2004年12月16日
『モーターサイクル・ダイアリーズ』に関する追記
かなり短時間で書き上げたからかどうかわかりませんが、先に書いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』の文章には穴が多く、書きたかったことの半分くらいしか書けていなかったようにも。で、じゃぁ何が書きたかったんだ、ということになりますが。簡単に付け加えてみます。
■15ドルが物語を牽引していたこと
ロードムーヴィーであり青春映画であり冒険映画でもあった『モーターサイクル・ダイアリーズ』ですが、この15ドル分の紙幣という小道具(といってもそれは一瞬しか画面に映りませんが)が重要な役割を果たしていたことを指摘したいと思います。
ブルジョア的生活を送るガールフレンドから渡された15ドル。北米で水着を買ってきて欲しいからという彼女の思惑に、エルネストは最初、忠実足らんとします。傍らには、何とかその金を使ってしまおうと画策するアルベルトがいますが、エルネストはその要求をことごとくはねつけます。15ドルなど最初から無いものだと考えてくれ、と。
この15ドルはしかし、ある貧しい政治的逃亡犯の夫婦へと渡されるのです。その前に、エルネストは喘息で死の淵にいる老婆を前に、強い無力感を感じていました。そして、この夫婦に出会う辺りから、エルネストの思想が徐々に芽生えて行きます。その最初の行動が、炭鉱で働こうとする人々を奴隷のように扱う使用人にたいして行った投石として描かれていました。あの投石が、最初の政治的行動だったのです。夫婦に金を渡すシーンは描かれず、その事実は、旅先の船上でエルネストの口から明かされるのみです。始めから無いものとされていた15ドルは、エルネストの未だ漠とした思想の萌芽として、その役割を終えます。その間、アルベルトが幾度と無くその金に注目していたこともまた、重要な説話的行動だったのです。
■エルネストとアルベルトの別れ、そしてラストシーン
『モーターサイクル・ダイアリーズ』で描かれるエルネストは、まだチェ・ゲバラではありません。あくまでアルベルトの朋友・エルネストとして、映画は終わるのです。そして、チェ・ゲバラとしての彼は、もうこの世にいません。この2つの事実が、ラストシーンを殊更際立たせていたのではないかと思います。
大学を卒業するため帰国するエルネストと、研究者として残る決意をしたアルベルトの別れの場面は、飛行場でした。このシーンにおける2人の俳優は特に印象的でしたが(冗談を言ったアルベルトを軽く小突くエルネストというだけのさりげない別れ)、飛び立っていくエルネストを感慨深げに見送るアルベルトの顔が、次のシーンで、その生き様が無数の皺となっているために複雑で豊かな表情を見せるアルベルト・グラナード本人の顔に重なるのです。あまりに唐突なこの仕掛けが、しかし感動的なのは、実際に空を見つめるアルベルト・グラナードの目が、もはやこの世にはいない嘗ての朋友チェ・ゲバラを、間違いなく思い出していたと思わせるからです。彼が何を見ているのかは最後まで画面に現れませんが、その見えない画面に映っているのは、チェ・ゲバラという男だったのではないか、と思いました。『モーターサイクル・ダイアリーズ』にチェ・ゲバラが登場したのだとすれば、この見えない画面上にいたのだろうと。
またDVDで見直すと思います。いい映画でした。
【関連ページ】
『モーターサイクル・ダイアリーズ』、無謀な旅への果てしなき憧憬
2004年12月16日 13:05 | 邦題:ま行
Excerpt: ■モーターサイクル・ダイアリーズ/THE MOTORCYCLE DIARIES (原題:Carnets de voyage) ●1952年、医学生時代の23歳のゲバラが年上の友、アルベルトと南米をバイクで旅する際に綴った日記「THE MOTORCYCLE DIARIES/モーターサイクル南米日記」と、共に旅したアルベル...
From: ツボヤキ日記★TUBOYAKI DIARY
Date: 2004.12.30
Excerpt: CHE GUEVARA 『チェ・ゲバラ』(マルセロ・シャプセス監督
From: 0 1/2
Date: 2005.01.27
>puffさま
どうもです。
この映画を今年のベストに挙げているblogが多いようです。それもまた分からないでもありません。
長さをほとんど感じさせない映画でしたからね。
ラストのあの画面、今でも脳裏に甦ります。
JACKASSですが、puffさんほど映画を観られている方なら、やはり一見の価値はあると思いますよ。これを許容できる心(それは寛容さとは違うのかもしれませんが)は、その後の選択眼にも影響してくるのではないでしょうか。後は観てみるしかありませんYO!
私個人を信用していただけるなら、お薦めします。その全ては先に書いた文章に集約されていますから。
Posted by: [M] : 2004年12月17日 00:34
Mさん、こんにちは!
追記、お疲れさまデス。
最初の文だけでも十分だと思いますけど
こうやってさらに追記を読むとなるほどと思いまする。
ラストシーンでさらにグッと来ましたよね。
あの演出でさらに映画が素晴しいものなりました。
ところで、「ジャッカス・ザ・ムービー」
ワタシが観ても楽しめるでしょうか!?
観ようかどうしようか迷っています。
Posted by: Puff : 2004年12月16日 18:51