2004年11月28日

『三人三色』と『ニワトリはハダシだ』

というわけで、結局bunkamuraを鼻先でスルーしつつ、イメージフォーラムに行き『ニワトリはハダシだ』2回目を鑑賞。7割くらいは埋まっていましたが、大半は40代以上の年配層でした。私自身、この映画を予想以上に楽しむことが出来たのは、思うに、この作品が持つ“明るさ”に拠るのだと思います。「ニワトリはハダシだー!」と主人公である知的障害者の少年が叫ぶまでの冒頭のシークエンスを観て、何故だか頬が緩んだのは、今思えば、この当たり前の事実に改めて目を向けざるを得ない自分自身に対する笑いだったのかもしれません。
それにしても養護学校の教師を体当たりで演じた肘井美佳の演技の、何ともいえない瑞々しさは、私の中で新たなる発見として記憶されるでしょう。彼女が放つ、唐突なとび蹴り! 笑い顔も泣き顔も怒り顔も、ここまで全てが魅力的な女優は久々です。原田芳雄は相変わらず泣かせますが、今回ばかりは肘井美佳に拍手を贈りたいと思います。
『生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言』から20年近く経っても、森崎東の衰えを知らぬパワーは顕在でした。

さて、昨日観た『三人三色』についてもやはり触れておきます。
土曜日の初回に鑑賞しましたが、UPLINK Xにいた観客はざっと5人ほど。もったいない、あまりにもったいないというのが今の本音です。

オムニバス一作目は韓国映画『インフルエンザ』。監督のポン・ジュノは個人的に韓国で最も注目している監督の一人です。28分という短い時間ながら、徐々に張り詰めていくテンションは相当なもの。“暴力の蔓延”と一先ず言える本作のテーマですが、特筆すべきはやはり、そのカメラにあると言えるでしょう。監視カメラ(的)映像のみで成り立っている、ということは、あまりに機械的なワンシーン・ワンショットで構成されている『インフルエンザ』ですが、暴力の圧倒的な勝利(鉄の棒と金槌で何発も殴った後、最後に車でその頭を踏み潰すシーンの衝撃!)のみが、画面に焼きついているかのようです。たった28分間で、よくぞここまで…と、改めてポン・ジュノの才能に気付かされました。

二作目の『夜迷宮』は、ジャ・ジャンクーの撮影監督として知られるユー・リクウァイ監督作品。所謂“無声映画”では無いのですが、台詞が全く無いという意味で、やはりサイレント映画だといえるのかもしれません。SF的なシチュエーションでありながら、そのような設定自体が画面そのものの力でその都度凌駕され、最終的に脳裏に残るのは、半ば歪んだ、ピントがずらされた人物だけなのです。現実と虚構の差など無く、無理やり表現すれば、現実には存在し得ない詩のような映画だったのではないでしょうか。

三作目『鏡心』は日本でもファンの多い石井聡互監督作品。この映画には全ての登場人物に名前がありません。“女優”とか“監督”とか“少女”とか、つまり匿名的でそれゆえ幻想のような映画です。ただし、その割りには主演の市川実和子がカメラの前で延々泣きながら独白するシーンの、抽象的でありながらも妙に生々しいシーンは素晴らしかった。そして、上記2作品にはない、極めて重々しい風景の美しさが印象的でした。あのような暗い空と海は、実は私の個人的な好みなのです。

どれもが短編ではありますが、満足できる映画体験だったと断言できます。騙されたと思って足を運んでみてください。

2004年11月28日 17:10 | 邦題:さ行, 邦題:な行
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Title: ニワトリはハダシだ  
Excerpt: ニワトリは破壊的か?  森崎東という監督の作品は今のところ3本しか観ていないので、「森崎喜劇は、、、」などと語る資格を持ち合わせておりませんし、寅さんにおける山田洋次に対する森崎の優位ということも、ボクは寅さんの映画を一本もまともに観ていないので語る...
From: 秋日和のカロリー軒
Date: 2004.12.25
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