2004年10月17日

『jackass the movie 日本特別版』、言葉を奪う挑発性

映画は面白ければいい、という意見もあるでしょう。もちろん、映画など面白くなくたっていいのだ、という意見があってもおかしくはありません。私自信、まだその問いに対する答えを見出せずにいますが、しかし、これだけは万人に共通して言えることではないでしょうか。つまり、人生は面白ろいうががいい、と。
『jackass the movie 日本特別版』は、そんな人生への問いを投げかけてくれた、示唆に富んだ作品でした。予め断っておけば、この映画の前にどんな言葉も無力なのです。その映像は言葉という言葉を完全に圧倒し、あらゆる賛辞も野次も、等しく敗北し続けるでしょう。映画を観てそのように感じたのは、間違いなく『ヴァンダの部屋』以来です。観客から言葉を奪う映画、それが『jackass the movie 日本特別版』なのです。

言葉を奪う代わりに『jackass the movie 日本特別版』が容赦なく強いるもの、それは、“笑い”に他なりません。ジョニー・ノックビル率いるjackassは、“笑う”という人間特有の行為を、極めて純粋に追求しているかのようです。ここで強引にジョルジュ・バタイユの言葉を借りれば、“笑い”の本質は“恐怖”の表れであり、これをまたもや強引に飛躍させれば、常に死と隣りあわせでなければ、真に“笑う”ことは出来ないということになるでしょう。その真理をjackassの連中は体一つで実践して見せます。ここに、途方も無い感動が生れ落ちることになるのです。

jackassは多くの人間によって、“バカ”だと断定されてきました。それが正しい指摘だとしても、単なる揶揄だとしても、やはり無力な言葉なのであり、つまりいかなる指摘も無意味だということになりますが、それでもそれらの言葉に納得することは容易い。例えば、下記の写真をご覧ください。


ジョニー・ノックビル(バカ)

誰が何と言おうと、こいつは“バカ”だと断言したくなります。ワニに自分の乳首を噛ませる理由などあるはずがない。それがたとえ子ワニであったとしても、やはり同じことです。しかし、彼らはそんなことは百も承知しています。常に何らかの理由や必然を求めてしまう通俗的な人間をこそ、笑い飛ばしているのがjackassなのですから。そして、jackassを観て笑ってしまう人間もまた、あまりに通俗的なのです。自らの通俗性を隠蔽しようとすればするほど、観るものはただ、笑うしかないからです。

jackassには“笑い”という要素のほかに、もう一つ見落としてはならない側面があります。それは、誰もが持ってはいるものの、自分自身でそれを見ることの出来ない、極限状態に置かれた人間が見せる根源的な表情です。生理的嫌悪感を強いるようなその表情は、観るものの感情を揺さぶらずにはおきません。彼らは、常に本気です。本気で恐怖し、本気で痛がり、本気で嘔吐し、本気で笑う。これこそが感動的なのです。事実、バカをやる彼らの傍らには、それを観て本気で爆笑している仲間の存在があります。カメラは、バカをやらかす人間を映すのと同じくらい、それを観て爆笑する人間をも映し出していたことを見落としてはならないと思います。

いずれにせよ、『jackass the movie 日本特別版』は、あらゆる意味で観客を挑発する映画であるという事実は揺るぎないと言えるでしょう。
最後に付け加えると、映画において、リアルな嘔吐を目撃したのも『ヴァンダの部屋』以来でした。劇場では私の前に恋人同士と思しきカップルが座っていたのですが、嘔吐場面で目を背けていたのは決まって男性の方だったというのが印象的でした。

あ、それともう一つ。
今回の【映画秘宝スペシャル 秘宝ジャッカス祭り〜世界のバカ大集合〜】は2本立てで、もう1本『ヘブンズ7』といういかにも出鱈目なタイ映画も上映されましたが、冒頭から全くと言っていいほど乗れず、それでも我慢し続けて40分ほど観続けたのですが、その常軌を逸した弛緩ぶりにあまりに腹が立ったので、恐らく生まれて初めて、途中退出しました。秘宝編集長・田野辺氏の熱い推薦を聞いていただけに、あまりに残念な結果です。いくらバカ映画といっても、それだけで何でも許されるのかというとそれは大きな間違いです。そう思ってしまうほど、『ヘブンズ7』には“真面目さ”が感じられなかったのです。この“真面目さ”は、バカ映画にこそ必要とされる要素なのではないでしょうか。
よって、『ヘブンズ7』については、ノーコメントとさせていただきます。

2004年10月17日 14:05 | 邦題:さ行
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Comments

>puffさま

どーもです。
あの夫婦は、本当は怒っているのか、それとも事前になんとなく了承済みなのか、わかりませんでしたね。
オープニングは、確かに“らしさ”が出ていたと思います。あの大砲から出てくる岩は本物ですかね? もちろん、本物であって欲しいと心から願うばかりです。

しかし、本当に下半身に自身があるのかどうか。男として、若干の疑念がぬぐいきれません。実体験では、自身のある無い関係なく、脱ぎたいヤツは脱ぎますからね…(笑)


Posted by: [M] : 2005年01月13日 10:04

ドモドモー
この映画で一番印象的なのは、私の場合は、やはり父母の騒動ですね。
花火やらワニやら、それにしてもあの夫婦は息子に対して怒らないすね。
最初のカートに乗ってくる出だし、あそこのシーンも良かったです。
これから起こるであろうお馬鹿っぷりを期待させてくれたのでした。
そうそう、下半身の話題が多かったですけど、皆さん
よほど自信があるとみました(=お下品ですいません・汗)


Posted by: Puff : 2005年01月13日 00:46

>sthちゃま

駄目だよ、この番組こそ堂々と鑑賞しないと。確かに彼はブラピに似ていましたね。サングラスが『ファイトクラブ』のものにそっくりだったような・・・
トモアレ、復活おめでとう。無職でも映画は出来るだけ観てね。


Posted by: [M] : 2004年10月23日 08:11

お久しぶりです。復活しました。新築マンションで快適な無職ライフを送っています。新ラップトップは申し分ないくらい好調です。
そんなことより、びっくり。あの『jackass』が映画になっていたなんて!NZで毎週見てました。このおばかTV番組を。「おっ、ブラットピット似のかっこいいおにいさんがでてる!」と見始めたがさいご、毎週毎週、痛くて汚くて無駄なことばかりしいる彼らをどうしても無視することができなかった・・・。誰か部屋に入ってきたらチャンネル変えてましたね。こそこそしながら見てやんの。(^▽^;)『jackass』はそんな思い出深い作品なのでした。(最後はきれいに締めてみた)以上


Posted by: sth : 2004年10月22日 14:59
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