2007年02月22日

私と「STUDIO VOICE」

STUDIO VOICE今、手元に「STUDIO VOICE」(MARCH 2007 VOL.375)があります。発売してすぐに購入しましたが、その時は別の本を読んでいたので、今になってやっと読み始めた次第。

今号は、“30th Anniversary -永久保存版-”と題されています。つまり、この雑誌ももう30周年を迎えたということになります。年数だけで言うならかろうじて私よりも後輩というところですが、私が読み始めたのは90年くらいからですから、とてもそんなことは言えません。

さて、ざっと2年数ヶ月ぶりに「STUDIO VOICE」を購入しましたが、どうやら“創刊30周年記念特大号:Vol.3”とあるので、永久保存版はすでに2号出てしまっている模様。そこでサイトを見てみると、Vol.1が「写真集の現在」、Vol.2が「『80'sカルチャー』総括!」と、いかにもボイス好みの特集が続いていました。
Vol.3である今号は「伝説のクリエイターたち ベストインタビュー50」。表紙に並んだ名前を見て、どうやらこれは自分が嘗て読んできたものが多そうだと直感しましたが、映画特集ではないにせよ表紙は松田優作だし、『叫』や『ドリーム・ガールズ』の映画評があるし、今読み進めている「吉田喜重 変貌の倫理」の書評もあるので、久々に買ってみようと思ったのです。

読み始めると、そこに登場するインタビューの多くは読んだことがあるものでした。それもそのはず、91年ごろから「STUDIO VOICE」は私にとってことのほか重要な雑誌で、まさにボイスがあったからこそ今の私があるのだと言っても、決して言い過ぎではないのですから。

私が出版方面への就職を決意したのも、実のところ、この雑誌に何らかの影響を受けてのことでした。
大学生の時、とにかく時間だけはあった私は、もちろん映画もよく観ていましたが、今では気恥ずかしくてそう口に出来ない、あの“サブカルチャー”という言葉に狂っていたのでした。それが何だったのか、未だに上手く説明出来ませんが、いずれにせよ「STUDIO VOICE」という雑誌を抜きには語れないでしょう。ちょうど大学に入学してすぐくらいに、未だアンダーグラウンドな雰囲気を漂わせていたクラブカルチャーにどっぷりと染まり、そこで様々な人種と出会ううちに、ファッションやら音楽やら写真やら建築やら文学やらデザインやら、つまり、「STUDIO VOICE」が好んで特集しそうなあらゆるカルチャーを貪欲に吸収しようとしていたわけで、まさに「STUDIO VOICE」を媒介として、様々なジャンルを横断していったのです。

その後就職が決まり、新入社員紹介、みたいな感じで社内報に載ることになって、その撮影時に数人のカメラマンや先輩社員たちの前で、“「STUDIO VOICE」のような雑誌を作りたい”などと発言して大方の失笑を買った時には、まだ出版業界の実状などまるでわかっていない、単なる青二才だったということになるでしょうが、それでも何だかんだ言って25歳くらいまではずっと定期購読していた「STUDIO VOICE」を、では何故読まなくなっていったのか。まぁ考えてみるまでもなく、スポンジのようにあらゆるジャンルを自分のものにしたいなどという青い時期は過ぎ去り、気づかぬうちに、ある特定の分野に対してのみ、情熱を注ぐようになっていったからでしょう。あるいはこの業界に入って、雑誌全般を見る目が変わった、とも言うべきかもしれません。年齢を重ねるに従って読む雑誌が変わってしまうのは珍しくないし、さらに言えば、もはや映画に関連した雑誌以外はほとんど買わなくなってしまったのですから。

しかしながら、今号はそんな私には何ともノスタルジックな思いを抱かせてくれたという意味で、非常に興味深い。何十冊もあった「STUDIO VOICE」も、現在の住所に引っ越してきた8年前にそのほとんどを処分してしまい、今はもう読み直すことも出来ないので。あの時、私と「STUDIO VOICE」との連綿と続いてきた関係に、ある種のピリオドが打たれたのでしょう。以来、映画関係の特集以外はほとんど購入せず、その存在すら薄れかかっていた私にとって、当時熱狂したクリエイターたちのインタビューは、本当に懐かしい。
実は一度も面白いとは思ったことがないウィリアム・クラインのリバイバルに駆けつけたり、GUCCIの広告に衝撃を受けてマリオ・テスティーノの名前を連呼したり、ブロンソンズの存在に嫉妬したり、パンクファッションの歴史について友人と夜通し語り合ったりしたのも、全て「STUDIO VOICE」に熱狂していた時期に重なります。ゴダール特集やゲンズブール特集号を求めて古書店を歩きまわるなんて、今では考えられません。ピーター・ビアードよろしく、誰に見せるわけでもない自分の手帳にコラージュ作品を作っていたなんて、今だからこそ言えることです。

あらためて眺めてみると、やはりなかなか面白い雑誌だということに気づきました。
今後も毎号買うということはないでしょうが、その存在は記憶から消してしまわないようにしなければと思います。

2007年02月22日 12:00 | 映画雑記
TrackBack URL for this entry:
http://www.cinemabourg.com/mt/mt-tb.cgi/735
Trackback
Comments

>たなかなさま

お久しぶりです。その節はこちらこそ。
なるほど、ボイスがバイブルでしたか。
しかし片桐氏とコリーヌ・ブレ氏の打ち合わせに遭遇して、名刺交換するとは…。ボイスフリークだった私としては、なかなかうらやましいエピソードです。

やはり猛烈にいろいろなことを吸収するという時期が過ぎてしまったということなのかもしれません。おっしゃるとおり、それは脳年齢高齢化にもつながっているのかも。ちなみに、最新の診断結果は22歳。10歳ほど若返ったので、これを機に…とかそんな都合よくはいきませんね。


Posted by: [M] : 2007年03月11日 13:01

こんにちは、久しぶりに訪問しました。以前マラパルテの絵を送って頂いたものです。その節はどうもありがとうございまいた。
ところでSTUDIO VOICE、私も80年代半ばから90年代前半にかけて購読していました。同じく私にとってもバイブル。いろいろな事を学びました。以前、とあるお寿司屋さんのカウンターで当時の編集長の片桐氏とコリーヌ・ブレ氏が打ち合せして居るところに隣り合わせ、思わず声を掛けてしまったことを思い出しました。(なぜか名刺交換などし...)ここ最近は、あまり買う事もないのは、やはり脳内年齢高齢化のせい?でしょうか...。すみません、長々と....。


Posted by: たなかな : 2007年03月10日 13:29
Post a comment









Remember personal info?