2004年10月14日

『アイ、ロボット』、逸脱の無い説話が示すこと

アイ、ロボット映画を観る時、私はそのタイトル(多くの場合、原題)に注目するようにしていますが、それはやはり、作家がその作品に対し、何をも表さないタイトルをつけるはずがないという、言ってみればあまりに当たり前な事実に意識的でいようと思っているからです。
さて、『アイ、ロボット』は原題を『I,ROBOT』を記します。“I am ROBOT”でも“I and ROBOT”でもありません。邦題では、そのまま直訳して『アイ、ロボット』となっていますが、さて、この“I”と“ROBOT”はどのような関係にあるのでしょうか。

『アイ、ロボット』は、一般的な視点に立てば、一先ずSFというジャンルに括る事が出来ます。現代において未来を描くということは、すなわち、CG(VFX)が画面の多くを占めるということになります(『CODE46』はその意味で、少なからず野心的だったと言えると思います)。そして、私たちが未だ見ぬ機械やアクションが、当たり前のように描かれていくのです。しかしだからといって、主題論的に『アイ、ロボット』が新たな何かを生み出していたかというと、それには首を傾げざるを得ません。ロボットが意思を持ち人間を支配しようとするだとか、意思を持ったロボットと人間との間に、“人間的な友情”が生まれるだとかは、すでに多くの映画が描いてきたことだからです(例えば、『ターミネーター2』)。たとえそのロボットのデザインが比較的斬新でも(見た目も動きの滑らかさも、人間のそれに近かったといえるでしょう)、ふと人間的な態度をみせたとしても(無表情だと思われていたロボットが、遂には目で表現するに到ったことは、新しかったと言えるかもしれません)、映像的にはあまりに“万能”な現代において、やはりそれだけで観客が感動するとは思えません。にもかかわらず、『アイ、ロボット』が多くの観客を集めているのです(国内観客動員数は、今この文章を書いている間もきっと1位でしょう)。

実のところ、『アイ、ロボット』を見終えた後、予測されたであろう“憤り”とともに劇場を出たわけではありません。意外にも(!)、それほど悪くないとさえ思いました。SFと呼ばれるものにはほとんど興味がなく、もちろんアイザック・アシモフの著作など一冊と読んだこともなく、思えば、大掛かりなアクションと常にその口から飛び出す過剰とも言えるブラックジョークとが、上手い具合に調和していることが評価されているのかもしれないウィル・スミスを積極的に好きなわけでもない私が、そう思うに到ったのは何故か。アレックス・プロヤスという監督に対する期待からでしょうか。それがゼロだとは言えませんが、『スピリッツ・オブ・ジ・エア』と『クロウ/飛翔伝説』を観ただけの私です、それすらかなり曖昧といわざるを得ません。それらは、私を途方に暮れさせるほどの作品ではなかったからです。では、何故か。
ここで結論を言ってしまえば、『アイ、ロボット』の説話的展開にこそ、その理由を求めることが出来るのだと思うのです。

これまでのSF的範疇を大幅に踏み出すことはありませんが、アメリカ映画的な御都合主義を支えに、結局は“ヒューマンドラマ”として(相手がロボットなのですから、これほどの皮肉もありませんが)物語を全うしたこと。主人公の抱えるトラウマを随所に示しながら、ラストに向けて、そのトラウマの克服こそが主題だと感じさせた映画、私が観た、『アイ、ロボット』はそのような映画だったのです。そんな視点に立つ私は、冒頭の問題に立ち返れば、『I,ROBOT』というタイトルにも肯いてしまうのです。つまりそれは、“I”(半分ロボットと言えなくも無いウィル・スミス)と(文字通りロボットではあるけれど人間に近い感情を持つに到った)“ROBOT”との、曖昧な境界線を“,”で結んでいるのではないか、という結論に到った、ということなのです。そして、これが『アイ、ロボット』の主題ではないかと。

その意味で、『アイ、ロボット』は決して駄目な映画ではなかったのだと思います。この映画に駆けつける多くの観客が私と同じ思いだったとまではもちろん言えません。いかにも“『マトリックス』以後”と言えそうなアクションやスローモーションに感動した人も居るでしょうし、あの虚構としてのシカゴに心から新しさを感じた人がいてもいいでしょう。しかし、『アイ、ロボット』が結果として多くの観客を集めているのは、純然たる事実です。そう断言するのにかなりの躊躇があるとは言え、『アイ、ロボット』のような映画の優位は、アメリカ映画の持つ“屈強さ”みたいなものを示しているのではないでしょうか。

2004年10月14日 23:49 | 邦題:あ行
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Comments

初めまして、TBありがとうございました。こちらからもはらせてもらいました。
この映画を見て、近い将来自分の身の回りの機械たちが心を持ち自分で進化し始めたらと思うと怖くなりました。


Posted by: Hitomi : 2004年10月16日 11:27

>イカ監督さま

普段はストーリーにそれほど重きを置かない私ですが、映像の万能性がアメリカ映画に物語の脆弱さを齎したという、阿部和重氏の指摘が比較的的を得ている現在、シンプルでしかも一応筋が通った物語に出会うと、それはそれで褒めたくなりますね。


Posted by: [M] : 2004年10月15日 23:09

シンプルなんですよね。
よくできたミステリー映画とも言える。
同時代的な新しさにすがらないこの監督の姿勢はすがすがしかったです。


Posted by: イカ監督 : 2004年10月15日 22:37

>INT.さま

ニュアンスは近いと思います。
主従関係や対立関係ではなく、あくまで2つの事物(人物)ただ並置されているという感覚、とでも言いましょうか。ただ、あそこまでラディカルに描かれているわけもなく、ほとんどこじつけですけどね。


Posted by: [M] : 2004年10月15日 16:58

あ、似た話題と言うのはタイトルの話です。
『男と女』ではなく、『男性・女性』と言う付け方をした点について
書かれていました。

言葉足らずで大変失礼しました。


Posted by: INT. : 2004年10月15日 16:14

ゴダールの『男性・女性』のパンフレットに似た話題が
書いてあった事を思い出しました。

『男性・女性』の場合は「男と女の間にある繋がりについて
描きたいのではなく、男の行動や習性、女の行動や習性、と
それぞれを別々に描き出そうとしているのだ」と結論付けていました。

『アイ、ロボット』もそう言う事なんでしょうか……。


Posted by: INT. : 2004年10月15日 16:12

>azeさま

TBに失敗しまして、ご迷惑をおかけしました。
いや、文章を書くのは毎度いっぱいいっぱいでして…だらだらと長い拙文ですが、一気に読んでいただき恐縮です。またお気軽にのぞいてください。


Posted by: [M] : 2004年10月15日 08:35

TBありがとうございます。
私には逆立ちしても書けっこ無い文書です。
素直に尊敬します。

読みやすいので一気に読むことが出来ました。


Posted by: aze : 2004年10月15日 01:29
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