2007年11月20日

最近の良作・傑作メモ

10月から11月にかけて観た良作・傑作に限って、簡単に。
映画祭関係の作品はすでに観られないものもありますが、正式公開を祈って待ちましょう。

誰かを待ちながら(ジェローム・ボネル)
前編を通して幾度も登場した、3匹の犬を連れた女性が、前作『明るい瞳』の主人公だったことに気づいたのは、上映後でした。彼女の存在が、本作の中では特に重要だと中盤あたりから確信しつつ観たのですが、決定的な結論は出ず。意味のある役柄だったとは思うのですが。
ジェローム・ボネルの演出は嫌いではなく、むしろ好みだとすら思う今日この頃ですが、一方でやや小さくまとまっている感じがしないでもなく、それは特にラストシーンに顕著にあらわれていたようにも。どちらにせよ、この監督はもう少し見守るつもりではあります。

マッド探偵(ジョニー・トー)
開始3分足らずで、観客を作品に引き込む作劇術は流石と言う他ありません。何が起こっているのか、冒頭でまず説明するというのではなく、いくつかのアクションとそれを切り取る的確なカメラワークが、説明を超えたインパクトを観客に与えていました。
これまで私が観てきたジョニー・トーとは一味違った印象で、必ずしも一番の傑作だとは思わなかったものの、面白い映画だったことに違いはありません。
ティーチ・インで登場したジョニー・トーが、誰よりも彼の映画の登場人物に類似していたことが興味深かったです。しかし、ジョニー・トー人気はとどまるところを知らないような印象を受けましたが、新作が次々公開されていくのかどうかに関しては、まったく楽観出来ない状況です。

ヘアスプレー(アダム・シャンクマン)
好感の持てる作品。ジョン・ウォーターズ版がかなりそっけなく見えてしまうほどに、本作ではさらに多くのエピソードが盛り込まれていますが、それは時代の要請だと納得もいくし、それぞれがなかなか上手く描けていて、青春ミュージカルとして素直に楽しめました。
冒頭のシークエンスでフラッシャー役で登場するジョン・ウォーターズも、この作品の出来には、結構満足したのではないでしょうか。この作品から、新たなジョン・ウォーターズファンが生まれれば、それはそれで良い事です。が、そのベクトルは、ドリームランド・プロダクション時代の作品には向かないのかもしれません。

青い青い海(ボリス・バルネット)
初めてのボリス・バルネット体験。『国境の町』と続けて鑑賞しました。
本作を観ながら、エルンスト・ルビッチの『生活の設計』を思い出したりしました。男2人と女1人。彼らの背景にあるのは、カスピ海の荒波(この海の美しさ、激しさは最近映画で観たどの海より豊かでした)。ヒロインのエレーナ・クジミナが、この2人男のどちらかを選ぶことがないはずだと確信させながらも、最後まで“面白おかしく”その恋の行方を観客に見守らせてしまうこと。随所に炸裂するギャグ。そして、こよなく美しいミュージカルシーン。どう見てもこれは、私が知っていたソ連映画ではありませんでした。
やはり映画は素晴らしいということを確認させてくれる、紛うことなき傑作。

無用(ジャ・ジャンクー)
「無用」とは、馬可というファッションデザイナーが立ち上げた新ブランドの名前です。本作は彼女を追ったドキュメンタリーと思わせつつ、後半から別の展開を見せます。そう、この映画はここからが素晴らしいのです。相変わらず、ジャ・ジャンクーの映画に出てくる素人の、唯一無二と言えそうな表情や仕草は感動的で、何故彼らがあれほどまでに“映画”足りえるのかが不思議でなりません。
ジャ・ジャンクーのドキュメンタリーは今回始めて鑑賞しました。ユー・リクワァイのカメラは、時にフィクションであるかのように振る舞い、時には完全に透明な存在にも。まさに変幻自在でした。被写体にカメラの存在をはっきりと示しつつも、そのカメラへの反応はほとんど見せないというジャ・ジャンクーの演出は、確かにティーチインで監督自身が発言されていたように、フィクションとドキュメンタリーの垣根からは自由であったように思いました。
経済的に行き詰まっているかのような地方の村を車で訪ねる馬可と、その車が目の前を通り過ぎる様を、呆気にとられたように見つめる一人の男がいて、その男が、何かを思い立ったように歩き出すというシーン。あのシーンに感じた良い意味での違和感。あれがジャ・ジャンクーのドキュメンタリーの魅力だったのかもしれないと、今は思っています。

レディ・チャタレー(パスカル・フェラン)
合間合間に挟み込まれるテロップが、描写の省略として上手く機能していたように思え、そのおかげか、本作には全編を通して心地よいリズムがありました。肝心の性描写ですが、近年観たフランス映画の中では、描写自体は控えめながらも極めてエロティックでした。ファンタジックなエロスではなく、どこか“現実的な”エロティシズムを感じさせると言いますか。木々の苔やオアシスのような泉、そして雨…。瑞々しく輝く画面の潤いが印象的。

2007年11月20日 19:30 | 映画雑記
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