2005年11月01日
『3人組』にパク・チャヌクの源流を見た
パク・チャヌク監督の2作目である『3人組』は、1997年に韓国で公開されましたが、韓国のレイティングでいわゆる18禁だったためか、興行成績があまり芳しくなかったようです。今回、第18回東京国際映画祭「アジアの風」部門で初めて公開されましたが、すでに『復讐者に憐みを』や『オールドボーイ』を観ている私としては、なかなか楽しめる作品でした。
穏やかな海辺を映していたカメラが緩やかにパンしていき、ギャングの一員であるムン(キム・ミンジョン)が後輩と思しき男に拳銃を突きつけている場面を捉えたあたりでその動きを止める。このファーストショットにおける、正反対の対象をワンショットで描く手法は、映画の“つかみ”としては充分魅力的だと思います。『オールド・ボーイ』の冒頭がそうであったように。
本作で描かれる殺人シーンのほとんどは拳銃によるものでした。その設定から考えるとギャング映画という範疇に属すかもしれないのですが、それが拳銃による殺人を要請したのでしょうか。多くの映画において、銃殺とは、衝撃音と打たれる側の変化(体の一部が破壊されたり、穴が開いたりという)としてほとんど一瞬で描かれることが多く(仰々しいスローモーションも多いですが)、サスペンスはむしろ、銃の存在が明らかになってから、それを構えたり突きつけたりしている時に生起してくるのだと思いますが、先ほど書いた冒頭のシーンにそれは認められたものの、本作ではどちらかというと、そのようなサスペンスが生まれることを待たずに、とにかく「bang!」と銃を撃ってしまうので、その殺人シーン自体が何となくあっけない感じも。よって、パク・チャヌク監督の“残酷さ”は、この時点ではまだそれほどでもなかったように思えました。ただし、『復讐者に哀れみを』と『オールド・ボーイ』が残酷なのは、それが“復讐”を主題にしていたからなのかもしれず、パク・チャヌク監督作品が、押し並べて残酷でなければならない理由などどこにも無いのですが。
『3人組』の美点を挙げるとすれば、殺人シーン以外の描写になると思います。
例えば、元ギャングにしてしがないミュージシャンであるアン(イ・ギョンヨン)が、何度も自殺に失敗するシーンのコミカルさは、後の復讐三部作に通じるものがあります。
あるいは、ムンが車に轢かれるシーン。この時にぶつかる瞬間を見せたこと(曖昧な記憶によれば『殺人の追憶』に似ていたような…)もさることながら、思い切り轢かれた割に、彼がむくっと起き上がって傷一つ負わないという発想の荒唐無稽さが素晴らしい。(ただし、実際にはこの時の後遺症が彼を死に追いやるのですが)
ちょっと理解に苦しむショットがあったことも記しておきます。
それらはいずれもスローモーションのシーンなのですが、何故スローモーションにしたのかさっぱりわからず、ただ使い方が下手であったり、大げさすぎて興を削がれたりするのであれば苦笑して忘れれば良いのですが、私が困ってしまったのは、その使い方がまったくもって難解であったこと。実は間違えたまま完成してしまったんじゃないかとすら思えるのです。いささかもドラマティックではなく、ただただ疑問符だけが浮かぶスローモーション。もう一度観て確認したいですが、それも叶うのかどうか……
いずれにせよ、公開当時まるで話題にもならなかった本作が、“韓流の源流”という紹介のされ方はともかくとしても、東京で公開されたことはただ喜ばしく、現在までに12本に及ぶフィルモグラフィーを持ちながら、『JSA』以前の作品などまず観られないだろうと思っていた私にしてみれば、ほとんど奇跡に近い上映だったので、貴重な体験として記憶されることは間違いなかろうと思います。
2005年11月01日 13:46 | 邦題:さ行
>[R]様
パク・チャヌクが画面を見ているだけで面白いというのはその通りでしょう。これはもちろん、撮影監督もその一端を担っているとは思いますが、美術もまた重要だと思います。そして何より、パク・チャヌク自身の中に、作品の具体的なヴィジョンが構築されているということだと、私は理解しています。
『最後の晩餐』は、観ているだけでその強烈さが伝わるはずですから、字幕なしでも楽しめますよ。私は行かれませんが、劇場ではめったに観られませんから、行くべきだと思います。
Posted by: [M] : 2005年11月04日 11:13
ああやっぱり、『3人組』観たかったです。
シャンテで『親切なクムジャさん』の予告編を観ましたが、もうすでに合格です(笑)
パク・チャヌク作品って、画を観てるだけで面白いなぁと感じてしまう要素がありません?
『OLDBOY』『CUT』『クムジャ』は同一の撮影監督なんですねぇ…チョン・ジョンフン。
この方の功績なんですかね? あのカラフルで力強い映像。的確なショットの連続。
そうですか、パク・チャヌクも昔は相当やらかしてたんですね。ある意味貴重ですね。
『クムジャさん』の公開前夜祭なんてのがあるんですねぇ。"復讐三部作"一挙上映かぁ…。
しかも、宮台真司によるスペシャルトーク付き。確かにちょっと行ってみたくなるけど。
「早稲田松竹」の2本立て上映が熱いですね〜。
『ペッピーノ百歩』&『ぼくの瞳の光』
『キッズ・リターン』&『あの夏、いちばん静かな海』
ほとんど最近、再見した作品ばかりだけど、どれも大画面で観直したい! ああ、迷うな。
『最後の晩餐』が日仏でやるけど、なんで字幕なしなのさ! ああ、仏語が覚えたいです。
Posted by: [R] : 2005年11月04日 10:26