド中毒”でした。自分が中毒だと感じない人間が真の中毒者というもの。毎朝マクドナルドで無ければならない理由など無いし、他の選択肢を選ぶ自由もあったはずなのに、私は毎朝マクドナルドに行くことを、半ば当然であるかのように感じていたのです。『スーパーサイズ・ミー』を観て真っ先に思い出したのは、ほとんど戦慄するようなこの過去の記憶でした。

もちろん、ファーストフードが人体に悪影響を、といって悪ければ、少なくとも好影響を及ぼさないことなど、このような映画を観なくても知っています。いや、これは私に限ったことではなく、誰もが常識として知っているところでしょう。アメリカほどではないにしても、日本でもファースト・フードの無い生活など考えられませんが、たとえマクドナルドやケンタッキーが大好きでも、流石に毎食食べようとする人間を見たことがないのは、“太りそうだ”とか“塩分が多そうだ”などとおぼろげながら分かっているからです。その意味で、監督であるモーガン・スパーロックの問題提起は、一見バカ正直過ぎて面白みに欠けます。にもかかわらず、『スーパーサイズ・ミー』は(それなりに)面白く、エンターテインメントとしてなかなか良く出来ているのです。それは彼自身が実験台になったこと、そして、子供にでも分かる手法でこのドキュメンタリーを制作したことに起因していると言えないでしょうか。

自身が実験台になること。これは日本のバラエティでも度々見られることで、ある種の“リアルさ”を観るものに喚起させることが出来ます。人間は無意識的も自身を守ろうとするものです。であればこそ、真に自分自身を痛めつける姿には“リアルな痛み”(それは共感のようなものかもしれません)として認識されやすいのでしょう。さらに、3人の医者の存在が、“リアルさ”を補完しているのです。
そして本作がマイケル・ムーア的手法、すなわち、予め導き出すべき結論が決まっていて、その帰結点に向けて(消して悪い意味ではなく)テレヴィ番組的アニメーションやインタビューによってその結論の正当性を証明していく手法を用いて制作されていることも重要です。つまり、ドキュメンタリーもエンターテインメントとして楽しめなければならないという立ち位置を、モーガン・スパーロックは受け入れています。この点が、マイケル・ムーア的だと思うのです。

さて、この2つのポイントが最も有効に機能していた場面は、モーガン・スパーロックが最初にスーパーサイズのセットを注文し、車内で食べるシーンでだったかと思います。食べ始める前、そのあまりの大きさに、彼は心底笑っていたように見えました。ベジタリアンの彼女を持つ彼は、本来それほど大食ではないのでしょう(事前に行われた健康診断でもそれは明らかです)。少なくとも、初めてスーパーサイズを頼んだのだとこちらにも伝わってきました。その後、彼は半ば喜びながらそれらを頬張り始める。ところが、いくら食べても膨大な量を誇るスーパーサイズセットはなくなることがないのです。それを、“10分後”とか“20分後”とかいう字幕を合間に挟むことで、エンターテインメントにしようとしています。字幕の後の彼は、その前とは明らかに表情が違う。時間が経つに連れ、彼の表情に憂鬱さが色濃くなるのです。そして確か30分が経過したとき、急に口を押さえた彼は、それまで頑張って食べたものを全部(かどうかはわかりませんが)吐き出してしまいます。流石にあの嘔吐は演出(偽者)ではないでしょう。その証拠に、カメラは律儀にその吐瀉物をフレームに収めています。しかし、その手法上、この場面は明らかに“笑うところ”として描かれている。何たるわかり易さでしょうか。しかし、このわかりやすさこそ、観客が求めているものだとしたら……このことは、別の意味で考えさせられる問題かもしれません。
ともあれ、『スーパーサイズ・ミー』におけるアイデア一発勝負的な勢いは、作品の質に関係なくエンターテインメントとして機能していたと思います。そして彼が投げかけたアメリカの肥満問題に対する警鐘も、マクドナルドのスーパーサイズ全面廃止という結果を伴った時点で、一つの成果を挙げることが出来たと言えるでしょう。

現代の日本の女子中高生は必見かもしれません。私と同じ戦慄を、彼女たちも感じるでしょうか?

2005年01月04日 19:35 | 邦題:さ行
TrackBack URL for this entry:
http://www.cinemabourg.com/mt/mt-tb.cgi/143
Trackback
Title: 『スーパーサイズ・ミー』
Excerpt: ■監督・プロデューサー・被験者 モーガン・スパーロック  “もし1カ月、1日3食マクドナルドのファーストフードを食べ続けたら?” 映画監督のスパーロックはある日テレビで、「自分たちが肥満症になってしまったのは、それを注意しなかったファーストフード・メー...
From: 京の昼寝〜♪
Date: 2005.01.04
Title: スーパーサイズ・ミー
Excerpt: 製作国/公開年:アメリカ/2004 キャスト:モーガン・スパーロック ジャンル:
From: 見なきゃ死ねるか!聴かなきゃ死ねるか!
Date: 2005.01.05
Title: スーパーサイズ・ミー
Excerpt: 004年のサンダンス映画祭のドキュメンタリー部門でアメリカのみならず世界中に物凄いインパクトを与えた作品。 この映画はある意味、人体実験も兼ねているのでまねをしないで下さい。見てるだけで気の毒で人体にも影響を及ぼすかもしれません。 最近はドキュメンタリ...
From: FOR BRILLIANT FUTURE
Date: 2005.01.28
Title: スーパーサイズ・ミー / SUPER SIZE ME ?(2004・米)
Excerpt: ★★★★☆ 98分/カラー 監督・出演:モーガン・スパーロック 私はもうホントどうしようもない緊急事態でもない限り、マクドナルドなんぞ食わん!!と常々声を大にして言ってるんですが、今後その理由をイチイチ説明する手間が省けそうです。「なんで?」なんてすっ...
From: HALa9000s CINEcolumn
Date: 2005.02.03
Title: 「スーパーサイズ・ミー」 ★★★★☆
Excerpt: 映画について語る前に、モーガン・スパーロックの魅力について語ろう。 マクドナルドを訴えたという2人の少女の記事を見て、1ヶ月間同社の製品だけを食べて過ごしたらどうなるか?なんていうバカげたことを思いつき、そして実行してしまったスパーロックという男。さぞ...
From: シネログノユクエ
Date: 2005.02.10
Title: 【スーパーサイズ・ミー】相当面白い!
Excerpt: 膨大な情報から作ったドキュメンタリー。これだけの人にインタビューして、事実を積み上げ、まとめた内容は納得させられる。その上、映像、音楽の編集が非常に上手く出来ているので途中で飽きません。音楽は『スノーボードのプロモーションビデオ』風のノリの良い音楽を多...
From:  【インテリア&ライフ】 デザイナーズ家具、インテリア、雑貨...
Date: 2005.02.13
Title: スーパーサイズ・ミー
Excerpt: 「スーパーサイズ・ミー」   アメリカ/2004 一日三食一ヶ月間、ファーストフードだけを食べ 続けるとどうなるのか? 監督、自らが被験者となって食べ続けたドキュメンタリー映画。 ただ、食べているのを映していくだけでなく、間に 食や栄養に関するいろ...
From: 月影の舞
Date: 2005.05.11
Title: マクドナルド 〜JUNKとECOロジ〜
Excerpt:       == CMプランナー中 == 夜中、ベッドの上で二人でじゃれながら会話するカップル。 「SかMって言ったら、どっちかって言うとMかなぁ」 「え〜、アタシもMなのに〜・・・」 「じゃあ、俺S役で!!」  彼が襲いかかると同時に画面が暗くなって、...
From: 粋なECOアートの発信地
Date: 2005.06.01
Title: スーパーサイズ・ミー 今年の154本目
Excerpt: スーパーサイズ・ミー   98分の映画、昨日夜、11時過ぎから見て、見終わったの夜中の3時前。 3回は、巻き戻しました、、、よく寝られました。   結局、まん中少し飛んでるかもしんないんだケド、 ま、最初と最後を見れば、いいんでしょ!?  
From: 猫姫じゃ
Date: 2005.07.29
Comments

>jkさま

コメントありがとうございます。
確かに“知らぬは消費者ばかり”的な現実への警鐘という側面もあったと思います。
私はその方面(食品による人体への害)の知識がまるでない上に、生来の鈍感さも相まって、体を酷使し続けているような生活をしておりますが、この映画から結果的に読み取ったことはただ一つ、映画には未だ現実を動かす力がある、という当たり前といえば当たり前のことでした。

思うに、消費者というのも結構いい加減なもので、食品メーカーのあからさまな悪事については糾弾出来ても、日常生活で自衛を怠るという部分もまた否定は出来ないのでしょうから、最終的には自己管理するしかない、ということですかね。


Posted by: [M] : 2005年07月27日 13:29

あの映画の一番のポイントは、マックのみならず大手の食品会社が金儲けのために公然と体に悪いものを売り続けているのに消費者は何も知らされてないことじゃないでしょうか。実際日本でも食品会社と医者の間に癒着があると聞いたことがあります。たとえばペットボトルのお茶などに入っているビタミンc。あれは防腐剤です。
さまざまな添加物や保存料を取り続けると更年期障害が現れるようです。


Posted by: jk : 2005年07月26日 01:02

>Billy様

どうも、おめでとうございます。
エド・ウッド、満喫できましたか。

確か来年は受験でしたよね。私も受験生の時は、マックとカロリーメイトが欠かせないほどのジャンキーでした。おっしゃるとおり、一連の価格破壊がマックの売りでもありましたから、これが無くなってしまうと経済的に厳しいかもしれません。まぁ全ては気の持ちようとでも言いましょうか。実際、私もこの映画を観るまでバクバク(とまでは言いませんが)マックを食べてたわけで。しかも私はここぞという時(つまりたまにしか食べないマックの場合なんかは)、激しく大食漢に変身したりもするので、余計に。映画はそれぞれ感じるものが違うのでしょうから、これを観てマックを断ってもよし、「絶対無理!」と決め込むのもよし、でしょう?
ぶっちゃけますと、大のジャガイモ好きな私は、ポテトだけはそろそろ本当に食べたくなってきているのが現状なんです……

また遊びに来てください。
受験勉強の合間にでも。


Posted by: [M] : 2005年01月07日 00:43

一度mixiでコメントを下さいましたね。ここでははじめまして。

僕の友人が1月前に試写で観た後本当に「マックはやばい」とか言ってたんですが、これってほんとにホントだったんですね。勉強が忙しいので観ない予定でしたが、これだけ観た人に危機感を覚えさせる映画ってやっぱり珍しいと思うんで、観てみようかとも思う次第です。

でも、マックって危険なんだろうけど、マックがないと世の中学生高校生は経済的に厳しいですよ。マックがなくなったら吉野家の牛丼がなくなったときの何倍も騒がれるでしょう、間違いない。

僕もだいぶお世話になってるわけで・・・。


Posted by: Billy : 2005年01月06日 22:56

>ヒトチョ。様

もちろん、覚えてますよ。
私もあまり外部の方たちと知り合う機会はないんですよ。

マックにはまってしまうのは、この映画によると、「刷り込み」が原因の一つとして指摘されていました。アメリカでの話しですが、日本でも子供に訴えかけるCMが結構多かったじゃないですか。最近は路線を変えて“I'm lovin it”なんて言ってますけどね。後はやっぱり味が強烈だから、記憶に残るんですかね? 
で、私も今食べたくなってるわけですが……


Posted by: [M] : 2005年01月06日 19:24

覚えてもらってたんですね。エヘ。
その節は・・・ヒトも、本当に知り合いかも・・・?と思ったりもしました。
仕事関連で、会ってるんじゃ?と・・・。ってそれ程ヒトは外部の方と接してはないんですけど、、
マックって何でハマっちゃうんですかねぇ・・・。


Posted by: ヒトチョ。 : 2005年01月06日 18:20

>ヒトチョ。様

ども。コチラでははじめましてですが、その節は…私が勝手に知り合いかも、と思い込んだだけですけど。
いや、この映画はあまりに極端ですからね。一食位…と思いつつも、多分当分食べないだろう私。
某CMのように「飲む前に飲む」ではなく、「観る前に食う」がお薦めです。


Posted by: [M] : 2005年01月06日 09:31

ハジメマシテ。
mixiぽちょむきんサンのトコから来ました。
昨日 コレを読んで、ついつい(!)今日マックを食べてしまいマシタ・・・。
映画観てないから 食べれたんですかね、、
観なきゃ・・・。・・・観たくない・・・。


Posted by: ヒトチョ。 : 2005年01月06日 00:02

>cyaz様

あけましておめでとうございます。
確かに個人の自由ですね。でも私は多分、これまで以上にファーストフードから遠ざかっていくと思います。次に誰かコンビニ弁当で同じことやってくれないですかね?(笑

>INT.様

いやぁありえないっすね、ホントに。
そのセットを2つ食べてたかと思うと…背筋が凍るようです。わかっちゃいるけど止められない、当時はそんな感じでしたが、映画を観た今、流石にありえません。


Posted by: [M] : 2005年01月05日 08:50

ビックマック・Mポテト・ジュースのセットで1000kcalオーバーでしたっけ。
映画は観ていませんが、その数値を見ただけでマックに入る時は
ポテトからサラダに切り替えるようになりました。

冗談抜きでマックの食べ過ぎは毒ですわ。


Posted by: INT. : 2005年01月04日 22:15

あけましておめでとうございます^^
TBありがとうございますm(_ _)m

投げかけたままで、
で、何が という部分は描けてないような気がします。 食うも食わないも個人の問題ですからね(笑)
日本の映画館のあのデカいポップコーンも同様じゃないですかねぇ(笑)


Posted by: cyaz : 2005年01月04日 21:07
Post a comment









Remember personal info?