2004年11月16日

それにしても…

人は映画に何を求めているのでしょう。いやもっと言えば、人は何を求めて『SAW』なる映画を観にいくのでしょう。映画において最もくだらないことだと私が確信していること、それは、無理やり欠点を探してみたり、元ネタ探しに躍起になってみたり、あるいはありえない可能性について想像して悦に浸ったりすることです。そうすることで、自分を映画よりも上位に位置づけようとするさもしい精神、ほとんどコンプレックスと言ってしまいたくもなるこれらの心理を、私は理解できません。

現在、『SAW』に関する文章を書いておりますが、いくつか他の人が書いた文章を読んで、上記のような思いにとらわれました。金を払っている以上、どのように映画を楽しもうがそんなことは本人の自由と言うしかありませんが、なんといいますか、私にしてみれば、そのようにしか映画を観られないのだとしたら、あまりに不幸と言うほかありません。完全に騙され敗北することにもまた甘美な快楽はあるのです。『SAW』のような映画は、結末が途中でわかったからといって何になるでしょう。現実との違いや、矛盾点を求めたところで、何かが生まれるでしょうか。聞くところによると、東京ファンタスティック映画祭でどこぞのバカが、ティーチインであまりに見当違いな指摘をして監督の失笑を買ったそうですが、映画を映画として観られない人間ほど、不幸な人間もまたといまい、私はそんな風に思ってしまいます。

作品評は、明日中に完成させます。

2004年11月16日 00:05 | 悲喜劇的日常
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Comments

>fionaさま

ご丁寧なコメント、恐縮です。
実は、この記事を書いた後、何人かの方からいろいろなご意見をいただきました。
改めて読み返すと、普段は比較的冷静に文章を書いているつもりの私が、妙に興奮しているのが分かって、非常に恥ずかしいです。

そもそも私がこのような意見を持つようになったのは「KILLBILL」を巡って元ネタ探しに精を出す人々の意見をかなりたくさん読んでしまったことに起因しています。それ自体が悪いことだとは言えませんし、タランティーノ本人が、観客にそういった目配せをしていたことも明白なので、その点では「SAW」に関しても同様なことが言えるのかもしれませんね。その時私が感じた馬鹿馬鹿しさを、しかし、他の誰かに押しつけている訳ではありません。あくまで一意見なので、この暴言に近い私の言説はもちろん、他の誰にでも当てはまることでないことは承知しているつもりです。「SAW」に関するあらゆる批評を読んだ上での判断ではありませんし、もしかすると、たまたま私が読んだいくつかの文章に、勝手に私が反応しただけだと言われればそれまでですね。

ただ私自身、fionaさんのご指摘に頷ける部分もあり、自分以外の誰かについて発言するのはやはりこのサイトの趣旨に相応しくなかったと反省もしています。映画について、映画の見方云々について、それこそコンプレックスのように(笑)凝り固まっているのかもしれない自身の考え方が、今後、劇的に変化することがあるのかどうかは正直わかりませんが、少なくとも、このサイトを見てくださる方に不快な思いはさせたくないと思っておりますので、懲りずにまた遊びに来ていただければ幸いです。

ともあれ、貴重なご指摘ありがとうございました。


Posted by: [M] : 2004年11月20日 10:37

こんばんわ。楽しく拝見させて頂いてます。
いつもROMっているのですが(すみません)、上述の文章に感じるところありまして、書き込んでみました。

『SAW』の場合は特に監督自身が自覚的だと思うのですが、元の映画への言及をあえて回避することのほうが、かえって不自然なのではないでしょうか。そもそも言及したところで、その映画を貶めることは出来ませんし、元ネタなるものを参照することで、(私は作家論や監督の思惑当てゲームにあまり興味はないのですが)監督の意図に近づくことができる、大きな切り口になると思うのです。

そういう意味で、元ネタ探しや可能性、欠点すらの指摘も、映画の観点のひとつだと思われるのですが、そうではない、「そのようにしか映画を観られないのだとしたら、あまりに不幸」だ、と考えてしまうのは、それらの指摘によって、彼らが映画よりも上位に位置づけられてしまうんじゃないかというコンプレックス、或いは、それらの言説に対して自分は幸福な場所に居るという心理なのじゃないでしょうか。失礼、筆が滑りました。しかしそこに起因して、(テクノ音楽、だと例えがいまいちですが)元ネタの指摘=貶めるというのは固定観念じゃないでしょうか。そして、「映画を映画として観られない人間」と規定しかえしてしまうのは、「映画」とはこれこれであるという風に「映画」を狭めてるんじゃないか、それは同様の構図で「元ネタ探し」の否定にも仰られているのではないか、と感じるのです。

個人的なことを言えば、元になっているであろう映画や、連想、を書かれると、その映画を観たくなりますし、映画がさらに広がって行く感覚を強くもちます。ウォン・カーウァイを観て、指摘されて、鈴木清順に夢中な若い人が居たら、嬉しいじゃないですか(笑

#読み手を想像して書かれる文章は大変だと思いますが、映画に対する愛情を感じられる映画評を、いつも楽しみにしておりますので、頑張ってください。長文失礼しました。


Posted by: fiona : 2004年11月20日 00:00

全くその通りですね。
拙文も自己満足の域を出ないことは、重々承知しているつもりです。いちいち目くじらを立てること自体が、あまりに感傷的なのかもしれませんね。

でも私はWWWならではの言説にも結構興味がありまして。jesusさんとの出会いもまた、それが誘因になったわけですしね。バカは無視しつつ、同じ方向性を感じ取れれば、ペキンパーのように「Let's go!」と。

まぁ、こんな感じです。
その時は「Why not」と一言いただければ幸いです。


Posted by: [M] : 2004年11月17日 09:22

まぁネットと言うのは結局の所自転車の様なもので『免許』なんて必要無くってどんなへたくそな乱暴運転でも載り放題な訳ですよね。誰も取り締まらないし、そんな方法も無い。その最たるものがあの某chでしょうが。
WWWは剥き出しの『エゴ』が吐露される汚物の集積所の様な場所なんじゃないかな、とも思う訳です。しかしその中で『批評』...きちんと『批判』したり『論』じたり出来る、すると言う事は勿論評価される事なんだけども至言『自己満足』なんだと思うんですよね。ネットでは評価もしないROMとコメントを書き込む人、サイトにアクセスすらしない人が居て、勿論ネット上のサイトにアクセスしない/サイトの存在すら知らない人が一番多い。次がROMですよね。通り過ぎるだけ、ってのも居る。反応を示してコメントくれる人が一番少ない。だから自分が書いた記事を評価(リアクション)するのは『一部のコメント人』と『自分』な訳で。誰の為に書くのか、と考えれば『読んでくれる人』とMさんなんかは言うかも知れませんけど、自分の場合は自己満足が大半ですね。だからウケ線も狙う必要が無いしアクセス数も気にせずに旧作の記事を書ける。

自分がきちんと運転してる隣で乱暴運転してるヤツが居てもそれは結局の所『そいつがバカなだけ』で放っとくしか無い訳で。自分の運転を評価する一番の人物は自分自身じゃないですか。

昔バカな感想文(批評とも呼べない様な)に食いついて喧嘩売ってた時期もあったんですが(汗)なんか途中で馬鹿馬鹿しくなってしまって。そう言う人間には何を言っても通じ無い。
非常に差別的な言い方をすれば『観る目も無いような人間』は『他人が不快に感じる様な文章を書くべきではない』とは思いますがね。
まぁ自分にしたって山ほど文章を書いてますから結構酷いのもあったりして、そういうのを突っ込まれると弱いですから余り大きな事は言えません(いたた..耳がぁ!!)
なんかまとまりきらないコメントですが(汗)こんな感じです。


Posted by: jesus : 2004年11月17日 00:39

コメントありがとうございます。

個人で運営しているblogである以上、その方針はやはり個人に委ねられているわけですが、映画を論ずるに際しての倫理の差が、このような映画においてはより顕著になってくると思うのです。
問題なのはあからさまな「悪意」であって、それは、自由に意見を述べるということとは全く次元が異なり、作品を貶めることにしか貢献しないのではないでしょうか。
もちろん、貴兄の文章を読む限り、そのような感情を抱くことはありません。
非常に舌足らな文章ですみません。誤解を与えてしまったなら、誤ります。しかし、私のこの思いは、そう簡単には解消されないのではないかと思うのです。


Posted by: [M] : 2004年11月17日 00:10

いたたた。耳が痛いですね(痛)
自分とかレヴューを書いていていつも思うのは自分の書いてるのは『評論』なのか『感想文』なのか、って切り分けですね。
まぁ所詮『町の一言居士』としてはやはり『感想文』に過ぎないでしょうし、だとしたら余り堅い文章も嫌煙されるだろうし。だからって軽く口語体で数行ってのも味気ない。
難しいですねぇ..。結構元ネタ探しとか書いちゃうんですよねぇ..。
いたたた..。がんばります。


Posted by: jesus : 2004年11月16日 22:59
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