2007年07月31日
それが生命とはいえ…
アルトマンの作品を数本観て、やはり映画作家の追悼など容易には出来ないということを痛感し、だから、イングマール・ベルイマンの死を、自分なりの倫理にしたがって静かにやり過ごそうとしていたところに、これは単なる偶然でしょうか、いや、映画の神の気まぐれでしょうか、ミケランジェロ・アントニオーニの訃報が飛び込んでくるとは……。
本来であれば、この手の記事を書くことはなかったはずなのです。しかし、アントニオーニの死は、あまりに衝撃的でした。
もちろん、彼の状態が芳しくなかったことくらい随分前から知っていたし、ベルイマン同様、もう彼が作品を撮ることはないのかもしれないとすら覚悟していたのに。それほどまでに、アントニオーニが私にとって大きな存在だったとか、そんなことを言いたいのではありません。ただ、このショックの大きさが自分でも驚く程なのです。
94歳。しかし、大往生などと軽々しく言って済ませない、それほどまでに、彼は偉大でした。しかしだからといって、ゴダールが適切に評したように、貴方は私にとっても、映画そのものだった、などと言って良いものか…。
『欲望』のポスターをおしゃれだと部屋に張っている人間がいるというこの現状を、貴方は知っていたのでしょうか。しかしごく個人的な話ですが、私はあのスキャンダラスな『欲望』より、断固として『赤い砂漠』を支持します。それはおそらく、今後も変わらないでしょう。そういえば、モニカ・ヴィッティという、若かりし私にとっての女神を紹介してくれたのは貴方でした。
しかし、この文章…こんな感傷的な文章を書きたかったはずではなかったのに…。
私はすべての作品を観られていませんが、ひとまず、80年代以降の彼の作品を改めて観なおすことで、独り貴方の死を悼むとします。
超・必見備忘録 2007.8月編
7月はいい作品に恵まれました。今年のベスト候補が3本ほどありましたので。
アルトマンの衝撃についてはまた別途。様々な意味で、今後の示唆を与えてもらいました。
ちなみに、8月は本格的に海に行くつもりです。今年は梅雨が長引いてしまい、数回チャンスを逸しているので。先週末は今年初の湘南でしたが、やはり、ビーチで飲んで寝るだけで相当な癒し効果を実感出来ました。昨年の8月は14本だったので、少なくとも同等の数は観ておきたいと思います。まぁ下記のスケジュールを考えると、非常に微妙ですけど。
『トランスフォーマー』(渋東シネタワー 8/4〜)
どれくらいスピルバーグ色が出ているのか、それが楽しみです。
『マラノーチェ』(シネマライズ 上映中)
レイトのみだったとは。多分空いてると思うので安心。
『天然コケッコー』(シネアミューズ イースト/ウエスト 上映中)
新宿武蔵野館では結構人が入っていた模様。用心して出かけましょう。
『街のあかり』(ユーロスペース 上映中)
どうしようか迷っていましたが、友人の評判がすこぶる良いので。
『不完全なふたり』(新宿武蔵野館 上映中)
8/4からレイトになるみたいなので、そこを狙います。
『イタリア的、恋愛マニュアル』(シネスイッチ銀座 上映中)
すごく観たいのですが、場所が…。
『ラザロ LAZARUS』(ポレポレ東中野 上映中)
まずい……気づけば今週金曜までです。
『インランド・エンパイア』(恵比寿ガーデンシネマ 上映中)
『ブリッジ』も見逃してしまったので、これは何とか。隣のイタリアンとセットで。
「山形国際ドキュメンタリー映画祭2007前夜祭」(アテネ・フランセ文化センター)
日程的に、唯一観られそうなのが8/18の『ルート181』のみ。日曜に上映されないのがつらいです。
「京橋映画小劇場No.7 アンコール特集 2006年度上映作品より」(フィルムセンター 8/10〜)
8/12のゴダール&シャブロルを観たい。何としても観たい。。が……。
「ユナイテッド・アーティスツの栄光」(シネマヴェーラ渋谷 8/18〜9/7)
どう少なく見積もっても、必見作が5本は下らないという素晴らしいラインナップ。
「松江哲明のセキララで嘘つきなドキュメント選集」(UPLINK FACTORY 8/4〜9)
未見の作品ばかりでした。
個人的な注目は「ユナイテッド・アーティスツの栄光」。
『ロング・グッドバイ』は今上映中の「はじめましてアルトマン」で見逃しているので、何とか。こういった機会に、スクリーンでは観たことのない作品を観て、そこで初めてその「映画」を鑑賞したことになると思っているので、目当ての5本は新作を蹴ってでも観なければ。
2007年07月27日
果たして、第2の世界に私の居場所はあるのだろうか
上司命令で、急遽「セカンドライフ」を研究することになり、早速昨日あたりから始めてみました。
実はプライベートでも始めようかと思っていたところだったので、渡りに船。喜び勇んで始めてはみたものの、日本語版はまだ安定していないのか、会社のPCが非力なのか、動作が重かったり、唐突にフリーズしたりと、一筋縄ではいきません。
実はワタクシ、以前も上司命令でオンラインゲームを研究することになり、「ファイナルファンタジーXI」に挑戦したのですが、この手のゲームにまったく慣れていなかった私には敷居が高く、それでもとりあえず、最初に出会った人に話しかけてみたところ、華麗に無視されたり、「うるさい」とか言われたりですっかりやる気ゼロになり、それでもなお、戦闘だけは頑張ってみようと、弱いながらも奮闘していると、横から入ってきた他人のプレイヤーにあっさりと手柄を横取りされたりして、その時点で、もう二度とオンラインゲームなどやるものかと決意したのです。
さて、では何故「セカンドライフ」をやってみたくなったかというと、単にそれがゲームではないからということに加え、“非現実的な現実”を今度こそ実感できるに違いないと思ったからです。また、「mixi」に代表されるソーシャルメディアの恩恵を被った、ということも大きかったと思います。
まずは登録、ログインしてみると、突如見たことのない世界(当たり前ですが)がディスプレイに広がります。とりあえず、基本操作を学ぶためのオリエンテーションエリアで、いろいろと操作を試します。と、書くと簡単ですが、キーボードでの操作は慣れるまでちょっとだけ時間が必要でした。画面上の私は、終始あたふたしている状態だったでしょう。そうこうしているうちに、すぐ傍に紫色の髪をなびかせた外国人(名前を見てそう理解しました)が表れ、「ハイ!」(もちろん英語)と話しかけてきました。「いきなりかよ!」と画面に突っ込みを入れつつも、どう返していいか、というか、どう入力すればいいのかすらわからなかったので、やはりあたふたしていると、「そんなに不安がらないで。またね。」(やはり英語)といって、スーッと飛んでいってしまったのです(セカンドライフでは自由に空を飛ぶことが出来ます)。その瞬間、この新しいコミュニケーションツールの醍醐味というか可能性というか、そんなものを実感した次第です。
さて、今日はオリエンテーションも終わり、操作にも慣れてきたので、現実世界の地元・渋谷に行ってみることに。そこはまだまだ現実の渋谷の足元にも及びませんが、BOOK-OFFが出店していたり、大きな建物が何軒もあったり、そしてもちろん日本人が多い。
目の前にバーっぽい空間があったので、まだ金もないのにそこに入り、カウンターに座って様子をみていると、ある日本人と思しき男性が、カウンターの対面に座ってきたのです。隣ではなく、対面に。つまり、私は間違えて、いかにもその店の店員であるかのように、店側のほうに座っていたのです。この状況は不味い、彼がもし話しかけてきたら…と思っていた矢先、「こんにちは」という文字列がディスプレイ左下に現れ、かなり怯んだわけですが、ここはコミュニケーションだ!と、私もいささか緊張しながら、すかさず「こんにちは。私、初陣者でして」と思い切りミスタイプしつつ返したのですが、彼もまったくの初心者で私が最初の会話の相手だったらしく、やはり私を店員と勘違いされたようですが、それでも意気投合、といいうと言い過ぎですが、普通に世間話したりして。お互い「また会いましょう」などといいつつ別れた時、さらにこのヴァーチャルワールドの可能性を実感しました。なるほど、こういう面白さか…、と。
この週末にでも、プライヴェートでアカウントをとり、自宅でも始めてみるつもりです。すでにやっている方やこれから始めるつもりの方がいましたら、是非ともご連絡を。
2007年07月24日
大和屋とマストロヤンニの共通点
いや、そんなものがあるのかどうかはわかりませんけど。
それにしても一角座という劇場は都内屈指の劇場かと。
大和屋竺をあの劇場で観るという、その行為そのものに、何だか祝祭的な雰囲気が漂っている感じがしました。私が観た『裏切りの季節』、これはまた何とも言いがたい映画といいますか、私が言うところの“面白い/面白くないという概念すら超越した映画”なのですが、あんなに巨大なスクリーンで、あんなに生々しいクローズアップを何度も見続けると、そんな感想しか出てきません。
上野昴志・河内紀・荒戸源次郎の三氏によるトークショーでは、河内紀氏の話が興味深かったです。大和屋と一緒に映画を作っていたからこそ言い得たであろう言葉、だからかもしれません。
とりあえず8月に『愛欲の罠』を求めて再訪いたします。
『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』における収穫は、劇場で観たことのなかった『最後の晩餐』を数シーン観られたことと(『白人女に手をだすな』もほんの数シーン観られます)、マルコ・ベロッキオやトニーノ・デリ・コリら偉大な映画人のインタビューを観られたことに尽きる、と言ってしまうとあまり面白くなさそうな映画みたいですが、マストロヤンニが映画史に残した功績はやはり相当なものですし、だからこそ、もはや別人かと見紛ってしまうほどのクラウディア・カルディナーレやそこまでではないもののやはり年齢を隠せないアヌーク・エーメ(私は嘗てこの2人が好きだったので尚更)、そして、その体が非常に心配になってしまうほど肥大化し老け込んでしまったフィリップ・ノワレらが、このような映画に出演するのでしょうから、ル・シネマという、渋谷でも滅法年齢層の高い劇場ではありますが、嘗て一度でもマストロヤンニの表情や身振りに痺れたことがある方は、スクリーンでまだ若い彼から老齢に達した彼までを目に焼きつけられるこのチャンスを逃してはならないと思います。
大和屋とマストロヤンニの共通点と言えるかどうかわかりませんが、この2本を観た上で強いて挙げるなら、それは“自由”という言葉のような気がします。
2007年07月18日
最近観た6本の映画
先週から昨日にかけて、6本の映画を観ました。忘れないうちに、簡単に書いておくことにします。(本当は少し前にも、『ルック・オブ・ラブ』やガンダーラ映画祭における『童貞2』など、面白い作品を観ているのですが、随分時間が空いてしまって心もとないので、今回は割愛)
■石の微笑(クロード・シャブロル)
『フランドル』以来、久しぶりのフランス映画で、さらに言えばシャブロル自体も『パリところどころ』の一篇以来でかなり久々でした。前情報をまったく入れないまま、予告編の雰囲気が良かったので鑑賞したのですが、まったく驚くべき傑作でした。
本作を観て、そういえば自分は“サスペンス映画”というのを久しく観ていなかったと言う事実に思い至りました。本作を良質なサスペンス映画だと言いたいわけではありません。そういったジャンル的な見地に立って本作を観ても一向にかまわないのですが、私の感想としては、本作は今年観た数十本の映画の中でも際立っており、鑑賞後、これほど途方に暮れさせる映画も無かったろう、ということにつきます。
冒頭の移動撮影から完全に引き込まれ、気づけば映画は終わっていたという感じです。いや、一点だけ驚いた箇所もあって、それはあるシーンにおけるズームなんですが、これについては観ていただくほかないので、詳述は避けます。ああいったズームを目の当たりにすると、ついついサスペンスという言葉を漏らしてしまいそうになるのですが、最後まで観れば、本作を、ただただ映画だ、と体全体で体感することになるでしょう。
“石の微笑”というタイトルも、なかなか悪くありません。実はそのままなんですけど。
■Fragment(佐々木誠)
ドキュメンタリーを観る時、私はとかく、その手法(語り口)だったり、あるいは監督と対象との距離だったりを注視してしまうのですが、本作は、そのどちらにおいても特筆すべきことはあまり無かったというのが正直なところ。ただし、題材の面白さがそれを補っていたように思います。
“カオティックな世界”を表現するために、あえて、わかりやすさから遠ざかってみること。本作の編集には、そのような思いが込められていたようです。
■誰とでも寝る女(前田弘二)
■女(前田弘二)
以前、テアトル新宿で特集されていた時に見逃していて、そのことがずっと気がかりでした。何故あの時、この見知らぬ監督の作品を観たいと思ったのか。それがまったく思い出せないのですが、やはりタイトルのインパクトと数枚のスチールからでしょうか。
今私は、恐らく冨永昌敬以来と思われる、比類なき才能にめぐり合えた喜びを噛みしめているところです。これら30分強の2本の中篇には、それほどまでにノックアウトされました。
前田弘二の面白さはどこにあるのか。あまりにも日常的な台詞回しからアドリブかと思わせるような、しかし、まったくもって厳密であったに違いない演出にあるのか。あるいは、何かが画面に生起しそうで、やはりそれは誤解だったと思わせておいて、最後には予想を超えた“オチ”がつくようなシークエンスショットにあるのか。あるいは、常に背中あわせである“笑い”と“恐怖”が、同時に画面に収まってしまう奇跡にこそあるのか。今後、この映画作家を追っていくことで明らかになるかもしれないし、ならないかもしれません。
これまでで影響を受けた映画作家に、エリック・ロメールを挙げるあたりの喰えなさ加減も悪くない。
いずれにせよ、前田弘二という名前は、今後決して忘れてはならない名前だと言うことを確信しています。
■腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(吉田大八)
本作に関しては、事前に原作を読んでいました。普段、そういうことは意識的にしてこなかった私ですが、たまたま読んでいた文芸誌に発表されていたので。映画化の話を聞いたのは、そのずっと後だったのです。
冒頭の、いかにも田舎道らしい平和な1本道が、突如惨状へと姿を変えるあたりに始まり、本作には田舎特有の豊かな自然や田園風景が、時として、非常に残酷な何かを象徴しているかのごとき、風景描写が随所に配置されていました。この時、なんだか中島哲也監督近作の画面に似ているなぁと思ったのですが、後で調べてみると、撮影は『下妻物語』や『嫌われ松子の一生』の阿藤正一で、ついでに監督の吉田大八についても調べると、主にCMディレクターとして活躍してきたらしく、そのあたりも、かなり“中島的”だと思わずにはいられなかったわけですが、それらは別段、作品の評価とは何の関係もないと言えばなく、さらに言えば、原作を読んでいようがいまいがやはり関係なく、あくまで本作自体の出来を冷静に見極めたいと思いはするものの、やはり後半で顕著に見られる、“画面遊び”(私にはそうとしか思えませんでした)が気になってしまい、女優陣の健闘やキャスティングの面白さと相殺された、という感じです。
■ボルベール<帰郷>(ペドロ・アルモドバル)
本作を観て、アルモドバルが世界の巨匠の域に達しているということを実感。
愛情や情熱、血縁を表すばかりでなく、血そのものの色でもある“赤”が何度も画面に表れては消え、それと同じくして、5人の女性達の喜怒哀楽が直接的に画面に艶を与える。舞台となったラ・マンチャという田舎街も、マドリードの郊外も、決して華やかな街ではなく、厳しい環境とや貧しさにさらされているはずなのに、本作における画面の艶はどういうことでしょうか。もちろん、ペネロペ・クルス他、女優陣の好演がその一因でしょう。アルモドバル映画に登場する女性には、誰もが美人だと認めるような女性、というよりは、もっと深い次元における“女”が多い気がします。そして彼女達には、やはり“赤”が似合うのです。
ペネロペ・クルスが、「ボルベール」という古い歌を歌うシーンで、まだその存在を彼女には見せていない母親と不意に視線が交わったかに見えるショットがあるのですが、この切り替えしが見事。実は一方的な視線のはずなのに(事実、ペネロペ・クルスからの切り返しに母の姿はない)、それでもそこには双方のまなざしがついに交わったと思わせる、非常に感動的なシーンでした。
監督自身“コメディへの回帰”と言っているように、本作には思わず笑ってしまうようなシーンが多くあります。しかしそれらの笑いには、何故か哀愁が漂っているようで、そういったシーンが、私にアルモドバルの熟成を印象付けたのかもしれません。まさに誰にでも薦められる映画、と言っていいでしょう。
2007年07月11日
“黒い映画好き”の夏、始動
9日・10日と2日間夏休みを取り、今年初の海に行ってきました。
たった2日間で日頃のストレスを全て取り払うのは不可能だと諦めつつも、いや、与えられた休日をフルスロットルで謳歌すべきだ、という方針に何とか切り替え、ビール⇒海⇒プール⇒ビール⇒海⇒プール⇒ワインという感じで駆け抜け、気づけば体は真っ黒に日焼けしていました。もう朝から晩まで休みなく酒浸りだったので、元プロボクサーのタコ某みたいになるんじゃないかと心配ではありましたが、結果的にはそれで良かったのだ、と今は満足の極み。東京の夏はまだまだこれからなので、さらなる黒みを目指し、向こう2ヶ月は、“黒い映画好き”として渋谷の街を闊歩するつもりです。
さて、先週観た映画は2本。
3作目がまるで印象に残らないほどつまらなかったので、同じ監督が撮ってもシリーズものは難しいなと思わせた『ダイハード』シリーズの4作目『ダイハード4.0』は、聞いたことのない新人監督の起用にあまり期待せずに観たのですが、これが大きな誤算、とまでは言わないまでもなかなか楽しませてくれる作品で、相変わらず予告編に出てくるアクションシーン以外に見所は無いんじゃないかというこちらの危惧は杞憂に終わり、例えばマギー・Qが死ぬくだりなどの、妙にあっさりとした嫌味のなさには関心してしまい、これはあまりにもマンガ的でやりすぎなんじゃないかと思えるシーンには苦笑してしまったものの、ラストにおける、これぞハリウッドだと思わせんばかりの、あからさまな抒情(友情の萌芽)には、つい喉の置くがツーンとなってしまい、思わず涙を堪えてしまったりも。流石に『ダイハード』で泣くわけにはいかないという思いで何とかやり過ごしましたが。
ハッカーを中心に据えたアクションということで、すぐさま『ソードフィッシュ』におけるヒュー・ジャックマンが想起され、実際、コンピューターを前に、「あと○秒以内にこのプログラムを解除しろ!」的な感じで銃を突きつけられたハッカーが苦悩の表情を浮かべるという類似したシーンも見られたわけですが、ラストを飾るその重要な銃撃戦において、軟弱なハッカーが慣れない銃さばきで敵を撃つというシーンもまったく悪くなく、そういえば、彼とブルース・ウィリスが中盤でついにお互いの友情を確認するという無言の目配せからして、この結末は想像出来たはずなのに、やはりというべきか、あえてベタな展開をも辞さずに、こちらの想像を裏切らないレン・ワイズマン監督の手腕には、素直に感動しました。
ジョン・マクティアナンはもうこのシリーズを撮らないのだろうかと、決して嫌いではない監督だけに気がかりでしたが、本作の出来栄えを観て、他人事ながら一安心した次第です。
次に観た映画は、河瀬直美の新作『殯の森』。シネマ・アンジェリカはほとんどの席が埋まっており、題材が題材だからでしょうか、客席には年配の方々が目立ちました。
カンヌでグランプリを獲得したということと、その作品が自分にとって良い映画かどうかということはもちろん切り離して考えるべきですが、私も通俗的な人間なので、やはり人並みに多少の期待くらいはしますし、だからこそ、かなり気合を入れてチケットを取ったりもしました。
果たして、この映画は、私にとってはそれほど良い映画でも必要な映画とも思えず、いわんや、誰かに薦めるべき映画だとも思えませんでした。この作品が真摯に訴えようとしている何かがあるはずだ、と鑑賞前にもかかわらず妙に確信してしまった私にも落ち度はありますが、目の前で展開していくあらゆる風景、人物のアクションが、妙に胡散臭いものに感じられてしまいました。
今にして思えば、私は本作を、ドキュメンタリー的だとは思っていません。要所要所になかなか見せるロングショットが配置されていたし、ところどころ音声が聞き取りづらかったからといって、それがそのままドキュメンタリー的であるとも思わなかったのです。だけれども、やはり私にはこの作品を現時点では評価出来ません。
ただし、再見して評価ががらりと変わるということも充分ありえること。問題は、私が本作を再び鑑賞する気があるかどうかなのですが……。
とまぁそんな感じでした。
7月は新作も旧作も目白押しなので、映画と海を上手いことスケジューリングしなければと、日々カレンダーに向かって頭を悩ませているところです。
2007年07月02日
超・必見備忘録 2007.7月編
先月の劇場鑑賞本数は17本。
これで今年も半分が過ぎてしまったわけで、あらためて上半期の鑑賞本数を数えてみると、ちょうど80本でした。昨年の鑑賞本数は150本というキリの良い数字だったのですが、今回も80本というキリの良さ。別段計ったわけではありませんが、何となくいい感じです。今のところ昨年より若干ハイペースではあるものの、さて後半はどうなるでしょうか。同じペースで観られれば、160本ということで、昨年越え。
7月・8月はタダでさえ鑑賞本数が減る予感がしているので、この2ヶ月が勝負です。
『ボルベール 帰郷』(渋谷シネフロント 上映中)
アルモドバルとシネフロント。この組み合わせが大層ミスマッチな感じがするのは何故でしょうか。
『ダイ・ハード4.0』(渋東シネタワー 上映中)
いささか恥ずかしいタイトルを持つこの続編、「王様のブランチ」によれば、“4.0”は“フォー”と読むらしいです。だったらどうして“4.0”なのか? まぁそんな理由など聞きたくもないのですが、とりあえずこのシリーズは観ておかなければなりません。
『レベル・サーティーン』(シネセゾン渋谷 上映中)
先月見逃したので。平日レイトがどんどん厳しくなってきているので、もしかしたら無理かも。
『封印殺人映画』(シネセゾン渋谷 7/7〜)
如何わしさ満点の邦題。世の中には、私を含め、この“封印”という言葉に過剰に反応してしまう人々がいるのです。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(シネマライズ 7/7〜)
「群像」で発表された時たまたま原作を読んでいたのですが、カンヌにも出品されたことだし、サトエリは嫌いではないので。期待度は低め。
『イタリア的、恋愛マニュアル』(シネスイッチ銀座 7/14〜)
ひとえにジャスミン・トリンカ目当て。予告編を観た限りでは何とも言えない感じでしたが、果たして…。
『ラザロ LAZARUS』(ポレポレ東中野 7/14〜)
「映画芸術」のサイトに、監督他スタッフ3人のインタビューが掲載されてます。久々のポレポレに期待。
『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』(ル・シネマ 上映中)
ル・シネマでやることを運命付けられたような映画。その客層を考えると、やや足が遠のいて行きそうになりますが、それをグっと我慢しつつ、やはり久方ぶりのマストロヤンニはスクリーンで観たい。
『ブリッジ』(恵比寿ガーデンシネマ 上映中)
映画を観る前から、その題材の面白さに期待してしまうのもどうなのかと思うのですが、期待している今と、映画を観た後の感想のズレがあるのかないのか、その辺も考えてみたいところ。
『石の微笑』(Q-AXシネマ 上映中)
シャブロル、シャブロル、シャブロル……
『インビジブル・ウェーブ』(シネマート六本木 上映中)
ラッタナルアーン×ドイルということで、一応続編に当たるのでしょうか。まぁ恐らく混んではいないでしょう。
『不完全なふたり』(新宿武蔵野館 上映中)
実のところ『パリ・ジュテーム』を見逃しているわけですが…。
『傷だらけの男たち』(新宿武蔵野館 上映中)
このスタッフであれば、観ないわけにはいきません。
『殯の森』(シネマ・アンジェリカ 上映中)
初日に行ったら、あの劇場にしては大混雑でした。恐るべしカンヌ効果! 空いてきた頃に行きます。
『天然コケッコー』(シネアミューズ イースト/ウエスト 7月下旬〜)
またテアトル新宿か!? と心配していたら、今度は渋谷でやってくれるので良かったです。
『パッチギ! LOVE&PEACE』(シネアミューズ イースト/ウエスト 上映中)
またまた見逃してしまいました。もうこのまま終ってしまうのか? だとしたら縁が無かったということで。
「大和屋竺特集」(一角座 7/7〜)
4作全て観たいのですが、平日19:00〜は不可能に近いので、せめて『愛欲の罠』と『裏切りの季節』だけでも。
「中国映画の全貌 2007」(k's cinema 7/21〜)
本当は『緑茶』を観たかったのですが、日程的に無理。というわけで、ジャ・ジャンクーのみ再見しようかと。未見の方は『孔雀 我が家の風景』も必見です。
「第29回 ぴあフィルム・フェスティバル」(渋谷東急&ユーロスペース 7/14〜20)
アルトマン特集3本と廣末哲万監督の新作のみチケットを確保済み。
「前田弘ニ監督×佐々木誠監督 特集上映」(UPLINK FACTORY 7/14)
前回テアトル新宿での上映を逃したので、今回は何とかしたいなぁ、とやや消極的に決意。
「松井良彦VS佐野和宏 特集上映」(UPLINK FACTORY 7/28〜8/3)
未見の『豚鶏心中』だけでも。出来れば『ミミズのうた』も観たい。
ファスビンダーに長蛇の列が出来たらしい「ドイツ映画史展望」は諦めざるを得ません。本当は「ケン・ローチの映画1969-2006」(ユーロ・スペース 7/14〜27)にも行きたいのですが、叶わないでしょう。
ラピュタ阿佐ヶ谷で7/1より開催される「湯けむり日本映画紀行」には、吉田喜重の傑作『秋津温泉』と『樹氷のよろめき』、鈴木則文の『温泉みみず芸者』などが上映されるようですので、私は行けそうにありませんが、未見の方は是非。
フィルムセンターの「特集・逝ける映画人を偲んで 2004-2006」も大変なラインナップです。どうしても観なければならない作品だけにしぼって行くつもりです。
いつもどおり、もう当分観られないであろう作品を優先的に観ていきます。