2004年09月16日

『処女ゲバゲバ』を観て、パゾリーニを思い出す

昨日はヴィデオにて久々のピンク映画を。私はピンク映画を特に好むわけでも嫌っているわけでもないのですが、これまで観てきたものは総じて面白く、刺激的で、美しいものが多かったと言えます。“エロスと暴力”、この二つから目を背けている作品に決して面白いものがないというのが私の持論ですから、60〜70年代に集中的に撮られた若松孝二作品は、端的に言って私好みだったと言うことです。
今はシネクイントあたりでも、「女の子限定ピンク映画オールナイト」などが組まれるくらいですから、そんな心配などいらないと思われますが、もし仮に、ピンク映画に対する無知から来る偏見など持っている方がいましたら、そういう偏見はまず捨て去るべきだと思います。

さて、にもかかわらず、この『処女ゲバゲバ』について言及することは難しい。大島渚によって“出鱈目に”つけられたタイトルをみて、そこに“処女=エロス”と“ゲバ=暴力”のアナロジーを発見することは誰にでも出来ることですが、だからといってそういう言説は既に何度も繰り返されていますし、今更同じことを言っても始まらない。確かに、良し悪しの判断は簡単ですし、それなりの言葉を費やすことも出来ないわけではありません。ただ、これほど美しく、同時に出鱈目な映画について、私が言及すべきいかなる言葉も見つからないのです。フレイザー「金枝篇」に着想を得たとされる出口出(大和屋竺)による脚本の途方も無さはどうでしょう。何処までも続く荒野が、瞬時に地下室と化すイメージの鮮烈さはどうでしょう。無時間的なモノクロームの画面が、カラーに切り替わる瞬間の息を飲むようなアクション性はどうでしょう。このような答えの無い自問自答を繰り返す他ないのです。

ただし、一つだけ思い浮かんだことがあります。あの画面、どこかで目にした事があるな、と思いながら観ていたのですが、それはどうやら、ピエル・パオロ・パゾリーニの『豚小屋』だったようです。あるいは、『アポロンの地獄』かもしれませんが、とにかく私の頭にはその時、“若松孝二=パゾリーニ”とまでは言いませんが、この二者の距離や時間を越えた近親性というか、“間=フィルム性”というか、そんな発想が渦巻いていました。それが絵空事だとしても、私にとって価値あることだったと加えておきます。

最後に、芦川絵里の腋毛。あの決して長くは無いショットに反応出来ない人間は、ピンク映画に対する繊細な感性を端から放棄していると思いますがいかがでしょうか? あの猥雑さこそ美しいのだと私は思うのですが…

2004年09月16日 13:11 | 邦題:さ行
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Comments

>イカ監督さま

こちらでは初めてですね。

「荒野のダッチワイフ」は、DVDを借りつつも、時間が無くて観られずに返却していらい、遠ざかっていました。やはり傑作ですか。「毛の生えた〜」とともに、観なければならない作品のようですね。ただ、私も語るほど観ていないんです。若松作品では、「天使の恍惚」にはひたすら笑いました。もはやピンクですらない感じ。政治が戯画でしかないというシニスムとでもいいましょうか。。。


Posted by: [M] : 2004年09月16日 23:18

そんなにピンクを本数見てませんが
『処女ゲバゲバ』は思ってたより普通だったと、観た当時思いました。
今観たら色々再発見がありそうですね。
あ、出口出こと大和屋笠が監督した『毛の生えた拳銃』や『荒野のダッチワイフ』を先に見てたせいもあるなあ。この2本(特に『毛の生えた』)は大好きな作品なのです。 


Posted by: イカ監督 : 2004年09月16日 22:22

そうですね。女だから男だからっていう観点で、映画を観るのはおかしいのかもね。今度機会があれば観てみます。ありがとう。


Posted by: rie : 2004年09月16日 18:41

>rieさま

認知度というより、それを“映画として観る”という風潮は現在一般的だとは思います。伝える側よりも、むしろ、我々観客側の認識が問題かと。

>これも偏見に値するのかしら?

観る前からある価値基準に従ってその作品を退けてしまうのが偏見だとすれば、女性だという理由でピンク映画を避けるのは偏見ということになるかと。一先ずチャレンジしてみることをおすすめします。


Posted by: [M] : 2004年09月16日 18:28

今のご時世、昔と違って性に対する壁と言うか、オープンになっていますよね。勿論昔もピンク映画で芸術的な素晴らしい作品はあるとは思いますが、これからは偏見を捨ててもっと取り上げられても良いのではないかと思います。とは言いながら、女である私は進んで観ようとは思いませんが...。これも偏見に値するのかしら?


Posted by: rie : 2004年09月16日 13:44
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