2004年11月07日

『カンフーハッスル』、アナログなギャグとデジタルなアクション

今現在、観客を爆笑させることが出来る監督というと、真っ先にチャウ・シンチーという名前が思い出されます。とはいっても、実はチャウ・シンチーについて、私はほとんど知りません。しかし、前作『少林サッカー』には、彼を良く知らない私にそう思わせる程に荒唐無稽で出鱈目で、愚直ともいえる“笑い”が渦巻いていたのです。

『少林サッカー』と『カンフーハッスル』を観て思うのは、そのキャラクター造形の上手さです。絵画における“デペイズマン”的手法といいますか、そこに相応しからぬ事物をあえて配置することで齎される効果が、チャウシンチーの特異なキャラクター性を生み出しているような気がするのです。アクション(カンフー)映画のヒーローとは無縁の禿げかかった中年や、ただ重いだけの肥満体が、画面を縦横無尽に飛び回り、常識はずれのアクションをしてみせる。まずはキャラクターで笑わせるという、いわば漫画的な手法です。そして恐らく、その漫画的な部分を徹底的に押し進めた結果、紛れも無い香港映画の輝きを見せるに至ったのではないかと。

『カンフーハッスル』(原題は『功夫』)というタイトルですが、本作は所謂往年のカンフー映画からは相当逸脱しています。生身の肉体がぶつかり合うシーンよりも、VFXやワイヤーによるアクションシーンのほうが圧倒的に多いからです。もちろん、昨今のアクション映画がそういったテクノロジーの呪縛から逃れることが困難なことも承知していますが、それは同時に、チャウ・シンチーが作り上げるキャラクター性とも切り離せない問題でもあるのです。“いかにも強そう”な人間など、彼の映画には必要とされていません。恐らく現実的にもカンフーアクションとは無縁であるような人物を主要なキャラクターにするわけですから、彼らにはブルース・リーやジャッキー・チェン、ジェット・リーのような芸当は端から求めるべくもありません。よって、VFXによってその“強さ”を生み出すほかないわけです。それはつまり、カットを細かく割ることであり、クローズアップやスローモーションを多用せざるを得ないという、技術的側面にまで影響してくるでしょう。『少林サッカー』において、普通にサッカーしているシーンなどほとんどなかったという事実も、そのように説明できるのではないでしょうか。
ただし、私はそれを非難するつもりなど毛頭ありません。前述したことが事実だとしても、チャウ・シンチー作品の面白さはいささかも減退しないのですから。

ただし、だからといって『カンフーハッスル』を手放しで絶賛できるかというと、そうとも言えません。今更カンフー映画における図々しい御都合主義や脚本の甘さなどを指摘しても始まりませんからそれには目を瞑るとして、私が指摘したいのは、『カンフーハッスル』における一部の映像のうんざりするほどの既視感です。『少林サッカー』に比べると、より多くのVFXを使用している本作おける、クライマックスのアクションシーンの常軌を逸した退屈さが非常に残念でいた。この映画の宣伝からして「ありえねー」などと謳っているわけですが、すでに『マトリックス・リローデット』という駄作を観ている私としては、今更VFXによる「ありえねー」アクションに驚きもしないし、武術指導にユエン・ウーピンを起用しているのでしょうがないかもしれませんが、やはり、何十人もの黒服たちがいっせいに中に舞うシーンだとか、人間の重量(つまりそれは“痛み”にも繋がるのですが)を感じさせないアクションには、もういい加減辟易しています。『マッハ!!!!!!!!』の素晴らしさが、その痛みを感じさせるアクションにあったことを思い出すと、このクライマックスにはどうしても乗り切れなかったのです。

ブルース・リーへのあからさまな目配せが、『KILLBILL』とは違った形で表されている部分などは悪くないし、普段は温厚なクリーニング屋だったり、全権力を握る恐妻にまったく逆らうことが出来ない弱弱しい夫だったりが、カンフーの達人としてその能力を発揮する場面の落差などには大いに笑いもしましたが、チャウ・シンチーが出てくる場面シーンが少なすぎたということに加え、本来最も見せるべきであった、彼の隠れた才能が炸裂するシーンへの伏線があまりに稚拙だったことなど、不満な点も指摘しておかなければならないでしょう。何だか言及するつもりがなかった脚本のまずさを小出しにしてきているので、このあたりで悪口はやめて起きますが。

『カンフーハッスル』は、いくつかの点を除けば、やはり面白い作品であることは間違いないと思います。純粋な意味での“ギャグ”にひたすら笑い転げることも出来るでしょう。あくまで伝統的なギャグとVFXを駆使したアクション。今、世界でもこんな映画を作れる作家は、香港にしかいないのかもしれませんから。

2004年11月07日 11:20 | 邦題:か行
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Comments

>ちぇしゃ将軍様

はじめまして。TB&コメントありがとうございます。
貴サイトも見させていただきました。
私はカンフー映画が自分のルーツだと思うほど好きでしたが、ちぇしゃさんが思っていた“カンフー映画っは勢いばかりで中身がなさそう”という見解、必ずしも間違いではないと思いますよ。カンフー映画の素晴らしさは、しかし、それを超えた次元にあるように思っております。

また遊びに来てください。
こちらからもTBさせていただきました。


Posted by: [M] : 2005年01月11日 12:02

はじめまして、こんばんわー
ちぇしゃと申します ぺこりー
本作品、痛快爽快面白映画で非常に楽しめました♪
カンフー映画は経験が浅いのですが、そんなちぇしゃでも充分楽しめたので大満足ですヽ(゚∀゚ )アヒャヒャ
トラバ送らせて頂きまーす
(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!


Posted by: ちぇしゃ将軍 : 2005年01月11日 04:18

ども。久しぶりです。
昨日「インヴィテーション」買いましたが、再見使用と思っていた『犬猫』の評を蓮實氏が書いていたので、あわててページを閉じました。何らかの影響を受けてしまうとおもったので。『カンフーハッスル』評も読んでいませんが、後ほどじっくり読みます。
私も同じように、こヴィさんの1/10も本を読んでいません。。。


Posted by: [M] : 2004年12月17日 00:53

おひさです。

観たい映画の1/10も見れてません。。。
今月の『インビテーション』誌に野崎歓氏がレビュー書いてました。私も早くみたいです!


Posted by: こヴィ : 2004年12月16日 22:20
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