2004年07月12日

『子猫をお願い』、少女たちの複数性は韓国そのものに重なる

時ならぬ“韓流ブーム”には何の興味もないどころか、それは果たして現在の映画環境にとってプラスに作用しているかどうかも甚だ懐疑的なくらいですが、そんな韓国にもやはり、すばらしい作家はいるのだと改めて納得。韓国映画の映画史的な位置付けは知りませんが、あの国も興味深い複数性を見せてくれます。カン・ジェギュのような監督もいれば、その対極(?)にはキム・ギドクもいたりで。まぁ、そんなことを言ったら、日本だってアメリカだってフランスだって、複数の表情を持っているんですが。それらの国々の作品より、韓国映画を観ることが圧倒的に少なかったので、あるいはそんな風に思ったのかもしれません。

今回『子猫をお願い』を観ていて初めて感じたのは、韓国語を話している女性の“声”に対する、羨望と言うかなんというか、とにかく『子猫をお願い』に登場する5人の女性たちの声とその発音自体に妙に惹かれている自分を発見してみたりしました。長編デビューを果たしたチョン・ジェウン監督は女性ですが、だからといって“女性映画”を上手く撮れるかと言えば決してそんなこともないですし、その逆もまた真だと言えるはずです。つまり、チョン・ジェウン監督には才能があるということなのでしょう。実際、彼女たちの“瑞々しさ”という言葉には収まりきらないイメージは、自然さえがそれに味方しているようで、ソウルに吹き荒ぶ風とそれに向かって歩く5人を捕らえたショットの素晴らしさは、まさに風を見方につけた監督の勝利を宣言しているかと。とりわけ携帯電話でのコミュニケーションなどに見られる『子猫をお願い』の現代性ですが、そんな“わかりやすさ”に還元されない“複雑さ”をこそ、監督は描きたかったのではないでしょうか。彼女たちのバックグラウンドに潜む様々な“重さ”は、描写的にはそれほど多くないもののやはり作品に深度を与えていて、目の前に立ちはばかる現実と言う壁、それを乗り越えようともがく瞬間のアクションこそが感動的だったような気もします。さらに付け加えると、時折挿入されるあのメールやタイプの文字の見せ方、いかにも今風でしたが、非常に効果的だったと思います。この映画の笑いの要素も含め、監督のバランス感覚に“冴え”を感じました。

そんなわけで、蓮實重彦氏が『子猫をお願い』に比肩しうる傑作としてあげている『アデュー・フィリッピーヌ』は、8月に観にいく予定です。未だヴィデオ化されていないこの作品を観て、もう一度『子猫をお願い』について考えられればと。

2004年07月12日 11:19 | 邦題:か行
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Comments

>Ken-U様

重要なご指摘、ありがとうございます!
いや、TBのURLの件です。

見落としではなく、完全に抜け落ちていました。恐らくサイト開設当時から、ずっとその状態だったのです。ご指摘により、初めて気づくという体たらく。なんとも情けない限りです。

早速修正いたしました。
とにかく感謝です!

というわけで、TBありがとうございました。。。


Posted by: [M] : 2005年06月24日 12:40

[M]さん、コメントありがとうございました。TBもお返しします。

この作品のセンスの良さには感心しました。物語の持つ"深み"を、押しつけがましくは見せないにもかかわらず、心の中にじわりじわりと沁み入ってくるようです。

話は変わりますが、TBを辿って個別記事を表示させると、TBのURLがうまく見つかりませんでした。表示が無いんでしょうか?ぼくの見落としかな?


Posted by: Ken-U : 2005年06月24日 11:38
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