2005年08月29日

終わりゆく夏に…『こわれゆく女』と『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』

暦の上ではもう秋、今週で8月も終わります。嘗てあれだけ嫌っていた夏が去っていくのをこれだけ名残惜しむというのも不思議ですが、日焼けした肉体が次第にその色調を薄くしていくのを日々感じるにつけ、嗚呼…と灼熱の海を思い描かずにはいられません。映画と引き換えとはいえ、今年は実り多い夏だったような気がします。

さて、映画を取り戻すための最初の週末だった先週末、まずは金曜夜のご報告から。
夜、自宅にてワインを飲みながら『ミリオンダラー・ベイビー』の文章を書いていると、唐突に朋友・こヴィ氏から入電。「今日、これから時間ありますか?」という彼の申し入れを快諾し、わが家に招待しました。彼は、私のためにわざわざ購入しておいてくれたイエジー・スコリモフスキーの傑作『出発』のリバイバルパンフを持ってきてくれたのです。さらに、相変わらず読書に余念のない彼は、まだ私が読んだことのない植草甚一氏の著作「映画はどんどん新しくなってゆく 植草甚一スクラップ・ブック (16)」を賞賛とともに紹介、プレゼントまで。甚だ恐縮した私は、「リュミエール」を2冊とイカ監督氏の処女作『ナショナルアンセム』のヴィデオを手渡し、何とかそれに応えようとした次第。
我々の映画話は尽きることなく、終電までの2時間足らずをほぼ喋りっぱなしで過ごし、いくつかの貴重な情報&提案をいただきました。一先ず、トニー・ガトリフの重要性は理解したので、今週あたり確認してみようと思います。こヴィさん、ありがとうございました。

ところで映画のほうはと言えば、土曜日にヴィデオで『こわれゆく女』を再見。前日にこヴィ氏が今月の「esquire」をリコメンドしていたので、早速購入したところ、ジョン・カサヴェテスの小特集があり、それを受けて観直したくなったというわけです。映画を観てあのように異様な居心地の悪さを味わうことはほとんどなく、ただ舌を巻きましたが、それに似たある種の居心地の悪さを最近どこかで味わったなと思って記憶を辿ると、先日ユーロ・スペースで鑑賞した『ある朝スウプは』のしかるべき箇所にそんなシークエンスがあったな、と思い当たり、それならということで、翌日の日曜日にはUPLINK Xで上映が始まったばかりの『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』と『春の底』を鑑賞。『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』は、『ある朝スウプは』の主演・廣末哲万(群青いろ 黒)が監督/撮影/編集/出演した最新作。今回は、脚本を高橋泉(群青いろ 青)が担当しています。

DVで撮影された45分の中篇である本作でもやはり、廣末哲万による繊細な演出には観るべき部分があり、題名から受ける楽天性とは間逆とも言えるある鬱屈した感情が画面を覆っているかのようでした。交通事故で“生き残ってしまった”上川(廣末哲万)が、死んだ三人の同僚の葬儀に行くかどうかを後輩たちと話しあうシークエンスの、あの陰鬱とした居心地の悪さ。これは前日に観た『こわれゆく女』のジーナ・ローランズが、夫であるピーター・フォークの同僚たちにスパゲッティを振舞うという名高い食事のシークエンス程ではないにせよ、何気なく観る者を撃つシーンであることに違いないでしょう。ラストの切り替えしと廣末哲万のクローズアップには奇妙な安堵感すら覚え、この1時間に満たない作品にこれだけ感情をかきむしられるとは思っていなかった私は、若干うろたえてしまったと言わねばなりません。
『ある朝スウプ』に感銘を受けた方は必見、と付け加えておきます。

さて話は変わりまして、懸案の『輝ける青春』に関して。
恐らく、すでに9/17までの全座席は売り切れてしまっていると思います。私が電話した土曜日の時点で、もう2日分しか空いていませんでしたので。その所為で、また平日に会社を休まねばならなくなってしまいました。まさかこれほど観客が押し寄せることになろうとは…まだご予約していない方は、急いで岩波ホールへ電話を!

2005年08月29日 12:45 | 映画雑記, 悲喜劇的日常
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Comments

[M]さん
スイマセン、名指ししていただいたのに、今まで読んでませんでした(!)。今週本ばっか読んでたんで。ガトリフ借りてくれたんですねー(別日にコメントつけます)。カサヴェテス、私も見直したいですねー。あのスパゲティねー。そう言われると『ある朝スウプは』も見たくなります…。アップリンクのはノーチェックでした。これまた気になる。
>イカ監督
まだ見れてませんん、が、かならず感想送りますので!


Posted by: こヴィ : 2005年09月08日 02:36

>[R]さま

『オランダの光』は封切り時に予告のみ観ましたが、ちょっと良さそうでしたね。

『シャーリー〜』はどうやら無理かもしれません。非常に気にはなるのですが…これも縁ですかね。

そして『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』ですが、かなり刺さったようで、何よりです。現在書いている短評に詳しく書きますね。

もうクランクイン間近なんですね。
どのような形であれ、公開されることを願っております。出来れば東京で(笑)


Posted by: [M] : 2005年09月01日 17:41

>[M]さま

思いつきの愚問を投げかけてしまってすみません!「アメリカの光」を語るには時期尚早なのかも知れませんね。まったく関係ありませんが、『オランダの光』を最近DVDで観たんですが、すごく色々なことを考えさせられました。どの位置から何を観るのか?…人生も映画もそれがすべてな気がします。

10月の「ヴェンダースナイト」…用事がなかったら行こうと思ってます。『ミリオンダラー・ホテル』が案外好きなんです! 「隔絶された人々」は僕の永遠のテーマなのだと思います。
シネマ・ロサで『シャーリー・テンプル・ジャポン』を観てきました! たいして面白くはなかったですが、たくさん笑っちゃいました(笑)。荒唐無稽、傍若無人な実験映画でした。見逃してもそんなに損はしないと思います。

それよりなにより、本日鑑賞してきた『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』に完全にノックアウトされてしまいました! 園子温の『夢の中へ』と並んで、僕の2005邦画ベストムービーになりました。両者に共通しているのは、期待以上のものを見せてくれたこと。大カタルシスを与えてくれたことです。
映像美に心酔しやすいこの僕を、それとは別の何か(それは物語でもない)で「映画の世界」に引き込んでくれる瞬間、とにかく僕はニンマリ(あるいは精神的な勃起を)してしまいます。その度合いが僕のひとつの映画評価基準です。
『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』では、終始ギンギンでした(笑)。無駄がなくあざとさがあっても嫌味がなく、愛に溢れた素晴らしい群像劇だったと思います。
客二人だけのトークショーで脚本家の方が、「あのあと彼らは何もなかったかのように普通の日常に戻るのかも知れません」と仰っていましたが、確かに人間のテンションというのは不思議なものですね。それについて考えるのに、「映画」というものがどれほど好材料であるか! すみませんちょっと熱が入り過ぎました…。とにかく友人達にリコメンドしまくりたいと考えてる次第でございます。

自分の映画がクランクイン間近なのに、こんなに映画を観まくっていていいのか!? そう思いつつも明日のサービスデイに『リンダ リンダ リンダ』を観に行くつもりです。もしかしたら他にもうひとつ…。
 


Posted by: [R] : 2005年09月01日 01:50

>[R]さま

「アメリカの光」、なかなか難しいですね。アカデミー賞をとってしまうような監督にも影の部分はあるでしょうし、まぁ一概には。自分で言っておいてすみません。

UPLINKの上映ミスを体験されているとは、またまた奇遇ですね。
『サーチエンジン・システムクラッシュ』、発売してすぐの頃に読んだ記憶があります。確かにあの池袋は良かったです。シネマロサには10月のヴェンダースナイトに行く予定です。


Posted by: [M] : 2005年08月30日 18:18

>[M]さま

なるほど…。カサヴェテスが「アメリカの影」だとすると、「アメリカの光」に該当するのはどなたになるのでしょうか?

アップリンクの不手際は、僕も体験しております。ちょうど『三人三色』のときでしたが、なんと画面サイズが違っていたのです! ポン・ジュノとユー・リクウァイの回までは、違和感を感じつつも正直気づきませんでした。狙いなんだと思ったし、この内容ならこの妙なサイズもありなのかなぁ、と思ってしまったのです。ところが『鏡心』になった瞬間、市川実和子の顔がミョ〜ンって感じに! もともと彼女のっぺりしてますが(笑)、「ああやっぱりね」と友人と二人で顔をあわせてしまいました。そのとき観客はあと1名いたのですが、彼は気づいていないようだったので、僕らがクレーマーになりました。そしたら『三人三色』の招待券をくれました! 正しいサイズで観直してくださいということなんだろうけど。どうせだったら他の作品に招待してくれよ!って感じ…。結構好きだったけど、あれを2回観るのはちと辛い。

『シャーリー・テンプル・ジャポン』も9月9日までの限定公開ですねぇ。21:00からのレイトショーです! 「夜の池袋はなおさら好かん!」っていう感じですよね? 僕も池袋はあまり好きじゃないんですが、自宅からまぁまぁ近いし、新文芸座とシネマ・ロサのプログラムは魅力的なんで、リハビリしようと思って池袋でバイトしております! 宮沢章夫の『サーチエンジン・システムクラッシュ』を読んだら、ちょっとだけ好きになりました。でもやはり全然慣れません。ジュンク堂書店の座り読みだけは重宝してますが…。


Posted by: [R] : 2005年08月30日 16:49

>[R]さま

カサヴェテスの存在はまさに“アメリカの影”だと言える様な気がしないでもありません。とにかく圧倒されます。

トニー・ガトリフですが、私は全く観ておりません。まずはその2本を観なければなりませんね。

>アップリンクのスタンプが貯まってるので、それで観ちゃおうと思います。

そういえば、上映中に劇場側の不手際があって、一度中断したんですよ。おかげで帰り際に招待券をいただきました。ラッキーでした。
『シャーリー・テンプル・ジャポン』、かなり気になっていますが、池袋という場所が非常に苦手で、迷っております。確か限定的な公開でしたよね?

『輝ける青春』、でもリバイバルがあって良かったですね。私も気合で観てきたいと思います。


Posted by: [M] : 2005年08月30日 15:31

おう!『ナショ・アン』をコヴィさんに!!
感想楽しみです。


Posted by: イカ監督 : 2005年08月30日 03:57

終わりゆく夏にこわれゆく女…詩的な言葉の連なり!
まるで小説のタイトルみたいですねぇ。
じゃあ僕は、「始まりゆく秋にアメリカの影」ってな感じで行きたいと思います。
最近、僕の中で「ひとり監督週間」というのが流行っていて、これまでゴダール、ヴェンダース、ブレッソン、小津、ロメールなどを地味に自宅で開催してきました。実はちょうど今度開催しようと思ってたのが、カサヴェテスなんです! 妙なシンクロですねぇ。イタリア映画に割り込まれて延期になりそうですが…。

トニー・ガトリフは、1年程前に『ベンゴ』と『ガッジョ・ディーロ』を観ておりますが、ともに好きなテイストの作品です。僕はロマ民族とかアーミッシュみたいな存在に滅法弱いです。「疎外された人々」という言い方は正しくないかも知れませんが、彼らが伝えてくれるものは僕にとって非常に大きいものです。

『春の底』と『阿佐ヶ谷ベルボーイズ』、未チェックでした。あぶねぇあぶねぇ。さっそく明日か明後日には出向こうと思います。アップリンクのスタンプが貯まってるので、それで観ちゃおうと思います。
蓮實'Sチルドレン界隈で騒がれてる冨永昌敬監督の『シャーリー・テンプル・ジャポン』もスケジュールに追加して、若き日本人監督DAYにしたいと思います。
水曜日サービスか1日サービスを利用して、『リンダ リンダ リンダ』も観てしまいたいところです。

『輝ける青春』、さきほど20時頃に電話したら、もう空いておりません!ってキッパリ言われました。なんということでしょう! いやいや迂闊でした。ご丁寧に12月中旬の再上映の案内を頂きましたよ。下高井戸シネマで4日間。待てるわけがな〜い! まぁでも今年を締めくくる映画としては最高かも知れないな。よ〜し待ってやろうじゃないか!(泣)


Posted by: [R] : 2005年08月29日 23:52
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