2005年10月30日

封印されるということ〜『放送禁止映像大全』を読んで

先日、渋谷TSUTAYAの書籍コーナーを物色していた際、映画本の棚に『放送禁止映像大全』(天野ミチヒロ著 三才ブックス刊)という書籍を見つけ、パラパラとページをめくっていたら、『追悼のさわめき』(1988年 松井良彦監督)に関する件を発見。見開き2ページ分の、分量的にはかなり物足りない言及ではありましたが、『スパルタの海』あたりも取り上げられていて、どうやら浅く広くではありますが、この手の作品を網羅的に取り上げる著者の姿勢にはそれなりの対価を、というわけで結局購入してしまいました。

“封印された”とか“禁じられた”とか、あるいは“呪われた”とか称される、所謂放映(放送)困難(不可能)な作品群に対する興味は、恐らく、私がインターネットを使い出したあたりから加速度的に高まってきたものと思われます。私の興味の矛先は、無論、“封印されるに至った経緯”に向けられているのですが、それまで一部の関係者やマニアの間でしか語られてこなかったであろう各々の作品に潜む背景が、インターネットを通じてかなり一般的に共有されるようになってきたのではないでしょうか。そもそも人間には、隠されたり遠ざけられたりされているものを、何とかして観たい、知りたいという感情があると思うので、決してその手のマニアではない私も、それがこと映画(あるいはそれに準ずると判断できる映像作品)に関してであれば、やはり、何とかして観ることは出来ないだろうか、という思いに捉えられもするのです。

とはいっても、そのような目で実際にそれら封印作品を観ても、大概は拍子抜けすることが多く、例えばこの手の作品の中では最も有名で、典型的な封印作品である『ウルトラセブン 第12話』を観ても、いい大人の目には、“ウルトラセブンの1エピソード”くらいにしか見えないということ。つまり、それが我々の目から隠蔽されている原因を知ってしまえば、大半はもう観なくてもいいような作品が多いと思います。
現在の自主規制コードとは違い、嘗ての映画やテレヴィ番組には、所謂差別用語が頻発されたりしますが、たったそれ“だけ”の理由で封印されている作品の何と多いことか。そこに時代背景を超越した、ほとんど反=社会的ともいえる悪意が込められているのであればまだわからないこともありませんが、人間の根底にある差別意識はたかだか50年程度で変貌したり消滅したりするものではないし、現在においても当時とは別の言葉で同じような差別語はまかり通っていたりするのでしょうから、それが古く、今はあまり使われなくなった言葉だからという理由で、そんな過去を無かったかのようにただ抹殺し、我々の目から奪おうとする権力的思考そのもののほうがよほど悪意に満ちているような気がしないでもありません。もっとも、そこまで熱く語ってみせるほどそれら差別語の存在が原因となった封印作品を観たいとも思わないので、どちらでもいいのですが。

その手の“安易な”封印作品は無視するとして、ではどのような作品に興味が惹かれるのかといいますと、一言で言うなら、全体にドス黒い悪意が込められているかのような作品です。例えば、こちらは非常に有名な欠番作品になりますが、『怪奇大作戦』の第24話「狂鬼人間」のように、精神異常者(つまり狂人)に対するあからさまに差別的な台詞が出てくる陰惨極まりない作品だとか、あるいは、『ノストラダムスの大予言』のように、観客を小バカにしているとしか思えないオチと、人体的欠陥のある人間を虫けら同然に扱うような非=道徳的感性が画面を覆っているような作品です。
あるいは、ただもう理由も無く残酷な画面の連鎖のみで成り立っている、あの『スナッフ』(本物の殺人シーンが撮られたという触れ込みで話題になったインチキ映画)の日本版『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』や、ヒーロー映画のはずがただのリンチ映画と化してしまった『ウルトラ6兄弟 vs 怪獣軍団』のような、こんな映画を観て観客が一瞬でも喜んだり感動したりすると思ってしまった制作側の、明らかな認識不足というか出鱈目さにもかなりの勢いで魅了されます。
そして、私がその上映を願って止まない作品の頂点に位置するのが、冒頭で触れた『追悼のざわめき』なのです。

『追悼のざわめき』は、監督の強い要望でヴィデオ化やテレヴィ放映がなされないという特殊な作品で、今は無き中野武蔵野ホールの動員記録を塗り替えたことでも記憶さるべき怪作なのです。松井監督のその他の作品も、同様になかなか上映されない傑作揃いのようで、そのあたりの詳細については、「ムービー・パンクス」(星雲社刊)という書籍に監督のインタビューが掲載されているので、そちらを読んでいただければと思いますが、あらすじを読んだだけで、そんな物語をいったいどのように演出し撮影しているのかと興奮してしまう映画などそうあるものではなく、増してや、それがなかなか観られないというのがこちらの欲求を無限に高めてくれるのです。

こんな放映禁止作品を観た! という方のご意見があれば、是非お寄せいただきたいものです。

2005年10月30日 21:39 | 映画雑記
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