2006年09月01日
『ユナイテッド93』、映画における真実や客観性について考える
原題:UNITED 93
上映時間:111分
監督:ポール・グリーングラス
アメリカ同時多発テロが起こった2001年9月11日、ハイジャックされた四機のうち、一機だけが目標に到達することなく墜落しました。本作では、その最後の一機が離陸する前あたりから墜落までを、ほとんど実際に起こったのと同じ時間進行で描かれています。
『ユナイテッド93』は、とかくその手法に注目が集められているようです。
カメラがハンディのみだったり、登場人物には無名の役者が占め、管制官や軍人には実際の事件に立ち会った人間が演じていたりするがゆえに、ほとんどドキュメンタリーと見紛うリアルな出来栄えだという批評には概ね同意するものの、やはり本作はフィクションでしかないという事実をここで再確認しておきたいと思います。本作においてもまた、他のハリウッド映画同様に計算された演出がなされているのですから。無論、私はここで言う“計算された演出”をネガティブなイメージとしては捉えてはいません。それは映画の歴史と同じくらい昔からとられた、極当たり前の手法に過ぎないからです。
確かに、本作における“説明描写の不在”は、あたかもその現場にいるかのような臨場感を味あわせてもくれますし、例えばそれぞれの人物から発せられる日常会話も、物語に貢献する意味のある言葉の連なりとは言いがたく、それはまるで、何も起こらない日常を無作為に切り取ったかのように、ドラマティックとは程遠いものであるがゆえ、逆にリアルであると言うことが出来る。
イスラムの信仰に厚い数人の若者がいる。西海岸に旅行しようとしている人がいる。あるいは仕事で飛行機に乗ろうとしている人がいる。それぞれにはそれぞれの日常があって、彼らは偶々、同じ飛行機に乗り合わせただけ、というような描き方が、本作ではなされています。だから、コーランを読み、壁に向かって深く祈る若者たちを、予めテロリストとしてその背後にあるだろう“悪意”を全面に押し出すようなことはしていません。その意味では、よく言われているように、本作はアメリカ側にもイラク側にも立場を置かない、あくまで客観的に事実を描こうとした映画だと言えないこともないでしょう。
しかしながら、映画において、真の客観性などそう簡単に実現できるものではありません。このことは“フィクションとドキュメンタリーの差異は何か”という、厄介極まりない問題と重なってくることなのですが、カメラアングル一つ変えるだけで、そこには何らかの“意志”が介在してしまうというのが映画ですから、例えば一台のすえつけられた監視カメラで撮られた映像だけで成立した映画であれば別でしょうが、とにかくこの『ユナイテッド93』という映画においても、イデオロギー的に限りなく中立(であるかのよう)な撮り方は可能にしても、やはりそこに客観性などありはしないということを改めて考えた次第です。
政治的な意見表明などしようとも思っておらず、いわんや911の現場に身を置いたわけでもない私にとって、『ユナイテッド93』もまた、あまたある映画の中の1本に過ぎません。少なくとも私の目には、数箇所でいかにもハリウッド的(≒映画的)な演出だと確信出来るシークエンスがありました。座席に備え付けられた電話やそれぞれの携帯電話で、泣きながら家族に遺言のようなものを託すシーンの連鎖などはその最たるものです。ここにはある一つのパニック映画の定石が、律儀に反復されているということでしょう。そして、それはこの映画をいささかも貶めるものではありません。
本作は、実際の被害者家族や友人への取材に基づき、何とか真実に近づこうという意思の元に作られた映画であるかもしれず、それが逆に、劇映画という範疇を超越した意見や批判、あるいは賞賛を生んでいるのかもしれませんが、私としては、あくまで本作を、1本のアメリカ映画(あるいはパニック映画)として評価したいと思います。少なくとも、この映画を真実の物語と信じてしまうことだけは、避けなければならない。『ユナイテッド93』はフィクションだという当たり前の事実があって、その上でこの映画のカメラだとか、演出だとか、構成だとかを評価したいと思うのです。これが、映画を観るということを、新しい世界(視点)を発見することだと捉えている私の結論です。1本の劇映画である『ユナイテッド93』ですが、私に新たな視点を与えたという事実に変わりはないのですから。
最後に、ポール・グリーングラスについての現段階での評価は、やはりドキュメンタリー的と称された『ブラッディ・サンデー』を観た上で改めて考えてみるとします。
2006年09月01日 10:19 | 邦題:や行
Excerpt: 2001年9月11日。ニュージャージーのニューアーク空港を飛び立ったユナイテッド
From: Days of Books, Films
Date: 2006.09.04
>ホワイト・ラビットさま
はじめまして。詳細なコメント、ありがとうございます。
コメントを拝読し、いろいろ検索してみました。「Loose Change」も冒頭数分だけ観ただけですが、改めて後日観てみたいと思います。
911に関する様々な疑惑に関しては、多少知ってはいました。それらに関して、政治に疎い私には見解など述べられるはずもないのですが、今回、『ユナイテッド93』という映画を観て改めて感じたことは、この手の映画をそのまま信じてしまうことの、あるいは、映画がいつのまにか映画であることを通り越して、さも現実の(正確な)反映であるかのように語られてしまうことの危険性をこそ実感したのです。
だからあえて今回は、言い方はあまりよろしくないかもしれませんが、“単なる劇映画”という側面を強調した次第です。つまり、映画は映画でしかないということなのかもしれませんね。
ともあれ、様々な情報をありがとうございました。
Posted by: [M] : 2006年09月08日 10:47
Mさん、初めまして。 この映画の衝撃は大きいそうですね。
「ユナイテッド93」を一つの映画として冷静に分析されてますね。
ただ公式報告に忠実であっても、逆に事実とかけ離れてしまうかも知れません。
最新の米・世論調査では約4割の人が政府の9/11への関与を疑っています…。
「2001年9月11日にはテロは起こっていない・・・」とする、22歳のディラン・エイブリー監督が百万円以下で自主制作した、9.11 ドキュメンタリー「Loose Change=ルース・チェインジ」が全世界で波紋を広げてますが、既に二千万人以上がネットで観て話題です。
いまアメリカ国内では「9.11真相解明運動」が高まっていて、5年目を迎える今週末に、NYで真実運動派の4日間のイベントも行われます。
5周年に合わせ、世界12カ国のTVで「LC」が放映されるという情報も。
英語版なら色んな場所から、2弾=完全版を無料でダウンロードできます。
グーグル版は「911 cover up」410MBと、著作権対策の「Recut」827MB。
ZIPの「DVDripConCen」のSRTがグーグル版英字幕。詳しくは検索で。
観ると目から鱗が落ちるかもしれません。真実に関心があればお薦めします。
http://www.loosechange911.com/download/trailer.wmv
http://www.wa3w.com/911/index.html
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1461254
http://video.google.com/videoranking
Posted by: ホワイト・ラビット : 2006年09月07日 13:14
>Chocolateさん
もちろん、爽快な気分になるような映画ではありませんでしたね。娯楽とは言いがたいですが、やはり私は劇映画だったなぁとは思います。
しかしポール・グリーングラスは見直しましたよ。
Posted by: [M] : 2006年09月04日 12:15
こんばんわっ。
私はこれ見た後恐ろしく気分がブルーになりました。
結末を知っていても気分のいいもんじゃないですよねー。
どこまでが真実かわからない限りドキュメンタリではなく
ドキュメンタリータッチな娯楽映画なんでしょうが、
娯楽という感じで楽しむことはできませんでした。(ーー;)
Posted by: Chocolate : 2006年09月02日 22:54