2004年12月22日

『ふたりにクギづけ』、シニカルでなくラディカルなコメディ

ふたりにクギづけまずは『ふたりにクギづけ』が正式に公開されたことを素直に喜びつつ、配給したArt Portとシブヤ・シネマソサエティの勇気と情熱に乾杯したいと思います。“Salute!!”

『ふたりにクギづけ』は、現在ではシャム双生児ではなく結合双生児と呼ばれる双子の物語ですが、彼らはある一つの肉体でありつつ、別々の二つの肉体でもあるのです。決して不謹慎な意味ではなく、極めて映画的な題材ではないでしょうか。それを悲劇として、あるいは、サスペンスとして描くことができるなら、コメディにもなるはずじゃん! と、ファレリー兄弟が思ったかどうかは知りませんが、完成までの道のりは、やはり険しいものだったに違いありません。
ところで、そもそもが荒唐無稽な映画にしてみれば、例えば彼ら二人が全くもって似ていなくても、明らかに2対1の不条理なボクシングシーンを見ても、そこでは何食わぬ顔で肯き微笑むだけの寛容さは必要で、それはまた、セックスシーンにおいてあの体性(つまり女性上位ですが)から体位を変えたらマット・デイモンはわざわざベッドの反対側に移るのだろうか、それとも頭の位置を反対に変えるだけだろうかなどと勘ぐることも、はしたない行為として自重しなければなりません。このハートウォーミングなコメディを観て観客が取るべき態度は、ひたすら笑い、そして時に涙することだけなのです。

『ふたりにクギづけ』がシネマスコープで撮られていることは非常に重要だと思います。腰の部分で繋がった彼らは、全編の多くを横に並んだ状態で登場することになるのです。とりわけバストショット(オープニングのトレーニング場面やハンバーガーを作る場面等)ともなれば、やはり、シネマスコープ以外には考えられない気がします。マット・デイモンのメル友である中国人ウェン・ヤン・シーを乗せて3人でオープンカーに乗る場面でも、やはり、シネマスコープが生かされたカメラだったと言えるでしょう。さらに言えば、ラストのミュージカル場面も。

さて、そんなことを考えながらこの文章を書いている今、『ふたりにクギづけ』のいくつかの場面を思い出してみると、観ていた時には全くと言っていい程感じることが無かったものの、途方も無い真面目さと激烈なユーモアに支配された、かなり狂った映画だったということに気づかされます。しかしながら、コメディとして撮られた映画は、背景にどのような経緯や意味付けや社会性があろうと、笑えなければならないのです。私がこの映画を評価するのは、決して狂ったユーモアに感動したからではなく、上映中にただひたすら笑い、図らずも少しだけホロリとしてしまった結果、黒いユーモアだとか、官僚的差別意識の現前化と逆転現象だとか、そういった社会的な、ということはつまりシニカルな感情をいささかも抱かず、その“笑わせる”という至上命題を臆することなく追求し、結果的に、あまりにもラディカル過ぎる地点にまで達してしまっていたことに改めて感動したからなのです。ファレリー兄弟に常に付いて回る“タブー”という言葉、この言葉に纏わり付く諸々のイメージを全部取り払ったとしても『ふたりにクギづけ』は面白いし、またこの映画はそのように観るべきではないか、とすら思いました。

それにしても弟役のマット・デイモン。特に好きな顔ではないにもかかわらず、彼の出演作を決める選択眼は素直に賞賛したいと思います。『ドグマ』でケヴィン・スミスとバカをやっていたと思えば正統派(!)ハリウッド映画『ボーン・アイデンティティ』でアクションなど演じてみたり、スティーヴン・ソダーバーグとの仲間受けでお茶を濁したかと思えば、傑作と言うしかない『GERRY』を孤独に演じたりと。今後彼から目が離せないなどと言うつもりはありませんが、親友であり大根でもあるベン・アフレックとの差は開いていくばかりだなぁ、といわれの無い妙な寂しさを感じたりしてしまいます。

最後に、ファレリー兄弟の映画を特に贔屓目に観ていたつもりも無い私にとっても、『ふたりにクギづけ』はやはり傑作と言ってしまっても良いのではなかろうかと、若干心もとないながらも、そう思わせてくれる映画でした。

2004年12月22日 17:31 | 邦題:は行
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Date: 2005.12.13
Comments

>shimaさん

テレヴィで宣伝されているわけじゃないけど、雑誌等では結構書かれているんですけどね。shimaさんの言うこと、すごく分かります。
こういう映画こそ、インターネットというメディアでの宣伝が生きてきそうです。
ワタクシも同僚に激しく薦めていますから、shimaさんもお友達にお薦めしましょう! やっぱクチコミでしょう!


Posted by: [M] : 2004年12月23日 22:37

私は祝日前の水曜日(女性1000円)の日に観に行ったのですが、
座席の埋まり具合は4割といった感じでした。
こんなに面白いのに何故〜?

観客みんなで豪快に笑える映画に久々に出会いました。
こういう題材を感動モノとして呈示され、涙しながら考えることもあるけど、
笑わせながら「どんなことでも、どんな人でもありでしょ!」
と気分良くさせちゃうのってなんてステキ!
素直に単純に声出して笑える映画だし、そうすべき映画だと思いました。


Posted by: shima : 2004年12月23日 13:43

>ワカさま

コメントありがとうございす。
特別ナイト、行っちゃいますか!? 素晴らしい。
今回シネマソサエティは、いろいろイベント等を企画してすごくがんばってますよね。
私が行った時も半分は埋まっていませんでしたが、口コミやイベントでより多くの観客を獲得できればいいな、と思ってます。

「オールド・ボーイ」は、来週三回目に行きます。あの興奮をもう一度、という感じで。


Posted by: [M] : 2004年12月23日 12:02

こんばんは。
実はマットファンなので、とっても楽しみにしてるんですが、来年にある特別ナイトに行こうとせこく思ってるんで、まだ未見です〜
大根ベンとの差が開く話、激しく同意させていただきます。

「オールド・ボーイ」2回目観たときもラスト、うかつにも気がつかない事があって・・もう1回何とか。


Posted by: ワカ : 2004年12月23日 01:09
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