2004年11月16日

『SAW』、あのテンションをもう一度

:::caution:::結末に触れていますので、未見の方は読まないで下さい:::caution:::

saw『SAW』を観終えた後、すぐさま想起された映画があります。それは『ナイトウォッチ』というアメリカ映画で、デンマーク映画『モルグ/屍体消失』のセルフリメイクです。観たのはもう大分昔の話ですから細部は思い出せませんが、簡単に説明すると、主人公を演じるユアン・マクレガーが手錠をかけられ身動きがとれない状態にあり、しかし、すぐにでも逃げなければ犯人に追いつかれ殺されてしまうという場面がありました。そこで主人公がとった行動は、ナイフ(だったと記憶しています)で自ら親指を切断し、手錠から抜け出るというものでした。実は『ナイトウォッチ』はたいした作品ではなく、このシーン以外ほとんど思い出せないくらいですが、逆に言えば、この指を切断するという方法論だけは悪くないなと思いました。

さて『SAW』ですが、このタイトルである“saw”とはノコギリのことです。それは序盤に存在が明らかになり、最後まで一応小道具としての機能を保ち続けます。がしかし、タイトルとして相応しかったのかどうか、多少の疑問が残ります。実際、それがノコギリ本来の効力を発揮するのは、ケアリー・エルウェズが足を切断するシーンだけなのです。時にはそれを放り投げることで監視者の存在が明らかになり、時には柄の部分で壁を粉砕することで隠された箱を手にしもするのですが、これらはノコギリでなくてはいけないという説話的必然性などなく、別のアイテムでも良かったはずです。そして結局、ノコギリが持つ“物を切断する”という(本来の)機能は一度しか発揮されません。その上、問題の切断シーンも多くは描かれず、切り始める瞬間と切り終えた後放り出されるノコギリというショットによって示されているに過ぎないのです(途中、自らの返り血を浴びるケアリー・エルウェズの短いショットがはさまれますが)。切断面も切り落とされた足も、全く見せることが無い。ケアリー・エルウェズが足を切断するにいたるまで高められた激情(その直前の彼はほとんど発狂寸前で我を失っていました)を生かすには、やはり、切断シーンをワンショットで見せて欲しかったという気がしてしまうのです。ノコギリは、そうなって初めて小道具としての強度を持ちえたのだ、と。
ただし、“saw”という言葉が、第一義としてノコギリではなく、seeの過去形、すなわち“(一部始終を)見た”という意味が付されていたらどうでしょうか。この場合、真犯人である“偽死体”が、全ての事件を、とりわけ、あのバスルームで起こった惨劇の一部始終を“(最前列で)見ていた”と解すことが出来、ちりばめられた様々な伏線も効いてくるというものです。だとすれば、なかなか機知に富んだタイトルだと思います。まぁ、こればかりは、我々観客の想像に委ねられているのでしょう。

さて、『SAW』は決してホラー映画ではありません。恐怖そのもので観るものを戦慄させるというより、身震いするほどの緊張感や、先の読めない不安感を観客に強いることで、エンターテインメントの域に達する、そんな映画だといえるでしょう。所謂サイコスリラーというジャンルにまずは収まるであろう『SAW』は、よって、これまで多く生み出されてきた諸作品と、それほど大きな違いはありません。サイコスリラーで注目すべき重要な部分は何点かあり、例えば、殺人の方法だったり、犯人が残すヒントだったり、使用される小道具だったり、高まった緊張がどのように解けるのか(あるいは、解けないのか)等が挙げられると思います。これらが観客の不安を煽り、その着地点が引き伸ばされるほど、結末が生きてくるのです。さらにいえば、謎(観客が持つ疑問点)は完全に解明されず、それぞれの部分で少しずつ余白(想像の余地)があるほうが良いと個人的には思っています。結局、全てのパズルが寸分の狂い無く解き明かされてしまうと、つまり残された謎の部分がないと、いわゆるライブ感といいますかドライブ感といいますか、そういった(一見、現実に似ている)臨場感のようなものが削がれてしまうような気がするのです。そもそも恐怖とは、人間の想像の中においてこそ生まれるものなのですから、このようなサイコスリラーは、謎が解き明かされることより、どれだけ緊張感が持続されるかが肝要なのです。

ところで、『SAW』における殺人の方法を見てみると、犯人は直接的に手を下しません。言い方を変えれば、犯人は殺人を犯しているというより、被害者に生き残るためのテストを課しているだけなのです。そのテストに合格できない場合にのみ、被害者は本当の意味で被害者になりえる。これは特筆すべき部分だと思います。危害を与えるというより、むしろ(これまで犯してきた罪に対する)“赦し”を与えているかのような、そんな印象すら受けます。“赦し”とは貴重な生に感謝するチャンスという程度の意味ですが。実際、テストに合格した唯一の女性は、犯人に感謝せざるを得ないのですから。自らの生の尊さを思い知ること、これが犯人の望みなのです。
興味深いのは、用意周到とも言える犯人の装置(それは殺人現場そのものと言い換えても良いかもしれません)に対するフェティシズムです。いずれの場合も、“時間の経過=死”というオートマティズムに基づいた装置が作成され使用されているのです。あの装置へのフェティシズムこそが、犯人のサイコパス性を端的に表していたと解するべきではないでしょうか。そしてさらには、この映画に課せられた低予算という制約を凌駕する程、この陰惨な物語の雰囲気作りに大きな役割を果たしていたと思います。

18日間という短い撮影期間は、それを逆手に取ったドライブ感溢れる演出へと繋がっていたと言えなくもありませんが、随所に挟み込まれるフラッシュバックに実は結構な時間を割いてしまったせいで、ところどころで張り詰めたテンションが弛緩せざるを得なかったという部分も指摘したいと思います。ケアリー・エルウェズが語りべとなったその長い回想シーンがこの事件を解き明かす鍵になるのは言うまでもありません。そもそもこのバスルームにおけるゲームは、ケアリー・エルウェズだけに課せられたゲームなのですから、ゲームの主導権は、彼が握らなければならないのです。それ自体には問題ないのですが、回想シーンの中の人物がさらに回想する等のメタ構造の複雑さからか、観客としては、張り詰めたテンションを一端解除して再度頭を切り替えねばならず、その結果若干の冗長さを拭いきれなかったのです。
とはいうものの、ラスト20分の展開はこちらの意図を超えて感覚的と言うほか無い速度を保っていたし、足を切断してからのラスト10分間で、突き放したような結末を文字通り観客に突きつける暴力性には、やはり舌を巻いたと言わなければならないでしょう。序盤では、どちらかというと単なる“被害者”であるリー・ワネルの取り乱しぶりを印象付けておいて、ラスト20分間で、今度はケアリー・エルウェズの混乱から狂気にいたる過程を見せる。そしてこんな対照的な2人の間に、奇妙な共犯者的感情(パートナーシップ)が生まれるあたりで、しかし、物語はあっけなく結末を迎える。『SAW』は103分の映画ですが、後10分短かったらと思わずにはいられません。

最後に、この映画にまんまと騙されることが出来たことは、やはり幸福だったと付け加えておきます。次回作が楽しみな監督がまた一人増えました。

2004年11月16日 12:30 | 邦題:さ行
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Comments

puffさん、コメントありがとうございます。
そのように考える必要は全くありませんよ。これはあくまで、私の一意見でしかありませんから。
↓のコメントにも書きましたが、私が許せないのは多分、根拠の無い中傷なのだと思います。しかるべき理由もなく、ただ作品を貶めることに嫌気がさしたまでです。
puffさんのご意見を見る限り、そのようなことは感じませんでしたよ。

もし不快な思いをされたようでしたら、すみませんでした。


Posted by: [M] : 2004年11月17日 00:15

こんにちは!

確かに言われてみれば、のこぎりで切断するシーンは
そのものずばりは映してなかったですね。
その辺のスプラッター・ホラーを観るより
ずっと痛みと緊張感を感じることが出来ました。
久々に凄い映画と出会った気がします。

ところで、↓の追記ですけど、、
それ、ワタシもです・・・ハイ
いろいろと突っ込んで楽しんでます・・・
穴があったら入って来ますです・・・・・・


Posted by: Puff : 2004年11月16日 17:46
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