2005年09月05日

自戒を込めて・・・何でも観なきゃね、ということ

相変わらずいくつかのレビューが滞っておりますが、今はとにかく可能な限り多くの映画を観たい、というより観なければという欲求のまま生きておりますので、正直言って“書く”余裕があまりないのです。こういう雑記めいた文章であればいくらでも書けるのですが、こと作品評に関しては、なかなか思うに任せられず、ただ、以前ほどにはそのような状況に焦りを感じることもないので、それは1年以上続けてきた一つの成果だろうと、ややポジティヴに考えているところです。

というわけで先週は、TSUTAYA半額セールを利用しまして、ヴィデオを4本ほどレンタル。劇場では『ランド・オブ・ザ・デッド』1本のみの鑑賞となりました。
レンタルしたのは、
・『ガッジョ・ディーロ』(トニー・ガトリフ)
・『ベンゴ』(トニー・ガトリフ)
・『不安』(ロベルト・ロッセリーニ)
・『革命前夜』(ベルナルド・ベルトルッチ)
になります。
トニー・ガトリフ2本に関しては、先日こヴィ氏から薦められて、ロッセリーニとベルトルッチに関しては、ここ数週間のイタリアづいた生活の反映ということになります。もう1本くらい、例えばヒッチコックとかフライシャーあたりのアメリカ映画を借りても良かったのですが、今週観られるギリギリの本数が4本と判断したので。今月はこのペースを何とか守って行きたいと思います。

さて、まずは『ガッジョ・ディーロ』に関して。
TSUTAYAで思い出したんですが、トニー・ガトリフは実は初体験というわけではなく、かなり前に『海辺のレストラン/ガスパール&ロバンソン』を観ていたのでした。本当にすっかり忘れていましたが、ああ、あれはなかなかいい映画だったよな、と思い当たり、それならばということでそれなりの期待を込めて『ガッジョ・ディーロ』を鑑賞した次第。結論から言いますと、かなり好きな映画です。
どうも出ずっぱり感が強いロマン・デュリスが、冒頭で、雪の一本道を歩く場面。私はあのように単調な“歩き”にめっぽう弱く、きちんと雪(氷)を踏みしめるショットまで見せてくれるので嬉しくなり、歩きつかれた彼が、傍らに放置されている墓のような石のそばに腰をおろし、ナイフでチーズだかパンだかを食べながら一息つくまでのシークエンスはほとんど申し分ない導入部だったと思います。
感動的だったのはなんと言ってもロマの楽士が歌い踊る場面で、とりわけ、ある老女が兄弟の悲劇を歌う姿と、それを聞きながらサビーナ(ローナ・ハートナー)が一筋の涙を流すショットに、私もつられて涙を流しそうになり、グっと堪えてしまいました。“よそ者”としてのステファン(ロマン・デュリス)とロマとしてのサビーナの残酷な対比。
対比といえば、ステファンをロマの村に迎え入れた老楽士・イジドールの存在。このような老人の存在がいかに作品を豊かにすることか、あらためてその人物配置の的確さに納得しました。
サビーナの何かを発見したような笑顔で終るラストシーンも実に忘れがたく、いい映画を観たという満足感に包まれました。
こヴィ氏に感謝します。『ベンゴ』にも期待ですね。

最後に劇場で鑑賞した『ランド・オブ・ザ・デッド』に関して一言二言。
私は特にロメロファンというわけではなく、しかし、すでに一つの神話を創り上げてしまったこの監督を無視するほどアメリカ映画に対し無感覚ではいられなかったという、ただそれだけの理由で鑑賞するに至ったのです。
全体的に言えば、想像以上の場面に出くわす驚きは無いに等しく、それは監督の意向なのか、あるいはユニヴァーサルの所為なのかはこの際置くとしてもやや食い足りなかったものの、やはりゾンビたちが人間を喰らう場面を数シーンでも観られたことは素直に嬉しいし、ロバート・ジョイのあの仕草を観ればいやでもニヤリとしてしまうし、ロメロとダリオ・アルジェントのかつての関係性が、今回、アーシア・アルジェントの起用という形で再奏されていることも心憎いといえば心憎く、もはや夏休みのデートムーヴィーとしても充分に期待されてはいないような閑散とした大劇場でこの作品を観るという行為には、何となくそれ以上の感動があったようにも思われた次第。デニス・ホッパーの死に様は是非ともジョン・レグイザモに喰われて欲しかったという不満もありはしましたが、うろたえながらも部下を平然と撃ち殺すデニス・ホッパーの演出はやはり見事だったと思います。
ただし、個人的にはホラーはより陰惨であって欲しいと思うのもまた事実です。今回食い足りなかったのも、全体として非常に軽いテイストのような気がしたからで、どうも私は、60年代のホラーにあった暗く、救いの無い闇が果てしなく続くようなイメージから今だ抜け出せないでいるようです。
まぁそれでも観ないよりは絶対に観たほうがいい映画であるとは思いますので、未見のかたは是非とも。

ところで今朝のワイドショーで観たのですが、ベネチア入りしていた北野武氏が帰国した模様。現地における観客の反応もリポートされていましたが、新作『TAKESHIS'』がどうやら賛否両論らしいですね。まぁ彼の作品はどちらかというといつも賛否両論なので、その辺りは驚くに値しませんが、大杉漣も寺島進も岸本加代子も出演しているし、すでに『ソナチネ』の後にその構想が生まれつつあったという“フラクタル”という概念には、映画作家としての野心をどうしても感じてしまうので、やはり、これまでどおり初日に駆けつける以外の選択肢など思いつかないな、と。『DOLLS』以降、北野映画は劇場で2回は観ないと評価が固まらない気がするので、今回も最低2回は観なければならないな、と思っております。

2005年09月05日 12:55 | 映画雑記
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Comments

>[R]さま

毎度ありがとうございます。

フィリップ・ガレルの新作はモノクロで170分ですか。
私もかなり楽しみです。ユーロかライズあたりですかね。

世評の低い『dolls』ですが、わたしは二度観直して、評価が変わりました。あれはいい映画ですよ。


Posted by: [M] : 2005年09月20日 11:56

『ガッジョ・ディーロ』―殺風景な場所と豊穣な人々(音楽)の対比という、なんとなくのイメージしか残っていなかったのに…。
[M]さんの文章を読んで、細部まで思い出されるようでした。この作品に限らずですが、ロマン・デュリスの“はにかみ”には、なぜか好感が持てます。
そして老楽士・イジドールは本当に素晴らしかったなという記憶があります。老人と子供ってずるいですよね? そう思いつつもやられてしまうのだけど…『グレーマンズ・ジャーニー』というイラン映画の老人たちが強く記憶に残っています。

『真夜中のピアニスト』、予告編を観てとても気になりました。『TAKESHIS'』は、とても楽しみです。最近、なぜか『DOLLS』を再見したい気分に駆られております。そしてタケシ以上に楽しみなのが、やはりガレル様ですね。わりと最近の『白と黒の恋人たち』や『夜風の匂い』が僕のツボにハマったので、ある意味いちばん最新作が待ち遠しかった監督かも知れないです。
またまたシネスコで、またまた撮影監督が違うというのが興味深いですね。モノクロ/170分! 想像しただけでヨダレが垂れてきます。


Posted by: [R] : 2005年09月15日 01:25

>こヴィさま

いえいえ、私も自分で調べもしていないので。
それより、『アイス・ストーム』は未見なんですが、ちょっと調べてみると、なかなかよさそうですね。クリスティーナ・リッチも出ているみたいですし、何となく必見のような気がしてきました。今週のdvd一本目は決まりました。


Posted by: [M] : 2005年09月13日 13:03

ごめんなさい、アン・リー、やっぱアメリカかも(ニュースによって違う)。舞台は60年代のアメリカということで、『アイス・ストーム』に近いのだったらいいなと期待してます。


Posted by: こヴィ : 2005年09月12日 21:59

>こヴィさま

ヘルツォーク是非是非。J.jの本はもうすぐ読み終わります!

しかしアン・リーとは驚きです。
カナダ制作というと、フランス映画風なんでしょうかね。まったく想像がつきません。

フィリップ・ガレルの受賞は素直に喜びたいですね。まぁ一瞬驚きはしましたが。


Posted by: [M] : 2005年09月12日 19:43

ヘルツォーク今度貸しますよ。ベネチア、アン・リーが撮りましたね(しかもカナダ制作で撮ったものらしい)。しかしそれより監督賞(銀獅子賞)にフィリップ・ガレル『エブリデー・ラバーズ』ですって!


Posted by: こヴィ : 2005年09月12日 05:17

>こヴィさま

かなり気に入りましたよ。ヘルツォークの『氷上旅日記』、存在すら知りませんでした。しかしタイトルがそれを表していますね、確かに。

『ベンゴ』、まだ途中までですが、すでにフラメンコシーンに幾度かやられております。というか冒頭の演奏、あれはほとんどドキュメンタリーですね。特にギタリストが踊り歌う男性を見ながら時折ギターを弾くシーンの呼吸など、見事です(映画そのものとは関係ないかもしれませんが)。

ロマン・デュリスは何本か観ていましたが、それほど強い印象は残っていませんでした。脇役も多かったですし。今度はジャック・オディアールの『真夜中のピアニスト』ですね。絶対に観ます。
全く食わず嫌いとしか言いようのなかったクストリッツァですが、今回のトニー・ガトリフの件もありますから、やはり観なければなりませんね。今更クストリッツァかよ! と自らを戒めつつ、旧作も観ようと思います。


Posted by: [M] : 2005年09月08日 12:46

『ガッジョ・ディーロ』気に入ってくれて良かった!  イジドールいいですよね。ああいう共同体への郷愁というか(現代人の傲慢さか)、胸に迫るものがあります。あの冒頭の雪歩きのシーンは、なぜかヘルツォークの『氷上旅日記』を思い出します(これ本です)。『ベンゴ』も絶対はまりますよ(男なら)。音楽&フラメンコもヤヴァイです。ロマン・デュリスはガトリフ作品の中が一番輝いてると断言します。あ、『ライフ・イズ・ミラクル』も下高かどっかで必ず見てくださいね!


Posted by: こヴィ : 2005年09月08日 02:46
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