2006年01月30日

私を走らせた人、そして映画たち〜『ろくでなし』『キングス&クイーン』『嵐を呼ぶ十八人』をハシゴする〜

まだ始まったばかりの2006年ですが、先週の土曜日は、恐らく本年中にはこれを越える日は無いであろうというほど充実した一日でした。無論映画的に、です。
2つの劇場を行ったり来たりしたこと、2人の監督を間近で見られたこと、1人の映画批評家の話を聞けたこと、そして、1人のネット上の友人に始めてお会いできたこと…これらが12時間の内に凝縮されたのですから、帰宅した後はもうぐったりと疲れきっていましたが。

アルノー・デプレシャンと吉田喜重。そもそも彼らのどちらかを選べということに無理があったのです。そして、この2人の作品を比べることの不可能性が、結果的に私を“走らせる”ことになりました。“走らせる”というのはいささかも比喩的な意味でなく、まさに運動としての“走る”という行為を表しています。この年になって、あれほど全速力で街中を走る機会があろうとは、思いもしませんでした。先述した“疲れ”は、濃厚な時間を過ごしたということ以外に、まさにこの点にも起因しているのです。

28日AM9:00、まずは飯田橋駅前にあるマクドナルドへと急ぎました。mixiで知り合い、当サイトも見てくれている[R]氏と待ち合わせていたのです。デプレシャンという我々の共通目的のために。

昨年の「カイエ週間」での教訓を生かし、今年は1時間早く到着することにしました。トークショーがある15:00の『キングス&クイーン』は関係者が多く、絶対に満席になるという確信がありましたので。到着してみると、“デプレシャン党”と思しき人はまだ数人しかおらず、ひとまずその回のチケットは確保で出来るだろうと一安心。並びながら[R]氏と映画談議に花を咲かせていると段々と人が増えてきて、結局10:00のチケット発売開始時間にはロビーが人で埋め尽くされるといういつもながらの光景に。しかしここで安心仕切れないのは、同じ時間にポレポレ東中野で18:15からのトークショーつき『嵐を呼ぶ十八人』の整理券が売り出されていたからで、[R]氏を日仏に残した私は、一直線に東中野に向かうことになります。

日仏から飯田橋駅までダッシュ、飯田橋駅の改札からホームまでもダッシュ、流石に総武線内ではダッシュしませんでしたが、東中野駅からポレポレまではやはりダッシュ、その結果、15番という番号を入手できました。ここでようやく胸をなでおろし、今度は待ち合わせではないマクドナルドで一人朝食。その後、12:20の『ろくでなし』を鑑賞しました。その素晴らしさに浸る暇もないまま、今度は日仏にトンボ帰りして、『エスターカーン』を観て来たばかりの[R]氏に再会、外でタバコを吸っていると、目の前にデプレシャンの姿が。すぐ隣でタバコをの煙を燻らせながら、『キングス&クイーン』の上映を待ちました。

しかしここで「しまった!」と途方にくれてしまったのは、15:00から始まる『キングス&クイーン』の後にはデプレシャン、批評家の樋口氏と稲川氏3名によるトークショーが控えていたのですが、それを聞いてしまうと、今度は18:15の『嵐を呼ぶ十八人』に間に合わなくなってしまう、それはそれでマズイ、どうしよう…と思ったからで、まさにその3人によるトークショー聞きたさに15:00のチケットを朝から並んで入手したのに、結局はそれを1秒も聞けないまま、『キングス&クイーン』のエンドロールが画面に登場した瞬間には席を立ち、今朝以上の速度でまた日仏−ポレポレ間を疾走しなければならず、実はその時すでにトイレをかなり我慢していて膀胱が破裂しそうだったにもかかわらず、さらにそれを激化させるかのように猛烈な勢いでダッシュ、ダッシュ、ダッシュで何とか駆け込んだポレポレでは、すでに蓮實氏のトークショーが始まっていてやはりトイレにも行けず、満席の会場の一番後ろのパイプ椅子を陣取るのがやっと、15番という整理券をダッシュして入手した今朝の私の行動は完全に徒労に終ったわけで、もう泣きたくなるほど心臓は痛いし、膀胱は爆発寸前で映画を観るには最悪のコンディションでしたが、そんな最悪の状態を忘れさせるほど蓮實氏のトークはやはり興味深く、しかも、目の前に吉田監督と岡田茉莉子さんが座っていたのを驚きとともに発見し、それだけで最悪のコンディションが最良のそれに様変わりしてしまったのですから、私の身体など本当に単純なものだな、と。

トーク終了後、忘れていた膀胱の痛みを思い出し、やっぱりそこでもトイレまでダッシュ、もうタイトルロールが始まっているというのに私の尿は一向に止まる気配を見せず、それでも何とかオープニングショットには間に合わせて万全の状態で臨んだ『嵐の中の十八人』は滅法面白く、確かにジャ・ジャンクーの『世界』を思わせるようなショットがあったり、アドリブとしか思えない台詞が随所に見られたり、レイプシーンの後の照明の揺れに感動したり、ラストショットの空撮は“あの映画”(それがどの映画かは書きませんが)にも少なからず影響を与えているのかななどという思いに耽ったりするうちにあっという間に終わってしまった次第。そこでやっとその一日の疲労がどっと押し寄せてきたのですが、それはあくまで心地良い疲労感と言うべきもので、その充実感を誰かに話したくてしょうがなく、かといってそんなことは[R]氏やこヴィ氏以外になかなか伝わりそうにないので、その両名に軽くメールなどし、ビールをがぶ飲みしながら沖縄料理で胃を満たし、全てが満たされた状態で家路につきました。

デプレシャンに関しては、これを機に旧作を観直したいと思います。劇場で観たのは随分前だし、ヴィデオでも長らく観ていなかったもので。そして吉田喜重に関しては、なるべく劇場に通いたいですね。目標は10本。『秋津温泉』は是が非でも。

なお、時間が合わずに観られなかった『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』、蓮實氏が日経新聞(27日夕刊)に書いた“傑作の概念を遥かに超えた1時間47分に躊躇なく星五つ”という言葉がどこまで正しいのか、今週にでも確かめられればと思います。

2006年01月30日 17:30 | 悲喜劇的日常
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Comments

なんと今晩、BS2で『ろくでなし』やります!!


Posted by: こヴィ : 2006年02月01日 22:20

>ヴィ殿

了解です。覚えている限りお話しますよ。
今回の吉田特集は、日頃の習慣(土日中心の映画鑑賞)を捨ててでも観にいかねばと思っております。DVDBOXが出てはいますが、あれを全て揃える余裕はないので。そして仰るとおり、スクリーンで観たいですよね。
『第九交響楽』はあと2回やるようですね。3/1に予定しておきます!


Posted by: [M] : 2006年02月01日 10:11

いいな、いいな。蓮実トークは今度聞かせてください。ポレポレほんと会社脱出して通いたいです……。これこそスクリーン/暗闇/リュミエールで観なければいけない作品群ですから。&NFCのサークはまだあるので是非観てほしいです!


Posted by: ヴィ : 2006年01月31日 23:12

>[R]さま

いやこちらこそ本当にお疲れさまでした。こヴィ氏もまたなかなかの行動力でしたね。彼の守備範囲の広さが窺えて興味深かったです。

『嵐を呼ぶ十八人』は是非とも。恐らく『秋津温泉』でお会いできますね。次回も宜しくお願いします。


Posted by: [M] : 2006年01月31日 10:56

[M]さん然り、こヴィさん然り、1月28日の両氏の行動力には、頭が下がりました。
さぞかし大変だったんだろうな、と想像してはいたものの、実際に文章として読むと、
その尽力する姿に、滑稽さと哀愁を感じ、微笑せずにはいられませんでした。
ほんとうにおつかれさまでした! 笑
走り損をしていない、走った甲斐があった、ということが素晴らしいですね。

『嵐を呼ぶ十八人』、急遽2月2日に観に行こうかなと考えております。
『秋津温泉』も、吉増剛造さんのトークの回に足を運ぶつもりです。
あらためて、今後ともよろしくお願い致します。


Posted by: [R] : 2006年01月31日 04:23
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