2004年12月20日

ある日の会話〜『ターミナル』を観て

:::caution:::結末に触れていますので、未見の方は読まないで下さい:::caution:::

ターミナル

---最近どうよ? 何かいい感じの映画あった?

とりあえず『ターミナル』初日行ってきたけど。当たり前だけどまぁ9割がた埋まってたよ。上映1時間以上前に劇場に入ったんだけど、高校生の集団がマック食べ初めて、参った・・・スピルバーグは未だ人を呼べる作家だってことでしょ。ああいうごく普通の高校生をね。

---で? やっぱりスピルバーグって感じの映画だったと? 

どうだろう・・・それはつまり、キャサリン・ゼダ=ジョーンズが魅力的だったかどうか、ということだと思うんだけど。後はキスシーンが良かったかどうか、か・・・

---スピルバーグは女優を上手く描けないってやつ? そもそも多くの人は彼の作品にそんなこと期待してみるかね? もっと単純な感動を求めてるんじゃないの?

単純な感動ね・・・まぁそう言われちゃ実も蓋もないけど、その“単純な感動”っていうヤツが一番厄介な代物だよ。それは凄く月並みな言葉で言い換えれば、“何も残らない”っていうことにならないかね。まぁそれはさておき、だ。トム・ハンクスとキャサリン・ゼダ=ジョーンズのロマンスには正直乗れなかったなぁ・・・キスシーンにおける逆光も含めてね。彼女はほとんど色情狂的な自分を受け入れているんだけど、その理由が“CAであること”っていうだけなんだよ。いつも飛行機に乗っているから、ホルモンのバランスが崩れて・・・的な説明だけしかなくてさ。脚本の脆弱さは否めない気がしたなぁ。それと、トム・ハンクスとのキスシーンの前に、彼女は別の恋人と数回キスする場面が出てきちゃうんだよね。もちろん、それらのシーンはサラっと描かれるだけなんだけど、やっぱりトム・ハンクスとのキスシーンが一つの見せ場なわけでしょ。ちょっと残念だったな。

---ということは、やっぱりスピルバーグは女性を描けないっていう結論か・・・

いや、でもね、やっと空港を出られたトム・ハンクスと一瞬すれ違う時、二人が会話を交わさなかったのは良かった。キャサリン・ゼダ=ジョーンズが軽く微笑みかけるだけでね。でもその後に続くラストがおざなりで、やっぱり脚本が弱いなぁと。

---ふ〜ん。そうそう、あの空港は全部セットなんだって? JFKを基本に、世界各国の空港のいいとこ取りで作ったらしいじゃん。プロダクションデザイン自体はどうだった?

言葉の壁と人間の冷たさという二重の壁にぶちあたったトム・ハンクスの孤立を描く時、お決まりだけどカメラはグーっと引いていくわけ。右往左往した挙げ句、呆然と立ち尽くす彼を捉えたままね。その超ズームダウンする画面を見て、あ、このセットは作り上げる前にカメラの位置とか動きを決めたんだな、と思ったわけ。始めに空港セットありき、というより、カメラや照明の要請でセットを建てたんじゃないかってね。ヤヌス・カミンスキーの仕事がとりわけ際立ってたっていう印象はないけど、確か冒頭近くでトム・ハンクスを仰角気味で撮っててさ。その時、あの強大なセットの天井が見えるんだけど、空港だからどちらかというと俯瞰気味のショットが多いんじゃないかって思ってたから、やや以外だったけどスケール感は大いに伝わったかな。リアルな店舗が35も入ってるのは圧巻だったしね。それぞれの店とトム・ハンクスのかかわりが小さなエピソードを紡いでいくあたりは悪くなかった。あの空港特有のボードあるでしょ? 出発と到着を知らせるあのボード。CGであれを再現した簡潔なタイトルバックも嫌いじゃなかったよ。

---う〜ん、あのセットはちょっと見てみたいなぁ・・・結局あれかね、泣けるのかね?

いやぁどうだろうねぇ・・・それぞれのエピソードは悪くないんだよ。嘗て蓮實重彦が盛んに訴えていたスピルバーグのホークス狂いだけど、例えばホークス的パートナーシップっていうのかな、脇役陣がなかなか良くてね、トム・ハンクスと彼らが段々打ち解けていくあたりは悪くないし、その最たるシーンが、キャサリン・ゼダ=ジョーンズとの即席ディナーに集約されててね。何よりギャグの基本的な反復が律儀に押さえられているのも好感は持てるんだけどさ。

---何だかノってきたな。だけど?

うん。小さなエピソードが束ねられた結果があのオチじゃ、やっぱり泣けないよ。少なくとも俺はね。って言ってもわかんないか・・・重要な小道具があってね、それは古いピーナッツ缶で、見た目的にいかにも説話的意味が込められてるっていう感じの缶なんだけど、その中身と各々のエピソードをもう少し絡めて欲しかったと。中身が明かされる場面とラストの描き方、それは台詞も編集も全部含めてなんだけど、その二者があまり有機的な関係ではなかったような気がするんだよね。ご都合主義は大いに結構だと思うし、アメリカ映画からそれを取ったら何が残るのかとさえ思うけど、『ターミナル』を非=現実的ファンタジーとして見た場合でも、やっぱりエモーションは炸裂せずに中途半端なままに尻すぼむと思う。決してつまらない映画じゃないんだけど。

---なるほどね。まぁスピルバーグだから全くつまらないことはないよね、多分。セットも見たいし、お前の言う小さなエピソードと反復されるギャグにもやや惹かれるから、来週にでも行ってみるかなぁ・・・

俺は観てないけど、『パリ空港の人々』と比べても面白いかもね。『ターミナル』より約30分程短いし。そう、『ターミナル』は若干長さを感じてしまったんだな・・・色々言ったけど、まぁ安心して観られる映画だとは思うから。あ、『トゥルーマン・ショー』あたりも観ておくといいかも。アンドリュー・ニコル繋がりでね。

2004年12月20日 18:38 | 邦題:た行
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Comments

>監督殿

西田敏行(!)、なかなかナイスな比喩ではないでしょうか。『ターミナル』は衣装が良いなぁと思って調べてみたら、コーエン兄弟と組んでいるひとでした。味のある衣装っていうんですかね。凄く好きです。

私も嫌いじゃないですよ。おっしゃるとおり、説話的経済効率はやっぱりスピルバーグですよね。飽きさせない話法で。

しかしホークスとかヒューストンとかって(笑)、スピルバーグはやっぱりアメリカの良心なんですよね。未だ彼の存在は大きいですよ、私の中でも。


Posted by: [M] : 2004年12月23日 22:46

観ましたよ。
僕は大好きです。
『キャッチミーイフユーキャン』を観たとき
ホークスというよりJヒューストンを思い出して
「『アニー』に比べたら中途半端だぞ!」って思ったんだけど、
今回も大傑作『アニー』を思い出して、「うん、悪くない。」と。
往年のハリウッドコメディを彷彿とさせる(あ、ここでホークスかな?)物語の経済効率の良さ。
感情過多じゃなくサラっとしてて気持ちよく見れました。
それにしてもトムハンクスが西田敏行に見えたのは俺だけ?(笑)


Posted by: イカ監督 : 2004年12月23日 12:54

いやぁそうだったんですか!? JFKを手本にしつつ、世界の空港を参考にした、なんて読んでいたもので・・・ということは、実在の空港そのまんまだったっていうことですか。アメリカには行ったことないんですよ。ご指摘、ありがとうございます。そういえば、ターミナルはUIPでしたね。納得です。


Posted by: [M] : 2004年12月21日 00:02

[M]さん、あの空港のセットはJFKのユナイテッド航空ターミナルを再現したしたものです。よく使うので、本物と同じ配置にびっくりしました。


Posted by: Mou : 2004年12月20日 20:32
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