2004年06月14日

『LA MOTOCYCLETTE(オートバイ)』、記憶に残る画面と台詞

あの胸にもういちど97年のリバイバル時に見逃し、作品の出来はさておき、何としても見ておきたかった作品『あの胸にもういちど』(仏語ver)を鑑賞することが出来ました。マンディアルグの著作は以前にも読んだことがあるのですが、原作である「LA MOTOCYCLETTE(オートバイ)」は未読で、しかし、アメリカでは『NAKED UNDER LEATHER(革の下は裸)』などという如何わしいタイトルでソフトポルノとして公開されたくらいですから、「城の中のイギリス人」とまでは言いませんが、 それなりのエロティックさを堪能できるかもしれないという淡い期待を込めて見てみることにしました。ジャック・カーディフ監督の作品は初めてでしたが、監督としてよりもむしろ撮影監督としてのキャリアの豊富さ、それに加え、いくつかのHPや書籍を調べたところ、どうやら“実験的アプローチで撮られたメロドラマ”らしく、その説明に漂う胡散臭さに無条件に惹かれ、このたび奇跡的に(知る限りでは、仏語verのヴィデオは入手困難)鑑賞するに至ったのです。

アラン・ドロンもマリアンヌ・フェイスフルも、この作品に出演したことを激しく後悔しているらしいなどと聞くと、こちらの倒錯的な期待も高まると言 うものですが、見終えてみると、なるほど、とりわけこの時期はまだ乗りに乗っていたアラン・ドロンにしてみれば、なんとも不可解な、というよりほとんどだらし ない出来栄えだといえるでしょう。『サムライ』や『冒険者たち』の後に、このような作品に出るなんて、クスリでもやってたのかナァ・・と思いきや、実際にキメ キメだったのはマリアンヌ・フェイスフルの方で、あの(中途半端な)怪演もうなずけます。

その辺の話はいろいろ書かれているので、ここでは映画自体の話を。いかにも60年代の邦題らしい『あの胸にもういちど』というタイトルはさておき、原題である『LA MOTOCYCLETTE』が示すとおり、この映画はオートバイそのものが画面の大半をしめる作品です。冒頭、マリアンヌ・フェイスフルがシュールレアリスティ ックな夢を見ます。このシーンからしてすでに、ジャック・カーディフの実験場と化していると言えます。フィルムは派手に彩色され、極端に細かいカット割により 、様々なイメージが連続的に画面を彩ります。今見ると、ちょっと恥ずかしくなるようなショットもあり、ああ、のっけから失敗しているな、と思いはするものの、 マリアンヌ・フェイスフルをマゾヒスティックな女にし、変装したアラン・ドロンに鞭打たれるシーンを見せてくれただけで満足だと言うべきでしょうか。また、こ れは時代の要請なのか、原作に忠実なのかは分かりかねますが、所謂エロティック・シンボリズムというやつが幾度か見られました。分かりやすいところで、オート バイにガソリンを入れる際に、注入口に管が挿入される描写をわざわざクローズアップで見せるシーン。そもそもレザーのつなぎからして、妙にエロティックさが強調され、特に着替えるシーンをこんなに丁寧に、しかもいくつかのカットに割った上でみせる必要がどこにあるのかを考えてみると、当時のアメリカ人の 感性にはポルノとしか映らなかったとしても不思議ではありません。

この映画の多くの台詞は、マリアンヌ・フェイスフルのモノローグに終始すると言っても過言ではなく、もし全ての台詞が彼女のモノローグだけだったら、『恋ざんげ』のように、真に実験的な作品になったのかもしれませんが、それはさておき、これらの台詞はもしかすると原作者の言葉をそのまま引用しただけなん じゃないかとも思われ、しかも、その一語一語が妙な雰囲気を生み出すことに成 功 していて、「太陽よ! 私を燃やして!」などと彼女が朝焼けに向かって言うとき、決して面白くないこの映画を、ロマンスでもメロドラマでもない、言ってみればジャンルを超越 した異空間へと飛翔させていたと言ったら、やはり言いすぎでしょうか。

こんなことばかり書いてはいますが、心から感動的だったシーンもあって、それはラストに起こる事故のシーンなのですが、非常にあっけなくその身が 空中に放り出され、前方のクルマのフロントガラスに頭から突き刺さる瞬間は、映画における事故のシーンの中でもなかなか悪くなくて、つい『軽蔑』のラストの事故シーンを思い出してしまったほどです。決して良い作品とはいえませんが、記憶の底辺にある奇妙な染みを残したとだけは断言できる作品でした。

2004年06月14日 11:07 | 邦題:あ行
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