2004年09月19日

アルトマン、小津、そしてジャ・ジャンクー

一瞬の夢今日は朝から疲れ気味でしたが、予定どおり新宿武蔵野館3にて『父、帰る』を、その足で渋谷に戻り、スペイン坂にある気に入りの店“cafe 人間関係”でビールなど飲みながら時間をつぶし、その後、始めて訪れるライズXにて『GERRY』を鑑賞しました。双方とも大変興味深く、そして恐らく、個人的には今年のベスト5内を飾るだろうと確信しました。と、映画の雑感に入る前に、先週借りてきた6本のヴィデオ。何とかすべて観終えましたので、それらに関して簡単に。

まずはロバート・アルトマンの『ストリーマーズ』。83年にアメリカで公開されながら、94年まで日本で公開されなかった映画で、ベトナム戦争を舞台にした密室劇です。よって、カメラは兵営の外へは出ません。もちろん、戦闘シーンもないし、銃を撃つシーンも無い。平和だったある部隊の兵営に、他者である黒人兵士が加わることで、それぞれが精神的均衡を欠いていく。そして、ラストの悲惨な事件へと展開していくという話です。密室劇ですから、カメラは狭い兵営の中でそれほど動かなかったと思います。つまり、会話に重きが置かれていたということです。出色だったのは、闖入者であるカーライルという黒人が、自分を罵る白人兵士をナイフで刺すシーンです。ほんの一瞬しか映らないそのシーンですが、その後の白人兵士の演出がいい。同僚の兵士たちも何が起こったのかしばらく理解できない。刺された白人兵士が、2〜3歩ヨロヨロとあるいて、バタンと倒れる。そして、それを観ていた兵士たちがその表情を変える。このあたりの呼吸が見事でした。『M★A★S★H』といい本作といい、アルトマンの戦争映画は、会話の映画です。私はこういう作品を観ると、ああ、やっぱりアルトマンは悪くないなぁ、と思ってしまいます。

続いて、小津を2本ほど。『晩春』(1949年)と『秋刀魚の味』(1962年)です。13年という時を隔てているこの2作品ですが、物語的にはほとんど同じ。厚田雄春氏によるカメラ位置もまたほとんど変りません。笠智衆演じる父親像も、原節子と岩下志麻がそれぞれ演じる娘像もまたほとんど同じです。にもかかわらず、この面白さはどうか。その単純な物語のわりに、小津の映画はちょっと“変”なのです。もちろん、有名なローアングルもしかり、食事のシーンしかり、そして日常的な会話しかり。全く普通ではない。この辺については、今後も何回か考えてみたいところです。これまで意識的に避けていた「監督 小津安二郎」を、そろそろ熟読してみようかと思います。

最後に中国の新星ジャ・ジャンクーの『一瞬の夢』。朝、急いで観たことを後悔しつつも、その完成度に驚きました。まさかこれほどまでとは…まだ27歳で、しかも長編デビュー作でこんな映画を撮ったジャ・ジャンクーという男。私は映画とは何の関係もない職業で、将来映画に関わることも無いと思うのですが、それでも、この監督に嫉妬ぜずにはいられませんでした。全くもって素晴らしすぎます。16mmのカメラを担当したのは、ユー・リクワイ。このカメラがまたいい。そのFIXショットの強度や、移動ショットのぶれが醸す危うさ。中国の山奥にも、こんな青春があるのです。ラスト、主人公ウーが警察に捕まり(彼はスリの常習犯です)、手錠を街頭か電信柱かに繋がれる。その時、まわりを取り囲む人々の目。こういう残酷さを画面に刻み付けることが出来る才能。ジャ・ジャンクーの作品は、どれも“絶対に”必見です。まだその名前すら知らない方、なるべく早くその凄さを確信してください。

というわけで、大分長くなってしまったので、今日観た映画については、次の記事で。

2004年09月19日 21:10 | 邦題:あ行, 邦題:さ行, 邦題:は行
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Comments

>イカ監督さま

まさに、手の映画でした。さらに言えば、やはり視線の映画ではないかと。しかもその視線は、全て残酷なものでした。主人公ウーが時折見せる、“何も表さない”視線。かといって、能面のような冷たさもなく、無表情とも違う。彼は何かを見ているようで、何も見ていないのではないか。そこにはほとんど人間としての気配が感じられませんでした。その彼が、人間味を取り戻した時(恐らく歌を歌い始めたあたりから)、警察に捕まるのは決まっていたのだと思いました。手と視線…こういうものを撮られてしまうと、私はどうしても弱いのです。『青の稲妻』、大分前なのでちょっと忘れています。タランティーノと武ですか。出演シーンには笑いました。イカレポンティといった感じでしたね。

>こヴィさま

いやいや、今週は大分調子にのりました(笑)
今日は『父、帰る』の雑感を書こうと思っていました。ひとまず、こヴィさんが観るまで、このサイトは決して見ないようにしてください。って、ここに書いても意味がないので、後ほどmixiのほうに書きますね。
『GERRY』観ていましたか! いや、ケイシー・アフレックなかなかいいじゃないですか。真っ先に思い出したのが、タル・ベーラですね。狂気じみたシークエンス・ショットの連続! ちなみに、ライズXは、ものすごく狭いので、まぁまぁ埋まっていたような…でも、カップルで見ても間違いなく沈黙が訪れる映画だと思いました。


Posted by: [M] : 2004年09月20日 20:34

[M]さん、映画見すぎです(笑)!

『父、帰る』、今一番みたいです。ないよう言わないでください!
『GERRY』は見てます(試写)。傑作でしたねー!! でも絶対ヒットしないと思います。
ジャ・ジャンクー、見ねばと思ってるのに『一瞬の夢』まだ見れてません。『プラットフォーム』はユーロで見たんですけど。『青い稲妻』とダブルで見なきゃ。


Posted by: こヴィ : 2004年09月20日 03:17

『一瞬の夢』は手の映画でしたね。
主人公のスリが手錠を掛けられてさらし者にされるまでの映画。
タバコを吸う手や、ライターを点ける手、ビリヤードのボールを奪う手…
一瞬だけ挿入される数々の印象的な手のアップが本気で素晴らしい。
3作目の『青い稲妻』ではなんと!北野武とタランティーノのパロディシーンがあり、
ナイトシャマランばりに監督のお馬鹿出演(ええ声で歌う頭のオカシイ役)も楽しめます。


Posted by: イカ監督 : 2004年09月19日 22:54
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